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辺境伯の城2

「で? 何しに来たのよ。嫌味を言いに来たわけでもないんでしょ?」

「ああ。俺はそれほど暇ではない」


 そう言いながら、アルヴァは「この城の話だ」と切り出してくる。まあ、わざわざ来るんだからそうなんだろうけど……別にそれなら念話でしてくるでしょうに。わざわざそれをしない理由があるってこと?


「分かっているとは思うが、あまり歓迎されていない。まあ、主に俺のせいではあるが」

「まあ、でしょうね。街の反応がそんな感じだったし」


 馬車に石投げてきたものねえ……お姫様乗ってるのに、アレ不敬罪とかいうやつじゃないの? 別にこの国の法律知らないけども。


「必ずしもそうとは限らんが、毒を盛られる可能性もあるだろう。貴様が防げ」

「……一応聞くけど。私がどうやって防ぐのよ」

「毒くらいでは死なんだろう?」


 え、どうかな……毒盛られたことないから、ちょっと分かんないかな……。

 でも、うーん。ライフオブハートの能力を考えるに、致死毒程度ならハートが削られるだけで死なない気もする。あとはまあ、身代わりドールも持ってるけど……うーん。


「い、いけませんアルヴァ様! 私の代わりにアリス様の命を危険にさらすようなこと……非人道的ですわ!」

「ソレは非常に頑強だ。毒を樽一杯飲ませても死にはせん」

「死ぬかもしれないでしょーが」

「……ほらな?」

「まあ……」


 え、何よ。私何か間違えた? ちょっと、何よその目は。2人して残念なものを見る目を向けてくるんじゃないわよ。


「アリス様……そんな素直なところが私は魅力だと思いますわ」

「何なの、そのフォロー……」

「とにかくだ。全てのことに備えて然るべきだ。それは貴様も理解できるだろう?」

「まあ、そうね」


 元々ミーファが誘拐された時点でどこに敵がいるか分からないんだから、その辺は心配してし過ぎってこともないわよね。


「体裁上、俺が積極的に何かをするわけにもいかん。魔族の罠だなんだと言われてはたまらんからな」

「あー……向こうはそう言い張れば乗り切れる可能性もあるってことね」

「そういうことだ。無論いざとなれば俺も動くが……出来ればそうならんのが一番だ」

「まあ、それはそうね。でも……よく考えれば、こんなタイミングで暗殺しにくるってこともないんじゃない?」


 此処で何かやれば辺境伯が犯人だと言ってるも同然だもの。幾らなんでも、そんなことをするはずはないと思うのよね……。もっと、犯人が分からないようなタイミングでないと仕掛ける意味も……。


「おっと」


 アルヴァが闇の塊に変化すると、私の腕に絡みついて赤い宝石付きの腕輪になる。なんか久々ね、こういうの。ミーファが「まあ」と驚いたような声をあげるけど……うん、当然の反応よね。そしてアルヴァが「こう」なった理由は明確だ。コンコン、と扉を叩く音と共に女性の声が聞こえてくる。


「失礼します。お水をお持ちしました」

「ええ。どうぞ入ってください」


 ミーファが慣れた様子でそう答えれば、扉を開けてメイドさんみたいな人が入ってくる。その手にはお盆に乗った水差しと、コップが2つ。なんか綺麗な感じのやつだけども……こういうのって銀の食器とかじゃないのね。

 お盆を静かに机に置くと、メイドさんは一礼して去っていく。残されたのは私とミーファとアルヴァ(腕輪)と……お水だけ。


「……お水、ねえ」


 まさかこれに毒が入ってるってことはないと思うけども。どれどれ……?

 コップに水を注いで、飲む。うーん、ちょっとぬるい。


「なるほどね」

「どうだ。毒は入っているか?」

「んー……入ってないんじゃないかな」


 ハートが削れてないし。何かの有害な薬が入ってるなら、ライフオブハートが反応するものね。

 反応しないってことは、少なくとも人体には有害ではないって証拠のはず。


「でもこれ、家のお水の方が美味しい……」

「……そうか」

「まあ、それは私も感じていましたわ……あのお屋敷で飲んだお水は他の何処よりも美味しかったですもの……」


 いやまあ……今日も夜はミーファを家に戻す予定だけども。これ、水差しの中身とか取り換えて来たくなるわね。まあ、一応我慢するけども。


「ところでさあ、アルヴァ」

「なんだ?」

「さっきもちょっと考えてたんだけど、この街の魔族への敵意、おかしくない? まるで魔族に誰か殺されたみたいな反応だったけど」


 いくら人間と魔族がそんなに仲が良くないっていっても、子どもが石投げるのは確実におかしいと思うのよね。親を見て子どもも同じことをするっていうけれど……どうにも、そういう軽いのじゃないようにも見えるし。


「まるで、あの子ども自身が魔族を憎んでるように見えたわ。相応の事件があったか、そういう風に教育されたんでもないと、ああはならないと思うんだけど」

「……可能性はあるだろうな」


 私の疑問に、アルヴァはあっさりとそう答えてみせる。


「此処は魔族と人類の間で何かあれば一番最初に被害を受ける街であり、人類が魔族に仕掛けるのであれば最前線となる街でもある。まあ、過去にはそういうことはなかったが……いつあってもおかしくはないからな」


 ……まあ、そうなんでしょうね。過去に何度も「勇者」が魔族を攻撃した。

 それなら……同じことをやり返されない理由なんて、何処にもないもの。

 別にそこに関しては、私は人間を擁護する気は……ない、かな。

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