やっぱり出たぞ、赤いのが
その日の夜。私は夢を、見た。
此処が何処かは分からなくて。けれど夢だということだけは分かる。
何故かと言われても説明なんか出来ない。夢ってのは、きっとそういうものだから。
だから私は、自己確認のようにこう呟く。
「また夢か……」
「そうね。これは夢だわ。私の夢なのか、貴方の夢なのかはさておいて」
私の目の前にいる私。赤い服を纏った私……のような誰かが、そう答える。
私と同じ容姿に同じ格好。違うのは色だけ。
私の金の髪、そいつの青の髪。
私の青の目、そいつの金の目。
私の青い服、そいつの赤い服。
大きなお城のダンスホールのようなこの場所で、私と赤い私は向き合っていた。
「えーと……レッドアリス、ってことでいいのかしら?」
「貴方からするとそうね。けれどね、古い私。私が古い私に勝っていることが2つあるわ」
「へえ、聞いてみましょうか」
私よりも大分スレてない……純粋な笑みを浮かべるレッドアリスは、その笑顔をパッと花開かせる。
「ええ、勿論だわ! まず、私の方が貴方より積極的だわ! 流されるままだなんて絶対にならない。私はね、もっと目的を見つけて自主的に動けるもの!」
「へえ、たとえば?」
「まずは毒混入の犯人探しだわ! 出会う人を調べていけば、いつかあの呪薬とかいう毒薬の所持者に辿り着くはずだもの!」
うん、まあそうすれば犯人も見つかるでしょうね。私が人間の辺境伯の城で大暴れしたって事実は残るけど。まあ、もう息子……名前なんだっけ……あいつに膝入れたから今更な気もするけど。
「そしたらね、絶対指示してる人がいるから、その人をどうにかするわ!」
「どうにかってどうすんのよ」
「浄化しましょ! この世の愛と正義を守るのだわ!」
「うえ……アンタ、ブラックアリスとは違う方向性でヤバいわね」
「あら、私は黒とは違って愛を知っているわ。もっと世界は愛で満たされなくちゃ!」
綺麗な眼してるわね……うーん……言ってることは正しい……正しくないか……浄化とか言ってるし……。
まあ、とにかく1つ言えることがあるわね。
「まあ、愛とか正義とかは大事だと思うけど。そこまで興味ないのよね。のんびりスローライフが私の望みよ」
「あは、嘘つき♪ 誰よりも苛烈な性分を持ってるくせに、そんなもの出来るはずがないのだわ」
そんなことないでしょ……ていうか、段々イライラしてきたわよ。さっきからなんだその口調。かわい子ぶりっ子か。
「まあ、いいわ。どうせアンタも身体を寄越せとか言うんでしょ? 2回目だから分かるわよ」
「んー……」
スペードソードを構える私にレッドアリスは首を傾げてみせると、スペードソードの剣先に軽く指を触れさせて。
「別にいいのだわ」
「は?」
「そんなことする意味は、私にはないのだわ」
……どういうこと? 意味が分かんない。身体を奪う意味がない……って理解でいいのかしら。
もしそうなら、敵対する理由はない……けども。
「ごめん。口先で丸め込まれる自信あるから、やっぱり此処で決着つけとかない?」
「野蛮なのだわ」
「自覚はある。でもまあ……まず自分を愛することから始まるっていうし、私は自分のこと大好きだし」
「末期なのだわ」
「うっさい。なんかこういうスッキリしないのは嫌いなのよ。絶対何か企んでるでしょ、言いなさいよ」
「うーん……まあ、企んでるけども。でも、貴方は愛も正義も足りてないから、どうせ私に頼ることになるのだわ」
よし、こいつやっつけよう。企み即斬よ。問答無用で振るったスペードソードを、何処から出したスペードソードでレッドアリスが受け止める。
「あー、やっぱり使えるのね」
「勿論だわ。ついでに言えば、黒い私のときのようにいくと思うなら大間違いなのだわ」
「へえ?」
「だって……」
ん? これ……あれ、もしかして力押しで負けてる!? レッドアリスの剣に押されてる……!」
「こんの……!」
「だって、私は古い私より強いもの」
「わわっ!?」
こ、こいつ! 蹴ろうとした私の軸足を蹴った⁉ とにかく態勢を……!
転がって体勢を立て直した私の首元に……危なっ! 身体を逸らして避けながら、そのまま回転してスペードソードを振るう。でも、そこにはもう居ない。
「……げっ、それは」
レッドアリスが持っているのは、間違いなくボムマテリアル。
「クローバーボム」
「クローバーボム!」
2つのボムが対消滅して。その隙を狙って突貫した私と、同じように突貫したレッドアリスのスペードソードがぶつかり合う。
「……やっぱり私たちの決着はこれしかないみたいね」
ジョーカースラッシュ。レッドジョーカースラッシュがどんな技かは私はよく分かってないけど……まあ、たぶん勝てる……はず!
「うーん……貴方には残念なお知らせだけど、何にでも制限時間はあるものだわ。王子様との出会いに一二時の鐘が鳴ったように」
ゴーン、と。ダンスホールにあった時計から音が鳴り響く。それと同時に、世界が崩れていって。
「何か古い私ではどうしようもないことになったとき、私のことを思い出してほしいのだわ」
「え、やだ……」
ガバッと起きると、まだ夜で。部屋の中はシーンとしている。
「……ていうか、鳴るのは時計じゃなくて鐘でしょうがよ」
「何の話だ」
あ、アルヴァいた。そういえばそうだったわね。