この先のことを決めよう
「……まあ、いいわ。レッドは次は倒す。それより、この後のことよ」
「この後? 王都に行くものだと思っていたが」
まあ、そのつもりだったけどさ。正直ここまで暗殺の波状攻撃受けると一旦考えを整理したくなるわよね。
だって、物凄く大きな問題があるもの。
「私ね、今回の黒幕が誰であるにせよ、人間の国の信頼できる誰かに預ければミーファの件は解決だと思ってたのよ」
「……それで?」
「でも、どうにもそうじゃない。正直、辺境伯も怪しい。そんな状況だと王城で誰が信頼できるのか私に区別がつくはずがない。最悪の場合、人間の王族全員ぶっ飛ばす羽目になる」
「くっくっく……それで魔国に取って返すか? 戦争だな」
正直に言うと、シーヴァたちにも騙された感がある。あいつら、この可能性まで考えて私を送ったでしょ。どうせ死にゃあしないだろうみたいな感じで。覚えてなさいよ。
「とにかく、戻るっていう選択肢はないわ」
「ほう」
「解決策ってのは、常に一歩進んだ先にあるものよ。勿論、死も同じ場所にあるけれど」
「で? 具体的にはどうするつもりだ」
「王都には行かない。辺境伯の誘いも受けない…。それが大前提よ」
たぶん王都に行くのはダメだ。ミーファを返せと言われるのは明らかだし、そうしたときに私が力尽く以外で拒否しきれるか分からない。
そして1度でもミーファを渡せば、何が起こるか分からない。
辺境伯もアウト。あの人が悪人じゃないとしても、もう2度も暗殺未遂が起こった。その相手が私であるにせよミーファであるにせよ、辺境伯の信用は底値だ。
町中もアウト。子どもですら魔族に石を投げる。なら大人の運営する宿で何が起こるか分かったものじゃない。
ミーファの安全を最優先するなら、戻るのが一番いい。でも何の解決にもならない。
だから、此処で決断する必要がある。私が、何をぶっ飛ばすべきなのか。
考えろ。どうせ私にはそれしか出来ない。何かあるはずだ。
あのアホ魔王たちが私をわざわざ送った理由。それは最終的にぶっ飛ばせば解決するからだ。
私に探偵なんか望んでない。私は来る相手をぶっ飛ばすだけ。ならば。
「籠城戦ね。この部屋に立て籠もって、マトモに話が出来る人が来るまで待つ。その間何かしてくる奴がいれば全員ぶっ飛ばすわ」
「なるほど、実に迷惑な手法だ。そんなことをすれば、どれだけ善人ぶっていても我慢できなくなるときが来るだろう。問題は敵じゃない奴も敵になりかねないことだな」
「うっさいわね……じゃあ何か代案でもあんの?」
私がそう聞いてみれば、アルヴァはニヤリと悪い笑みを浮かべる。うーん、すごく悪い顔。
「当然だ……任せておけ。俺が良いようにしてやろう。丁度それ、来るぞ」
「ん?」
確かに複数人の足音が聞こえてくるけど……私たちの部屋の前で立ち止まって、ノックをする。
「バロムス辺境伯閣下のお越しです」
おお、本人かと見せかけて暗殺者って可能性もあるけど……アルヴァが黙ってろと軽く手を振ると、ドアの前に歩いていく。
「こんな時間にレディの部屋に来るとは少々不躾ではないかな、辺境伯殿」
おお、そっち方面で攻めるのね。ていうかレディ扱いされた経験が最近無かったから新鮮だわ。
でも、これってケンカ売ってない? 大丈夫なのかしらね。
「……それについては謝罪する。しかし姫様のご無事を確かめたかったのだ」
「俺がついている以上は問題ない。何より、そちらの人員を信用できない」
「信用できなければどうなる」
「信用できる人物が来るまで待とう。王都であればそういう人物もいるだろう?」
おお、ナチュラルに時間稼ぎにきたわね。まあ、確かに連絡するとかなんとか言ってたもんね。でも誰が来るのかしら?
「……分かった。先触れはないが、王都から王族の何方かがいらっしゃるはずだ」
「そうか。それと食事への毒混入の件も鑑みて、それまでの間は姫への謁見は拒否させていただく。俺たちについても同様だ。少ない人員で確実に守らねばならん」
「……承った。姫様をお願いする」
うーん、さっきとは違うイライラの伝わってくる足音。まあ、そうよね。自分のとこで暗殺未遂事件が2回起こって「信じてくれ」は通用しないわよね。それで私たちが一般人なら貫き通せたのかもだけど、一応一国の使者だしね。
「まあ、ざっとこんなもんだ」
「うん」
「なんだ、その反応は」
「いや、凄いのは分かるしアルヴァが居てよかったとも思うのよ?」
うん、それ自体は凄く感謝してる。してるんだけどさ。それはそれとして、思うことがあるのよね。
「どうして私、こんなめんどくさいことに巻き込まれてるのかなって……」
ミーファのためなのは分かるわよ? でもそれでも、その。私がミーファを保護してる間に頭良い連中がやるべき仕事だと思うのよね。いや、理由も聞いた。聞いたけどさ?
「頭のいい奴に上手く言いくるめられて、便利に使われてる気がする……」
「まあ、概ね間違っていないだろうな」
「やっぱり?」
帰ったら一発引っ叩いても許される気がするわ、ほんと。