すごい面倒
「というかさ、そもそもなんでそんな『充分に準備した符術士』が来るわけ?」
今の話からするに、落ち着いた状況下でしっかりと符を準備した奴がいたってことでしょ?
クソメガネの部下だって追ってるでしょうに、そんな状況で私に溜め込んだ符をたっぷり使えるっていうのは……なんか釈然としない。私を殺せば全部どうにかなるってわけでもないでしょうに、物凄い大盤振る舞いだったもの。
「さてな。あるいはこの家の結界の主が貴様と考え、殺すことで解除しようと考えたのかもしれんが」
「だとすると、とんでもない馬鹿野郎だけど……」
「自分の力に自信があったのかもしれんな。実際、貴様があらゆる魔法法則を飛び越え此処に転移できるようなクソ化け物でなければ、迷門八陣とかいう技で封殺出来ていただろうよ」
「それはどうかしら。ブラック化すれば何か良い手段思いついてたかもしれないわよ」
実際ブラックアリスになれば、頭良くなるみたいだし。どういう理屈なのかしらね。
「ブラックか……アレも中々に興味深い現象だがな。さておき、もっと大きな問題があるにはあるが」
「何よ。もったいぶったって私には分かんないわよ」
「符術そのものが問題だ。アレは普人特有の魔法だぞ」
「そうなの?」
「ああ。元々の名前は対魔術……その名の通り、魔に対抗する術の、その一部だ」
ええ、めんどくさ。てことはさっきの奴が魔族みたいな顔してたのは変装だか変身だかってこと?
忍者じゃん。そんなの相手にしたくないんだけど。思いっきりやる気をなくしてソファに倒れると「アリスさまー!」という声が聞こえてくる。
「お戻りになられたのですね! お怪我はございませんか!?」
「ないわよー」
「良かったです……! ああ、でもお疲れの御様子……! 私に一体何が出来るでしょうか!?」
「別に何もしなくていいけども」
「その優しさが非力なこの身に染みます……!」
この子も結構変な子よね。私が命の恩人とかってのを差し引いても、なんかこうオーバーっていうか。リーゼロッテに似てきているっていうか。
「リーゼロッテの影響かしら……」
「なんか失礼なことを言われた気がしましたわ!」
どたどたと走ってきたリーゼロッテがリビングに顔を出すけど……暇なのかしら? まだ万能薬の解析できてなかったはずだけど。いや、別に解析できなくてもいいんだけど。無限に買えるし。リーゼロッテの趣味だし。
「あらアリスさん。お昼寝ですの?」
「お昼寝しようかと思い始めたとこではあるわね」
考えるのめんどい。なんで気付くと陰謀に巻き込まれてんのかしら私。
「なんかさー。悪事を働く連中は『私が悪人です』って札つけて適当なタイミングで『ワハハ、俺を倒せば全部企みが潰えるぞ!』って出てきてくれないかしら」
「……ちなみに出てきたらどうするんだ?」
「クローバーボムで吹っ飛ばす」
「だから出てこないのだろう?」
「そうね。納得だわ」
とはいえ、ミーファを狙う悪人をどうにかしないとお城に帰らせることも出来ないのよね。
たぶんクソメガネもその辺は色々考えてるんだろうけど、無事に帰した後にまた何か巻き込まれないとも限らないのが本当に厄介だ。
「……そういえば聞くの忘れてたんだけど」
「はい、なんでしょう?」
私が身体を起こしてソファに座り直すと、ミーファが右に座る。そして何故かリーゼロッテが左に座る。なんで? 向かいのソファが空いてるでしょうよ。
「ミーファって、どういう状況で誘拐されたの? お姫様なんだから護衛居たんでしょ?」
「それが……分からないんです」
「分からない?」
「気付けば誘拐されていました。寝ている間に誘拐されたのだと思うのですが、そうなりますと警備の厳しい自室で誘拐されたということになりますし……」
「不可能ではないだろう。符術士がいるのだからな」
確かにそういうこと出来そうよね。そうなると人間の王城の警備がザルなのか符術士が凄いのか……両方かしら。
「……そうなると、最低でも符術士はどうにかしないといけないわよね」
やっぱりさっきクローバーボムで吹っ飛ばすのが正解だった気がする。次会ったらそうしよう。
「次会ったらボムで吹っ飛ばすという顔をしているが……背後関係を吐かせる必要があるのを忘れるなよ。それに符術士が1人とは限らんぞ」
「まあ、それはそうね」
少なくとも魔眼石とかいうものを作るために一国のお姫様を誘拐してくるくらいなんだから、符術士1人を倒せば瓦解する勢力ってことはないと思う。思うけど……どうにも今回の事件、変なのよね。
何処までいっても人間っていうか。魔族の国なのに人間の悪人と人間のお姫様と、人間の魔法……此処が人間の国なら別に不思議な話じゃないけど。
「ねえ、アルヴァ」
「なんだ?」
「もしかして人間って、魔族にケンカ売るのが趣味だったりする?」
私がそう聞くと、アルヴァはフッと笑う。
「お前にしては鋭い質問だ。そうだな、人間は度々魔族にケンカを売る。勇者などはその最たるものだろう」