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その頃、人間の国の王都では

 人間の国、カルレイ王国。

 数ある人間の国の中でも最大のこの国は、文字通り人間の代表であると言っても差し支えない。

 その王都レイウルクは人間の文化や軍事の最先端であり、人間の中での頂点を目指す者は必ずレイウルクを目指す。

 それはレイウルクの名声を更に高め……最近では、もう1つの「頂点」と言える存在がレイウルクの名声を確固たるものにしていた。

 勇者タカユキ。異世界より召喚されし、人間の最高戦力である。

 近頃増えつつあるモンスターへの対抗策としてこの世界に呼ばれた勇者は期待通りに成果を上げており、今日も付近のモンスター討伐へと出かけていた。

 そして……そんな彼を召喚した現場である王城、レイウルク城。

 その部屋の1つに、1人の男がいた。

 彼こそはこの国の第一王子、アルメイス。長く美しい銀の髪は窓から差し込む光を受けてキラキラと輝き、切れ長の青い目は国政関連の書類を隅から隅まで見つめている。

 細くはあるがしっかりと筋肉のついた身体は銀や金で飾られた白い服の上からでも分かる、しっかりと鍛えられた体だ。恐らくは惰性というものと無縁だろうことがよく分かる。

 事実、前騎士団長を師匠として正統なカルレイ騎士団流剣術を修めており、魔法に関しても高名な魔導士を師として招き学んでいる。

 言ってみれば非常に有能かつ美形の王族であり、しかし未だに婚約者を決めていない事でも有名だった。

 ハッキリ言えば、アルメイス以外に王太子となり得る人物はいないとすらされている。他の王子、あるいは姫はアルメイスには何歩も及ばず、それどころか人格的にもあまり民には好かれない性格をしている。

 アルメイスがこうして国政関連の書類を処理しているのも、現王から「アルメイスならば大丈夫である」と太鼓判を押し任せているからに他ならない。そう、王太子の予行演習のようなものであるし、実際にアルメイスはその期待を大幅に上回る勢いで応えている。

 だからこそ婚約者を早期に決めることが求められているのだが……。


「アルメイス様」

「なんだ? ロンデ」


 アルメイスが書類を処理する手を止めると、側近候補として側についている青年ロンデが真面目な表情で「婚約者の話ですが……」と切り出し、瞬間にアルメイスは大きく溜息をつく。


「君までその話か、ロンデ。最近は誰も彼もがその話で困る」


 そう言うと部屋の隅に控えていた騎士が居心地悪そうに身動ぎするが、アルメイスは気にした様子もない。


「それは仕方がないのでは? 陛下や王妃殿下に何とかしろと言われる僕たちの身にもなってください」

「そうは言うがな、ロンデ」


 言いながらアルメイスは執務室に飾られた1枚の大きな絵を見上げる。最近複製させた、私室にも置いてある絵だ。

 人物画であるらしいソレには、青い服と鎧を纏った金色の髪の少女が描かれている。

 細部は色々と異なるが、何処となくアリスに似ているその少女の絵を見上げ、アルメイスはフッと微笑む。


「その少女ですか……最近は他の王子殿下もその少女のことばかりだそうで」

「タカユキ殿がペラペラ喋るからな……まあ、うっかり私室の絵を見られた私も迂闊であったが」


 そう、凄まじい力を持つ、この世のものとも思えぬ美しい少女。

 勇者がタカユキなのは間違いないが、それに勝るとも劣らない力を持つ人物なのではないか?

 そんな憶測が広がれば、アルメイス以外の王子たちは「その少女を手に入れることで何かが変わるのではないか」という考えに自然と囚われていく。あるいはそれこそ、アルメイスに打ち勝ち立太子することも出来るかもしれない。あるいは……王太子の地位などどうでもいいが、自分の今後のために手に入れようと。まあ、そういうことを考えているわけだ。


「私を暗殺しようとする動きも最近はめっきり減ったからな」

「そうですね。ですが……」

「ミーファのことか。あの子も可哀想にな……まだ見つかっていないんだったな」

「はい。王家の影であれば辿ることも可能なのでしょうが」

「私にそれを動かす権限はないよ。命令権を持つのはただ1人、国王陛下だけだ」

(とはいえ、父は動かないだろうが……ね)


 王位継承問題は、どの世代でも少なからず血が流れるものだ。それを嫌い1人しか子を作らなかった王もいたが、傍系を含む他の王族によって謀殺され乗っ取りを企まれたこともあった。

 結局のところ、そういったものを跳ね除けられる強い者でなければ王になってからでも不安要素が大きすぎる。だからこそ、諸外国などの外因によるものでなければ王はそうした継承バトルは基本的に静観している。そして恐らく今回は……。


「まあ、あの子の無事を祈るばかりだ。居所さえ分かれば私が直接向かってもいいのだが」

「だ、第一王子殿下!」


 そんなことを言うアルメイスの下に飛び込んできたのは、1人の騎士だ。アルメイスが個人的に手なずけておいた騎士だが……随分と慌てているように見える。


「どうした? まさかミーファが見つかったのか?」

「そ、その通りです! そ、それと……『例の少女』が同道していると! 第二王子殿下が手勢を率いてすでに城を飛びだされました!」


 驚いたような表情で聞いていたアルメイスは「ははっ……」と自嘲するような笑みを浮かべる。


「流石だなイアン。瞬発力であれば君が一番だ。しかし、それだけでは満点とは言えないな」


 アルメイスはツカツカと部屋を歩き、そのまま廊下へと出ていく。


「国王陛下に謁見する。先触れを頼む」

「は、今すぐに!」


 走っていく騎士の姿は……これからカルレイ王国で始まる騒動を予見しているかのようだった。



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