表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/136

私はレディ。すごくレディ。

「そうは言うがな、アリス。これは放置するわけにはいかん問題だ」

「だから何かやっても遺恨残るって言ってんのよ」

「構わん」

「はあ?」

「何らかの決着をつけたという事実が必要なのだ。これは、もはやどうやっても後々祟る。ならば少しでも憂いを断たねばならん」

「難しいこと言うな。私にも分かるように言え」

「ミーファの扱いが『裏切り者』になる可能性がある」

「……そんなに?」

「そこのアホの発言を思い返せ。そして、ああいうのがたくさん出るかもしれないと考えろ」


 ううーん……「純粋な姫様を騙した」とかだっけ? まあ、そこから「騙された愚かな姫」「魔族を引き入れた姫」とかになる可能性は確かにある……かしらね。

 だったら、ますます手を出したら拙い気もするんだけど……。


「うーん……」

「そこの子ども」

「ん?」


 あ、もしかして私デリックになんか呼ばれてる? 子どもってなんだ子どもって。いや、この姿は子どもでいいのかしら。いや、ダメでしょ。麗しいレディでしょうが。


「何かしら、そこの大人」

「なっ……」


 なっ……じゃねーのよ。無礼には無礼返しするって決めてんのよ私は。


「なんだかんだ貴様が一番喧嘩っ早いのがな……」

「うっさいアルヴァ」


 私のはなんかめんどくさい意図とか挟んでないもん。

 一応チラリと辺境伯に目を向けるけど……頭痛を押さえるような表情。

 まあ、美少女とまで喧嘩してたらそうもなるわよね。一見魔族側の代表者はアルヴァだし。

 私の扱いはまあ……「なんか分かんないけど此処にいる美少女」ってとこかしら?


「多少姫様に気に入られているからといって、貴族に無礼を働いていいわけではないぞ……!」

「私別にこの国の人間じゃないし。魔族の国に籍あるし。あと高圧的な男嫌い……うん、嫌い」

「何故俺を見る」


 アルヴァは高圧的の権化だったからかしらね……今はそんなでもないけど。


「とにかく、人と話をする態度じゃないわよね。えーと……辺境伯、サマ? 息子さんのこと、なんとかしていただけますか?」

「……ああ。デリックを連れて行け」


 騎士が動き始めた、その瞬間。何かが私にかけられる。


「下賤が……! ちょっと顔がいいからと甘く見ていれば……!」


 なんだこれ。あー……ワインだこれ。この服は別にワインで汚れたりはしないけど、けど。

 即座に椅子を踏み台に蹴ってテーブルを飛んで。デリックとかいうアホの顔面に思いっきり膝を入れる。


「ぷあっ……!?」


 転がっていく無様なデリックをそのままに、私はテーブルの反対側に華麗に着地する。うーん、完璧。


「私はちょっと顔がいいんじゃないのよ。最高に顔がいいのよ。顔だけじゃないけど」

「ああ、いい性格をしているからな」

「うっさいアルヴァ」


 そんな掛け合いをしている間にも、よろよろとデリックが立ち上がろうとする。あら頑丈。まあ、ノリで入れた膝だからそんなもんかもしれないけど。


「き、貴様……! 今自分が何をしたか分かっているのか⁉」

「膝入れた。あと今から平手も叩き込むわ」

「う、うわー!?」


 胸倉を掴んで軽く手を振り上げれば、騎士たちがオロオロとしているのが視界の隅に見える。


「待て、アリス」

「何よアルヴァ。止める気?」

「ワインの返礼に膝を入れただろう。ビンタは過払いではないのか?」

「……」


 まあ、一発は一発っていうし……うん。


「そうかも」


 パッと手を離すと、騎士たちがデリックを引っ張って何処かに連れて行く。


「お、覚えていろよ! この恥辱! 必ず……!」

「デリックさま! そのくらいで……」

「早く連れて行け!」


 辺境伯の声が響き、何やら騒いでいるデリックが扉の向こうに連れていかれて。


「……やっぱビンタしてきていい?」

「やめておけ、座れバーサーカー」

「誰がバーサーカーよ」

「貴様だ。座れ」


 アルヴァがパチンと指を鳴らすと、椅子やらテーブルやら……あと私にもかかったワインが水滴になってデリックのワイングラスの中に戻っていく。


「なんという精密な魔法……」

「この程度は児戯だ。さて、辺境伯殿は此度の件、どうされるのかな?」


 アルヴァの魔法に驚いていた辺境伯は「うっ」と呻くと、難しそうな顔をする。まあ、そうよね。あれ息子なんでしょ? 色々と情も絡むものね。まあ、膝入れたのは私だけど。ビンタしようとしたのも私だけど。


「……しばらく謹慎させましょう。すでにアリス殿がその……膝蹴りをしたので……それで罰は受けたということにしていただけないでしょうか」

「ああ、それでいいだろう。こいつも今見た通り沸点が低くてな。実力もあるから、先程の御子息と一緒にしておけば、今度こそ御子息の首がもげるかもしれん」


 おいこら。私だってちゃんと手加減できるし常識くらい弁えてるわよ、まったくもう。

 この場でツッコミ入れない程度の配慮だって出来るんだからね。

 まあ、ひとまずジュースでも飲もうと思ってグラスを傾けて。


「……ん?」

「どうした?」

「えーと……」


 いや、これ……そういうことよね。え、まさかデリック? じゃ、ないわよね。このタイミングなんて、自分が犯人だって言ってるようなもんだし。でも、うーん……実際、これは。


「……ハート削れた」 


 毒じゃん、これ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] そういうオチが 辺境伯か、部下の仕込みか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ