早速の襲撃
そんなこんなで、外に出ることにした私なんだけれども。
「えーと……アンタたち、何?」
家を出るなり、その辺からゾロゾロ出てきた有象無象。全員魔族なのは間違いないけど……格好見る限り、廃棄街の住人かなあ。つーか詰所の連中は何やってんの?
私がチラリと家の近くにある詰所を見ると、出てきた有象無象の1人が下品な声をあげる。
「へへっ、衛兵に期待してるなら無駄だぜ。全員寝てるからなあ」
うーん、役にたたねー。実力は期待してないけど。むしろ権威面での期待はしてたんだけどなー。
しかしまあ、それにしても。
「衛兵に手ぇ出すとは、随分勇気あるわね。しかも魔王肝入りの詰所に。そんなまでして、私に何の用?」
「どうでもいいだろ。お前はその家の結界を解きゃいいんだ。そうすりゃ殺しはしねえよ」
「ああ、むしろ可愛がってやるぜ?」
「ま、貰うもんは全部貰うけどな!」
んー……アレか。これはナメられてる私が悪いのかな?
まあ、仕方ないかあ。世間的には底辺冒険者だもんねえ……。
とはいえ、どうしたもんかなこれ。ミーファの件とは別件? 分かんないぞ。
まあ、分かんないけど。分かることもあるわよね。
「つまり強盗ってことね。おっけー、かかってきなさい。ぶっ飛ばしてやる」
「ハッ、この人数相手に何が出来るってんだ! やっちまえ!」
襲ってくる有象無象は1、2、3……たくさん。数えるのは諦めた、めんどい!
使うのは鞘に納めた鉄剣。スペードソードじゃ殺しちゃうしね。
まー、骨くらいは折れると思うけど我慢しとけってね?
「死ねぇええ!」
「やだ」
「ぐへえ⁉」
まずは1人。剣で顔面をぶっ叩いて壁までぶっ飛ばす。そのまま背後の敵をぶん殴って、横の敵の胸を棒で突くみたいに打ち抜く。
「がっ」
「げはあっ」
そのまま回転斬り……じゃなくてぶっ叩き。数人が吹っ飛んだところで、振り下ろされた角材を剣で弾いてすっ飛ばし、そのまましゃがんで足払い……からの踏みつけ!
「ごふっ!?」
角材が地面に落ちて転がる音が響く中で、男たちが私を囲んだままジリジリと下がり始める。
「つ、強ぇ……なんだよ、金持ってるだけの女じゃなかったのかよ!?」
「話が違ぇよ。どうなってんだ」
「何を聞いたのかは知らないけど」
鞘に納めたままの剣で自分の手の平をパシパシ叩きながら、私は目を細める。
こいつら、本気で数だけが頼りじゃない。しかも黒幕アリ。あーあ、アルヴァの言う通りだし。
「私をどうにかしようってんなら、破壊神より強いの連れてきなさい。世界だって救える美少女なんだからね、私は」
「くそっ、強ぇ上に頭まで茹ってやがる……!」
「おいコラ」
「ああ、自分で自分を美少女とか普通言わねえよな」
ムカついたのでダッシュからのロケットキックで吹っ飛ばし……からの着地&拳!
「私の美少女っぷりに疑義でもあるっての!?」
「ぎゃああああ!」
「なんだコイツ!」
「待ちなさい、ぶちのめしてから説教してやるわ!」
「逃げろおおお!」
一通り追い回して有象無象が散ったのを確認すると、這って逃げようとしていた1人の背中を踏む。
「はい、そこまで。アンタが一番偉そうだったからね。逃がさないわよ」
踏んだのは、偉そうな髭面男。どうにも態度が大物ぶってたから気になってたのよね。
「ぐっ、チクショウ……! さっきの美少女がどうこうってのは演技かよ!」
「いや、それは本気」
「えっ」
「本気」
「お、おう……」
なに私を哀れんだ目で見てんのよ。世界最高の美少女でしょうが。
「で? どういうつもりだったの? 衛兵を眠らせたとかやってる割にはザコオブザコだったけど。おまけにどっかから情報仕入れたのよね? 何処でどんな話聞いたの?」
「ケッ……この辺にいりゃあ、あんな豪邸の話くらい伝わってくらあな」
「んー……」
正論に聞こえる、けど。聞こえるだけなのよねえ。
ぶっちゃけ、そういうので襲ってくるなら今のタイミングってのはね?
「そういうの、いいから。話さないなら魔王の部下に引き渡すだけだし」
「は、はあ? お前にそんなコネが」
「あるのよねえ。言ったじゃない。あの詰所、魔王の肝入りだって」
でなきゃ、わざわざ詰所なんか出来るわけないじゃないの。馬鹿なの? 私より馬鹿なの?
「あーあ、かわいそー。何処で何聞いたか知らないけど、本当の事言うまで爪とか剥がされたりするわね。あのクソメガネ、ドSっぽかったし。そういうの好きそう」
「な、何を……」
「吐きなさいよ。何処で何聞いて、何しに来たの? 言えば逃がしてあげる」
突き出す気なのは本気だ。言えば逃がすのも本気。本気の目で、男を見れば……その顔に脂汗が浮かんでくる。
「た、頼まれたんだ」
「誰に。何を」
「ロ、ローブの男だ! その家に普人のやんごとなき身分の子どもが監禁されてるから助けてくれって! 眠りの霧の魔法具もそいつから!」
「ふーん、その魔法具は?」
「使い捨てだ! もうねえ!」
ローブの男……ねえ? 眠りの魔法具とやらの詳細は知らないけど、使い方が全然ダメダメだし。
「その男とやらの顔は見てないの?」
「み、見てねえ。ローブにも魔法がかかってた。だが魔族のはずだ」
「断言できる理由は」
「つ、角だ! 普人には角なんかねえだろ! これで知ってんのは全部だ! なあ、もういいだろ!」
「まあ、いいけど」
足を退けると、男はバタバタと走って遠くに逃げていく。
んー……角があるローブの男で顔は不明。で、ミーファの「救出」を依頼するような理由があると。
「……よし、分からん!」
1度帰ってアルヴァに聞いてもいいけど。折角出たんだし、もうちょっと歩いてみようかな?