たぶんヒント
「んー……」
そうして歩いてみた結果、私はその辺で転がって呻き声をあげているチンピラどもでデコレーションされた道をウォーキングすることになっている。
なんだこれ。この辺のチンピラ全員集まってんじゃないの?
「こんなの集めても意味ないって分からないとも思えないんだけどなあ」
ミーファ狙いなのはほぼ確実。となると私があの胸糞悪い場所からミーファを助け出したことも分かってるはず。なのにザコだけ送ってくる理由は?
「あ、いや待てよ。まさか本気で分かってないとか?」
可能性はある。あの場を押さえたのはクソメガネの部下連中。
だから、私ではなくてアイツ等が現場を押さえたと考えるのは普通……かもしれない。
で、私はミーファを預かっただけの金持ち一般人と考えた、とか?
うーん、分からん。分からん、けど。振り返って、私の首を狙った剣を迎撃する。
(ん、これは……!)
剣を弾き、距離を取りながら偽装を解除して、アリスの装備を開帳する。よく分かんないけど、強い。こっちもその気にならなきゃいけないような一撃だった。
そうして私の視線の先に居たそいつを、見る。見た目はさっきぶっ倒したチンピラの1人。
でも、目が違う。この目は、知っている。あのクソメガネの部下と同じ……プロの目だ。
「一応聞くけど、アンタ何?」
「ただのチンピラだよ。そういうお前こそ何者だ?」
「美少女よ」
「そうか。イカレているな」
なんだとコラ。どいつもこいつも私の美少女っぷりに何の文句があるってのよ。
否定できる要素が何処にあるか言ってみなさいよ。論破してやるから。
「ひとまずぶん殴ってから『流石美少女』しか言えないようにしてやろうかしら」
「猟奇的な発想だ……こんな場所に住めるのも納得だな」
「言ってなさい。私は戦っても美少女よ」
「では死んでもそうか確かめてみよう」
飛んできたのは無数の小さな針。でも、見える。私の目には見える。それが攻撃であるのなら。
スペードソードから、まるでトランプのダイヤの形のような透明の盾が出現する。
キキン、と音をたてて弾かれた針に男は目を見開きつつも、即座に剣を構え音もなく走ってくる。
でも、私だって負けてはいない。距離を詰めて剣で打ち合うと、再び飛んでくる針。
なるほど、上手い。この状況ではガードオブダイヤは発動しない。でも、甘い。
「ていっ!」
「うおっ⁉」
しゃがみキック。ゲームでは然程「攻撃」としては意味のない、けれど何度も使った必須テクニック。使えないはずもない。綺麗にきまったキックは男の足を蹴り飛ばして、けれど男は即座にバックステップで距離をとる。
「足癖の悪い女だ……!」
「認識が狭いわね。淑女の基本は足さばきにこそアリよ」
「……ふむ」
男の雰囲気が、一段階冷たくなる。
……そう、今までは手を抜いてたってこと?
「あまり使いたくはなかった。だが、仕方あるまい。貴様はこの場で確実に殺しておいた方が良さそうだ」
「御託はいいから。何隠し持ってんの?」
「すぐに分かるさ」
男が取り出したのは数枚の……何アレ、お札?
「封殺陣」
「おっとお!?」
私に向かって飛んできたお札を斬る、斬る、斬る。よく分からんけど甘い!
「甘い。その程度でどうにかなると思うな」
「げっ、何それ!」
なんかどんどんお札が出てきてる! 怖っ!?
周囲を埋め尽くすようなお札が私に向かって一斉に襲ってくる。
ヤバ……どうする!? 此処でボム使ったらたぶんチンピラ全員死ぬわよね? 流石にソレは寝覚めが悪い!
どうする、どうする……ええい、こうなったら!
「爆!」
私を包んだお札が一斉に爆発する。連鎖、連鎖、連鎖、大連鎖。凄まじい爆発が、辺りを吹っ飛ばして。
「……馬鹿な」
「何が馬鹿な、よ。あーキツ。ライフ1個減っちゃったじゃない」
そう、ライフオブハート。私の命は数個の「ハート」の形で分割されている。
どんな凄い攻撃であろうと、それを1つの攻撃としてハート1個の消耗で処理できるのだ。
この辺、アクションゲーム主人公の知られざる理不尽さよね。
「くっ! ならば」
「させないっての」
「ぐはっ!?」
即座に接近して、スペードソードで斬らずにぶっ叩く。こんな苦労したんだから、情報吐いてもらわないと困るしね。
「って、うわっ!?」
ニヤリと笑った男の懐で光る何か。やばっ!
大爆発をなんとかガードオブダイヤで防いだけれど……男の姿は何処にもなし。
今の自爆技っぽかったけど……どうかな。グロいことになってないし、そう見せかけただけで逃げたのかもしれない。
「……うーん。やっぱりボムで吹っ飛ばした方がよかった?」
周辺が全部瓦礫と化しているし、この辺に落ちてたチンピラたちはたぶん死んでるだろうし。
でもなあ。私が殺すのと結果的に死ぬのとは違うしなあ。そこまでスレちゃいないのよね。
それにしても……うーん。
「あのお札がたぶんヒントよね。どう見ても普通の魔法と違うし」
クソメガネと部下に聞いても答えるか分かんないし。つーか出てくるかも分かんないし。
……となるとまあ、一択よね。アルヴァに聞いてみよっと。