蜜柑太郎
俺の名前は蜜柑 太郎。爺さん婆さん曰く蜜柑から生まれてきたから蜜柑 太郎と名付けたらしい。俺自身生まれた時の記憶など残ってはいないのだが、ばっちし写真に残っていたため現実と認めざる負えなかった。
そしてこの世界には人々を苦しめる鬼なる者が存在する。
そう俺の境遇は日本のおとぎ話「桃太郎」に酷似している。桃ではなく蜜柑だが。
俺には前世の記憶があり、そのため桃太郎に関しての知識もある。
かのおとぎ話では主人公の桃太郎が鬼を退治しに行くという流れになるが生憎俺は蜜柑太郎だ。当然そんな危険は旅に出るつもりは毛頭ない。
俺は俺を育ててくれた家を出た。このままでは確実に鬼討伐に巻き込まれる。俺の第六感がガンガン鳴り始めた時から準備はしていた。生計を立てる算段はある。俺がこの世界で手に入れた47のスキルのうちの一つ『蜜柑の種無限生成』を使えばな。
かくして俺は村から出て国の反対にあるのどかな街を拠点とした。この時の為にちょくちょく溜めていた小遣いを切り崩し、蜜柑が育ってきたらそれを売って生計を立てた。どういうわけか俺のスキルで作る蜜柑の種は通常よりも何倍も早く実をならすためそこそこ贅沢できるくらいには稼いでいた。
小さな畑がだんだん大きくなり、ついには蜜柑株式会社となる程に成長した頃俺はついに捕まった。
別に悪い事をした訳ではない。鬼を倒す勇者として国に捕まったのだ。
知らなかったんだ。まさかこの国に蜜柑の勇者の伝説という言い伝えがあったなんて。
それは蜜柑をバンバン作って売ってれば目立つに決まっている。
俺はしばらくの間王都で訓練をしたら鬼を倒す旅に出るらしい。
爺さんと婆さんは俺が自分達を闘いに巻き込まないように黙って家を出て行ったと思い込んでいた。
なんて脳内お花畑な連中なんだ。しかもこの国全体がそんな感じだからみんな揃って俺がなんとかしてくれると思っている。俺は勿論そんなつもりは無く適度に強くなったら逃げるつもりだ。俺が簡単に国に捕まったのは単純に弱かったからだ。それなりに強くなれば俺には逃げ切る自信がある。
かくして俺はしばらくの間訓練というやつに勤しんだ。最初は辛かったがコツを掴んでしまえば割と緩い訓練だった。
コツと言っても闘いのコツではない。サボるコツだ。
俺が持つ47のスキルのうちの『蜜柑ポーション無限生成』を使えば疲れることはほとんどなくなったし、最近は『蜜柑分身』で分身に訓練をやらせている。
訓練で身体能力や魔力が上がったとかはほとんどなかったが、スキルの使い方だけはかなり上手くなった。
そんな時ついに俺は国の王様に呼び出され、鬼王討伐の旅に出ることになった。
俺はずっとこの時を待っていた。
訓練中はろくに外に出ることもできなかったので逃げ出せなかったが、旅の途中で逃げることなら容易い。
ようやく王都から出発するというときに婆さんが団子を渡してきた。
桃太郎でもあったあの有名なきびだんごだ。
桃太郎と違い鬼を退治する気なんて全くない俺はせいぜい小腹の足しにでもしてやろうと思っていたのだが、違和感は旅に出てすぐに気付いた。
俺はなぜか道を外れることができなくなっていた。
別に誰かが監視でついているわけでもないのに俺の足は鬼がいる鬼ヶツ島に向かって真っすぐ進んでいる。
俺はすぐに一番の心当たりである団子を鑑定してみたら、きび団子ではなく呪いの団子となっていた。
詳しく調べてみると人々の期待が詰まりすぎて呪いにまでなってしまった団子らしく、この旅から逃げることも団子を捨てることもできないらしい。
もしかしたら桃太郎もこうやって無理矢理戦わされていたのかもしれない。
最悪の気分だがどうやらこの団子を食べた生き物は強制的に俺と鬼を倒さなければならなくなってしまう呪いにかかるらしい。
つまり強い仲間を捕まえれば俺が戦わなくてすむかもしれないのだ。
そんな訳で俺は強い仲間を探しながらゆっくり旅をしていたのだが、王都を出てから三つ目の町である噂を耳にした。
どうやらここら辺では最近ウルフの群れが畑を荒らしてたくさんの人が困っているらしい。
本来なら助ける事を考えすらしない俺だが中々に強いと噂のウルフに呪いの団子を食べさせれば無理矢理仲間に出来ると思い奴らが暴れている畑へとおもむくことにした。
畑にいたウルフに『蜜柑幻術』で蜜柑に見せかけた呪いの団子を食べさせた俺はその調子でどんどん強そうな奴を従わせていった。
ドラゴン、ワーム、ユニコーンなどを仲間にした頃遂に俺たちは鬼が住む鬼ノ島にたどり着いた。
ドラゴンの咆哮で始まったこの戦いは最初から最後まで一方的な展開で終わりを迎えた。
桃太郎は犬と猿とキジを連れてでも鬼を倒したのだ、ドラゴンなどの伝説級の生き物を連れた蜜柑太郎が負ける理由などなかった。
かくして鬼を退治した俺は英雄として面白おかしく人生を楽しんだとさ。
なんて事にはならなかった。何故なら俺は鬼を倒してなどいないからだ。
旅の途中俺はずっと考えていた。
こんなにも沢山の伝説の生き物を従わせることができるのなら鬼にも呪いは効くのではないかと。
そう考えた俺はボコボコにした鬼に呪いの団子を食べさせた。その結果見事に鬼を仲間にすることに成功したのだ。
鬼を仲間にした俺は今まで従わせた生き物たちと鬼ノ島を拠点に世界征服に乗り出した。
勿論初めての標的は俺に戦わせた故郷の連中だ。