目的って何?
そういえば数代前までは勇者を送り込んできていたっていうし、王都廃棄街もその絡みだったわね。
ていうか、勇者も召喚されてるし。まさかこっちに来たりしないでしょうね?
「ねえ、アルヴァ。一応聞くけど、こっちに攻め込んでこなかった勇者っているの?」
私がそう聞けば、アルヴァは馬鹿にしたようにフッと笑う。
「以前言っただろう? 王都は何回か壊滅している。全て勇者のせいだ」
「うえ……てことは今回が例外って考えるのは楽観的かしらね」
「そうだな。昼に月が出て夜に太陽が出るようなことがあれば、あるいはそういうことも起こるかもしれん」
「絶対ないってことじゃないの。めんどくさっ!」
私がソファにだらんと身体を預けると、ミーファが「勇者様……いえ、勇者ですか……」と呟く。なんで今言い直したの?
「城にいたとき、見かけた記憶はありますね。アリスさまの敵なんですか?」
「敵じゃない……と思う……たぶん……」
でも此処襲ってきたらどうかなあ。ぶっ飛ばすかもしれない……いや、ぶっ飛ばすな……間違いない。
だからって人間と魔族の戦争とか関わりたくないんだけど。
「つーか、その話はいったん置いときましょ。勇者じゃなくて今の本題は魔眼石だし」
「その件だがな。魔王の手先はそこのポンコツ魔女を守れと言ったのだろう!?」
「ちょっと!? ポンコツ魔女って誰のことですの!?」
「貴様だ」
「リーゼロッテよね」
「リーゼロッテさまってそうなのですか?」
ショックを受けた表情のリーゼロッテが私に抱き着いてくる。暑い。離して?
「ポンコツじゃありませんもの……王都でそれなりに人気の薬屋ですもの……」
「閉店して今は無職だがな」
「アリスさあん……」
「ええい、もう。話が進まないわね。とにかくリーゼロッテはまだ狙われてる。変な符術士も出てきて、たぶん人間。もしかするとミーファと魔眼石の件と話は繋がってる! 人間が主犯として、わざわざ魔族の国でやる理由は不明! こうよね!?」
「ああ、その通りだ。現状の羅列であって一切話は進んでいないがな」
「混ぜっ返すんじゃないわよ。つーかそれなら進展させなさいよ。頭良いんでしょ」
「ふむ……」
まあ、実際目的が何も見えてこないのが怖いのよね。というか、ミーファを誘拐してきた理由が「魔族のせいにするため」以外に思いつかない。でも「それでどうなる?」ってなっちゃう。人間にどういう利があるのかが全く不明。
「そうだな。これはあくまで俺の想像だが……リーゼロッテの天眼そのものが目的ではないか?」
「天眼そのもの……? 封印されてる魔法じゃなくて?」
「敵感知の魔法などに何の意味がある」
『迂闊に喋るな。転生魔法のことをバラす気じゃないだろうな? 秘密というものは何処から漏れるか分からんぞ』
アルヴァからの念話に思わずハッとする。おっと、危ない。でもミーファにバレたところで……いや、お姫様だったか。うっかり後々王様に話さないとも限らないし……気をつけたほうがいいわね。
「天眼という本物を手に入れることで魔眼石の完成度を高める。充分にある話だろう?」
「ん……そうね」
「恐ろしい話ですね……ですが、その魔眼にどんな魔法を入れるつもりなんでしょう?」
「どんなって。凄い魔法でしょ?」
魔族にケンカを売ってもいいくらいの魔眼を持つ奴を作る。つまりはそういうことだと思うんだけども、ミーファは何が引っかかってるのかしら。
「だって……効率が悪すぎませんか?」
「効率? え? どういうこと?」
「どんな魔法を封じるにせよ、その魔法って『誰かがその時点で使える魔法』ってことですよね?」
まあ、そうだろうけど。それがどうしたってのかしら。私はサッパリ分からないんだけど、アルヴァとリーゼロッテは何だか分かった顔してるわね……ブラックになったほうがいいのかしら。本気で全然分からないんだけど。
「だったら、それを教えて使えるようにしたほうがいいのでは……? それに私、その魔眼とか天眼とかの仕組みは知りませんけど、本人の魔力無しで使えるものなんでしょうか?」
「どうなのアルヴァ?」
「詳しくは魔眼を解析する必要があるが……恐らく魔力については解決されているはずだ。そして魔法についてだが、俺に心当たりがある」
「そうなの? どんな魔法?」
「前に超人計画の発展形だと言っただろう。恐らくは呪薬とは別方向から超人を作る魔法であるはずだ」
そんなもの、上手くいくのかしらね。呪薬だってそういうモノの失敗作だったんだし。そもそも超人だの何だのって、幾つそういうのがあるんだって話なのよね。私が言えたアレじゃないけど、そんなに人を超えた力とかが欲しいのかしら?
「そうだな。そこを確認できれば敵の正体……とまではいかなくとも、目指すところが見えるかもしれん。アリス、魔王城の連中にコンタクトを取れ。直接魔眼石を見に行くとしよう」