魔王城にて
王都廃棄街の屋根やら壁やらを足場に飛んで、やがて王都の中心部へと辿り着く。
立派な魔王城の城門前にハーヴェイとアルヴァが降りて、少し遅れて私が着地。
結構遠かったわね……まあ、王都の端の更に先なんだから仕方ないけど……城門、開きっぱなしなのね。
魔族の門番が立ってるから必要ないのかもだけど……ハーヴェイを見て明らかにギョッとしてるのが分かる。
「ま、魔王様!?」
「うむ、この2人は客だ。アルヴァとアリス。すぐに城中に伝達せよ」
「は、はい!」
門番の魔族のうちの1人が何処かへ飛んでいくのを見てると、ハーヴェイが「来るがいい」と案内してくれる。その先は……前に行ったことのある、クソメガネ……シーヴァの部屋だ。
「入るぞシーヴァ!」
ノックも返事も無しにハーヴェイが部屋の扉を大きな音を立てて開けると、相変わらず書類の積み上がったデスクにシーヴァが迷惑そうな顔をしながら座っていた。
「……魔王様。出来れば事前に先触れをください。私がいなかったらどうなさる気だったのですか」
「そのときは探すまでだ。なあに、余がお前を探してると言えば城中がお前を探して引っ張ってくるだろうよ」
「まあ、その通りでしょうね……はあ……」
溜息をつくシーヴァだけど、不思議と同情の気持ちとかはわいてこない。だってこの部下にしてこの上司ありっていうか……まあ、どうでもいいんだけど。
「それで、魔王様がいらっしゃるということは、例の石の件ですか?」
「そうだ。こっちのアルヴァに見せてやろうと思ってな」
「そうですか。丁度此処にも1個あります」
シーヴァが机の上にある、ケースに入った半透明の石を指し示す。なんか宝石でも飾ってるみたいになってるけど、何なのかしら。
「なんで飾ってんの? 人間材料の悪趣味な石なんでしょ、それ」
「そうですね。ですが……逆に言えば、それだけなんですよ」
「え?」
「フン……そんな議論は何処か隅のほうでやっている。俺が見れば済む話だ」
「ええ、どうぞ」
アルヴァはシーヴァからケースを奪うと、開けて中の魔眼石を取り出す。それを少しの間眺めていて……「ん?」と声をあげる。
「なんだ? これは……魔眼石? こんなものがか?」
「何よ。分かるように説明なさいよ」
「そこの男の言った通りだ。これは人間を材料にした悪趣味な石で、それにより相応の魔力を籠めた魔石と化している」
「うん」
「だが……それだけだ。魔眼石? いいや、これはコアマテリアルですらない。ただの作り方が醜悪で、少しばかり強い力を持つ石というだけだ」
「……加工したらいいって話じゃないのよね?」
「そうだ。こんなものをどう加工したところで魔眼にはならん」
……どういうこと? コアマテリアルの計画を元にした魔眼製造計画。人工魔女。私たちは今までそう考えていた。でも、そういう話じゃないのなら……何のためにこんな石ころを作ってたっていうの?
「興味深い話だな。余も報告を受けてはいるが、量産体制に入っていたところを見るに、それを魔眼石だと犯人が信じていたと仮定していいだろう」
「はい。だからこそ念入りに調べましたが……それが魔女の天眼の代用になる可能性はゼロです」
「そうか。なら犯人の裏にいる連中は何を目的としている?」
「調査中です。こんなものを作る意味がそもそも不明ですから」
……そうよね。犯人が自分たちであんな機械を用意したとはとても……ん?
機械? ちょっと待って。この世界、機械なんてあったっけ?
「ねえ、アルヴァ」
「ん? なんだ」
「あの魔眼石を作ってた道具って……そもそも、ああいう技術って存在するの?」
『貴様が機械とか言ってたやつだな。あれは少し説明が面倒だが錬金術だ』
念話で話しかけてきながら、アルヴァは軽く咳払いをする。
「貴様が見たという道具は恐らく錬金道具だろう。聞く限りでは人類の技術によるものだな……先代勇者がドワーフと共同で作っていたはずだ」
「錬金、ねえ……」
科学技術を持ってきたけど上手くいかないから出来るとこだけ再現したみたいな感じなのかしらね。
それで人間をどうこうするものが出来上がってるのは全然笑えないけど。
「その機械も回収して分解しています。比較的最近作られたものであるようですが、あの犯人たちは何も知らないようで……正直調査は行き詰っております」
「ほう? 珍しいことを言う」
「あれらは現地で金で集められただけのチンピラどもです。知っている情報が無いに等しい……尋問するだけ時間の無駄です」
シーヴァはそう言うと、アルヴァがつまらなそうに机に戻した魔眼石のケースに軽く触れる。
「問題は、何故こんなものをあんな大掛かりな錬金道具を持ち込んで作っていたのか。正直、露見するリスクはかなり高いと分かっていたはず。それでもやる理由があった……その理由が何であるのか? これがまず最初に解かねばならない謎です」
露見するリスク、ねえ。それでもやらなければならなかった。と、なると……あ、もしかして。
「見つかりたかったんじゃないの?」