人間の街
全部の準備が出来れば、私とミーファはキャビンに、そしてアルヴァが御者席という配置で再び進み始める。まあ、私が護衛してるって構図になるわけだけども。
「そこの馬車、止まれ!」
馬車の外から聞こえてくる兵士の制止する声は、まあとりあえず予想通りだ。問題は此処からだけど……。
「魔族が何の用だ!? 一体何を持ち込もうとしている!」
「貴人だ。そして俺は今代魔王から直々の使者だ。そちらの責任者を呼んでもらおうか」
「何を怪しいことを……!」
まあアルヴァがパッと見で怪しいのは分かるけども。うーん……魔族って時点で此処まで警戒されるのね。
「アリス様……」
「大丈夫よ。ちょっと出てくる。適当なタイミングで出てきて?」
ミーファにそう言って、私は馬車から出る。出て……うえっ、3人くらいが槍構えてる……。
その3人が私を見てハッとしたような表情になるのが分かる。フフン、惚れたわね?
「可憐だ……」
「なんという……こんな少女が存在するのか……?」
「そうか……これが、美少女……」
「ね? これが普通の反応ってやつよ」
「チッ」
なんで舌打ちすんのよ。私の美少女っぷりにどんな疑義があるってのよ。
さておき、なんだかポーッとしている兵士たちに私はここぞと話しかけていく。
「実は、普人の悪人集団に誘拐されていたミーファ姫を保護しまして。無事にお届けするべく護衛しているんです」
「そ、そうですか……って、えっ?」
「ミーファ姫!?」
「姫様が!?」
「ええ」
私がそう頷けば、打ち合わせ通りにミーファが馬車から降りてくる。その姿を見て兵士たちが「おおっ」と声をあげる。
「絵と同じ……本当に姫様だ……」
そう兵士の1人が呟いて。次の瞬間、ハッとしたように全員がその場に膝をつく。
「姫様……ご無事で何よりでございます!」
「心労をかけてしまいましたね。ですが、此方の方々のおかげで何事もなく無事に救われました」
「はっ……姫様がご無事であらせられることこそが、至上の喜びでございます」
「すぐに辺境伯閣下に伝令を出します。まずは門の中にお入りくださいませ」
うーん、お姫様パワーよね。とんとん拍子で話が進むわ。ミーファを連れて馬車に戻ろうとすると、兵士の1人が「あっ」と声をあげる。
「あの……そちらの魔族……の、方、と。貴方のお名前を頂戴出来ますか?」
「アルヴァだ」
「アリスよ」
とまあ、そんなわけで門の奥に入っていくと……そこは馬車がたくさん集まる広場になってるみたいで、色んな大きさの馬車が停まったり動いたりと忙しそう。
「貴賓用のスペースに誘導します。此方へ」
そうして兵士の1人に誘導されるまま、如何にも広くて便利そうな隅に確保された場所に馬車をアルヴァが停める。その近くにも別の兵士が立哨していて、そもそも誰かが近づけないようになってるみたいだけども。
急にガン、と何かが何処かにぶつかる音がしてミーファが「キャッ」と声をあげる。
「悪い魔族め! 出て行け!」
「こ、こら!」
「やっつけてやる!」
再びガン、ガンと連続音。今度は馬車にぶつかったみたいだけど、この声……子ども?
「いい加減にしろ! 子どもといえど捕縛するぞ!」
「逃げろー!」
「兵士のおっさんが人間を裏切ったぞー!」
あー、なるほど……近所の子どもかあ……ていうか子どもが「ああ」いう感じなのって、ほんとどうなの……?
「アリス様……申し訳ありません。我が国の国民が……」
「別にいいわよ。人間と魔族の関係がどんな感じかは分かったし」
「王族の一員として誠に申し訳ないです……」
「別にミーファのせいじゃないでしょ?」
ミーファが仲良くしましょって一言を言って解決するような問題でもないだろうし。でもまあ……魔族の国では人間に石投げないし、そこはマシかしらね?
『ククク、人間の国がどういうものか、分かっただろう?』
「まーた念話で話しかけてくる……ていうか一部で全体を判断する気はないわよ」
『そうか? どんな感じか分かったんだろう? 概ねこんな感じだぞ』
「乙女の会話に耳澄ましてんじゃないわよ、まったく」
でもまあ、全部でこの調子だとすると……ミーファを助けられたのは、ほんと正解だったってことよね。万が一あそこでミーファが死んでたら、全部魔族のせいになってた気もするし。
……うん、そうなのよね。人間がミーファを誘拐して、魔族の国まであの延々とした荒野を運んできたのよね?
だとすると……どういうルートで運んできたのかしら。今見た感じ、結構出入りはしっかりしてそうなんだけど……。
「……うーん。今回の件、本当に面倒そうね」
「申し訳ありません……」
「だからミーファのせいじゃないってば」
嫌な予感がするわね……ほんと、なんで私こんなのに巻き込まれてんのかしら。
王族事情にしろ人類事情にしろ、関わりたくないんですけど?
……まあ、がっつり関わっちゃってるから投げ出したりはしないけど。
「ま、いざとなればボムで全部吹っ飛ばしてあげるから」
「ボムのことは分かりませんけど、なんかそれはやめといたほうが良い気がしますわ……」
そうね。私もそう思う。はーあ。