平和主義者だもの
部屋にこもってから3日。どうにも周囲では「すぐに出てくるだろう」って予想が多かったらしいけど、そうはいかない。リターンホームで快適に生活できるからね。
食べる必要も寝る必要もないアルヴァ、めっちゃ便利……。ほんと出会いは最悪だったけどアルヴァ頼りなとこあるわよね。
あれから暗殺者の類も来なかったけど、アルヴァが見張りもしてくれてるし睡眠もバッチリ。
「いや、ほんとこの作戦私だけじゃ成り立たなかったわよね」
「まあ、そこを見越して俺を表に出す形にしたのだろうな」
「手の平の上なのほんとムカつくわあ……」
「けれど、このままで本当に良いのでしょうか?」
「ん? どういうこと、ミーファ?」
一応今回時間稼ぎってことでやってるけども。放っとくと王族か何かが来るわけよね。
うーん……王族が実は犯人とかだとかなり収集つかないけども。
「王族が来るとして、正直誰が来るか想像がつかないんです」
「そういえば何人いるの? 王族」
「そうですね……」
ミーファの説明によると、まずは王様……サリエス・ウル・カルレイ。
第一王子のアルメイス・ウル・カルレイ。
第二王子のイアン・ベルム・カルレイ。
第一王女のエリス・ウル・カルレイ。
第二王女のイゼッタ・ソリア・カルレイ。
第三王女のミーファ・ラヴィ・カルレイ。
「ウルの名を持つのは正妃たる王妃様から産まれたという証。他の名は即妃の地位で決まります。まあ……有体に言うと、私はウルの名を持つ王族と実質同等になります」
「え、そうなの? 私てっきり一番下だってやつかと……」
「いえ。色々と政治の話が絡むのですが、簡単に言いますと私のお母さまが隣国の姫でして……ただ、迂闊に正妃を変えるわけにもいかずそういう風に」
「めんどくさっ……」
何それ面倒過ぎない? 困るなら新しい奥さん貰うんじゃないわよ。これだから王様ってのは。他の王様知らないけど。
いや、でもそうなると……なんかまた話が違ってくるわね?
「そうなると、第一王子とミーファのどっちが偉いの?」
「え? いえ、偉いとかそういう話だと……まあ、アルメイス兄さまですね。王太子はまだ決まっていませんが、年齢的にも実績的にも順当だと思います」
「じゃあ第二王子とだと?」
「……難しいです。イアン兄さまはめんど……難しい方ですけど、第二王子ですし。ただ、一応地位だけでいえば私が上です。ですが、地位だけで全てが決まるかといえばそうでもないので……」
めんどいって言ったな……まあ、いいけど。
つまりウルの名前を持つのは第一王子のアルメイスと第一王女のエリス。その下がミーファで、他の王族がその下……と。うーん、これもしかしなくても王室内のごたごた説確定?
ミーファが王宮内の何かの邪魔で殺そうとした。そういう権力サスペンス的な……。
だとすると、ミーファに地位を脅かされない人が来ないとこれ何も安心できないんじゃ?
「んーと……第一王子か第一王女が来るといいわね?」
「その、私エリスお姉さまには嫌われてて……」
じゃあ選択肢第一王子しかないじゃん。選択肢ないじゃん。もう。
まあ、第一王子が来るのを祈るしかないか……。
「アルヴァ殿!」
そんなことを考えると同時に、ドンドンと叩かれるドアの音。噂をすれば影、とは言うけれど。まさかの第一王子登場ってわけ? ちょっと幸先いいじゃない。
「第二王子殿下とそのご一行がおいでになられます! すでに辺境伯閣下が出迎えに出られています! どうかご準備を!」
「承った、とミーファ殿下も伝えよと仰っている」
アルヴァが勝手に返事してるけど、ミーファもこの3日間ですっかり慣れた顔。まあ、任せて安心って感じだから仕方ないわよね。
しかし、第二王子ねえ……どんな人なのやら。
「ね、第二王子ってどんな奴? めんどい奴だってのはさっき聞いたけど」
「えっと……そうですね。飾らず言いますと」
「うん」
「プライドが高くて自分の考えが常に名案だと思ってて、でもやらかした後に間違いを認められる自分カッコいいと思ってて、そのくせ反対する人を徹底的に嫌う人です」
「会いたくないなあ」
「私もです」
そういうタイプかあ……だとすると多分上から目線で来るわよね。頭が高いみたいな感じで。で、こっちが逆らうと不敬とか騒ぎだすタイプとみた。うーん……。
「……拳はダメとして、ビンタだったら許される雰囲気ってあるわよね」
「すでに手を出す方向で考えていらっしゃいます……?」
「まあ、拳よりはマシだが……貴様のビンタは手加減の度合いがイマイチ信用できんからな……王子の首が一回転でもしたら取り返しがつかん」
「私をゴリラか何かだと思ってんの?」
「モンスターでもない単純生物で済むと思ってるのかバカめ」
「ちょっと⁉」
そんなパワーないっての。私の攻撃力は剣頼りなとこあるんだから。
「まあ、その……出来れば暴力は使わない方向でお願いできたらと……」
「ミーファまで……私だって穏便な手段が好きだからね?」
「見たかミーファ。これが己の暴力性を理解できない獣だ」
「あはは……」
こ、こいつら……私がどれだけ平和主義か見せてやろうじゃないの!