これからの話をしよう
そんな男連中との会話を終えた後、私は早々にリターンホームで戻ると、リビングに集まっていたリーゼロッテとミーファの前で宣言する。
「えー……今から人間の国方面に向かうことになったわ」
「あ、そうなんですの?」
「ということは……アリスさまとお別れですか!?」
「んー……そこが難しい話なのよね」
人間の国に行ってミーファを向こうの人に渡して、それでめでたしなら別にいいんだけれども。どうにもそういう話じゃないのよね。だから難しい。いやほんとどうしたらいいの?
「とりあえず、難しい話はアルヴァが全部覚えてるんだけども」
「貴様の脳には期待してない」
「私も期待してないわ。で、えーと。とにかく黒幕を潰そうって話なのよね」
なんか可哀想なものを見る目でアルヴァが凄い見てくる……でも仕方ないでしょ、私に難しい話が理解できると思うんじゃないわよ。
「で、その辺をどうにかしてミーファが安心できるようになってからって話になったわ」
「そう、ですか……」
「あんまり嬉しくない?」
まあ、お姫さまって色々窮屈そうだもんね。気持ちが分かるとは言わないけど、私に無理そうなのは分かるわね。
「いえ。私も一国の王女です。いつまでも義務から逃げているわけにもいきません。ですけど……アリスさまとお別れするのは寂しいです」
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど……ミーファって立派よね。真似できないわ」
「アリスさんって責任感とは対極に居ますものね」
「そうそう、責任とかそういうの……ってこらリーゼロッテ!?」
なんてこと言うのよ、まったくもう。そりゃ責任感って言葉は大嫌いだけど。
「まあ、アリスさんのことはさておいて。そうなりますと私はまたお留守番ですの?」
「そうなるわね」
「ああ、貴様がまだ狙われている可能性を否定できないからな」
「ふーん。別に外出る気は一切ないから楽でいいですわね」
此処は快適ですもの、とか言ってるリーゼロッテだけど……うん……まあ……いいんだけど。
「さて、では具体的な話だが……そうだな。作戦としては単純だ。ミーファ、貴様はアリスと離れがたいという気持ちを最大限に表現して貰うことになる」
「と、いいますと……」
聞き返すミーファに答える前に、アルヴァは私とリーゼロッテに向かってしっしっと追い払うように手を振る。
「貴様らは何処かに行ってろ。アリスは演技できると思えんしリーゼロッテは口が軽そうだ。2人とも畑にでも行ってろ」
「失礼じゃありませんの?」
「正当な評価だ。さっさと行け」
まあ、私も演技できる自信はないし……リーゼロッテを引っ張って畑に出る。
うん、今日も豊作な感じ。私が収穫しないと一生このままなんだけど。
「もう、アルヴァさんてば失礼ですわ! アリスさんはなんとも思いませんの!?」
「別にー? ていうかリーゼロッテは私だけ知らない何かを知ってたとして、私に言わない自信ある?」
「ありませんわ! 凄く話したいですもの!」
「そっかあ……」
まあ、私のことを好いてくれてるってことなんだろうけど。よく鉤鼻から最後まで逃げられたわね、と思わないでもない……。
「さて、と。夕飯収穫しましょうか」
「何を作るんですの?」
今まで食事を作る際にリーゼロッテも連れてきたせいか、すっかり慣れてるけど……アルヴァは連れてくる度に嫌そうな顔するのよね……。なんか法則が無茶苦茶だとかなんとか。そんなもん知らん。
「そうねえ……たまにはステーキにでもしてみましょ」
「とすると……お肉ですわね?」
「そうそう。あとはソースかしらね」
言いながら私は手近なつるを引っ張る。そうするとポポポーンと牛肉の塊が飛び出してくる。どの部位から知らない。だって「牛肉」は牛肉なんだもの。それ以上は知らない。アルヴァも考えて苦悩してたことが私も分かるはずもない。
「これでお肉は充分ですわね!」
「え? いや、あと3つかなあ。ステーキは牛肉1個で1つだし……」
言われてリーゼロッテは、手の中の牛肉の塊をじっと見る。あれ何キロあるのかしらね……5キロくらい? もっとあるかしら……。
「え? こんなにあるんですのよ?」
「そうね。あと3つ」
「こんなにあるんですのよ!? いつものことだから黙ってましたけど、どうなってるんですの!?」
「ちょっと、牛肉押し付けないでよ! ひんやりするでしょ!?」
「これ普通に切って焼くだけですわよ!?」
「それやったら牛のタタキが出来るのよ!」
「ワケが分かりませんわー!」
ええい、私だって分かんないわよ牛肉を頬に押し付けるんじゃない!
とにかく牛肉とタマネギと醤油(ペットボトル入り)、ニンニクと砂糖(袋入り)をフライパンにポイッとするとステーキ1人前の出来上がり。
「改めて疑問に思い始めるとドツボに嵌まりそうですわ……」
「世の中知らなくてもどうにかなることはいっぱいあるのよ?」
「……まあ、それもそうですわね」
すぐに納得してステーキのお皿を運び始めるリーゼロッテだけど……うん、そういう切り替えの早いとこ、嫌いじゃないわよ。