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アイドルジョッキー弥生は、1番人気でGⅠレースを勝てるのか?  作者: 勒野宇流
11月(ジャパンカップ)
26/45

(26) ジャパンカップから一夜明けて

 

 関東では毎年ジャパンカップの週で東京開催が終わり、その年最後の開催、『第5回中山開催』に入る。

 

 不思議と東京開催が季終わると、本格的な冬に入ったと感じる。

 

 東京開催のときも、真冬のような寒い日はある。しかしそれらはなんとなく、仮の冬日という感じなのだ。最後の中山開催に入ってからの寒さは、もう春まで逃れられない本格的な冷えだった。

 

 ジャパンカップの翌朝、弥生は月曜の習慣にしているランニングをして、北海道のネンさん仕込みの体操で汗をかいた。そして自厩舎の居間で岡平先生と朝ごはんを食べた。

 

「リュウスターとトーユーリリーは休養に入る」

 

 岡平師がたくわんをかじりながら弥生に言う。弥生が運動している間、すでにスポーツ紙を全紙、目に通している。

 

 どちらもこの秋3戦目で、これは想定内だ。それに元々リュウスター陣営は、有馬は回避する可能性大と言っていた。

 

 おつかれさま、と弥生は静かに思う。リュウスターが休養に入るのは当然なのだが、妙に悲しい。これでもう、おとうさんの憑依したタイムシーフと相まみえることはないのだ。もっとも、相手は憑依のことなどまったく知らないことだが。

 

 タイムシーフと3冠レースすべてを走った、強く印象に残るライバル。馬も、ジョッキーも。もしおとうさんが憑依したタイムシーフが現れなかったら、あの馬が今年のダービー馬だったのだ。そう考えると、なんだか申し訳ない気持ちにもなった。

 

 ―― おとうさん、もうリュウスターとは一緒に走れないんだよ。

 

 弥生は箸を止め、上を向いて目をつぶって中空に言葉を送った。

 

「おい、ぼんやり考えごとしてないで、次のページを見てみろ」

 

 リュウスターの雄姿が1面に大きく載るスポーツ紙を膝に乗せていた弥生に、岡平師が言う。

 

「次、ですか?」

 

 次のページに競馬の記事は載っていない。

 

「次じゃなかったかな。とにかく競馬欄だ。見てみろ」

 

 弥生はバサバサと新聞をめくっていく。

 

「えっ!!」

 

 弥生の手が止まった。

 

 競馬欄には、この週末の出走予定馬が載っていた。

 

 有馬記念を頂点とした暮れの中山開催は競馬の繁忙期で、土曜もGⅡ、GⅢの重賞が並ぶ。1週目は日曜にダートのGⅠレースが組まれているが、土曜にも、中山と阪神で重賞が組まれていた。

 

 そして通常であれば、出走予定馬はGⅠレースがドーンと大きく載り、土曜重賞は下段に小さく記される程度だった。しかし、この新聞ではGⅠレースと同じサイズで中山の土曜重賞が載っていた。異例だった。

 

「びっくりしたよ。弥生もびっくりしただろ」

 

 言葉のわりには抑揚のない声で岡平師が言う。勝負師岡平悠一は容易に平常心を失わない男なのだ。対して弥生は、ひえ~っと無意識に驚きの声を上げていた。

 

 弥生がおどろいたのは、その土曜中山メインのGⅡ、ステイヤーズ・ステークス出走予定馬の欄に、フレアとシルバーソードの2頭の名が載っていたからだ。

 

 いや、その欄から見つける必要もない。見出しで打ってあるのだから。『タイムシーフのライバル2頭、GⅡで激突!!』と……。

 

 他のスポーツ紙も大きく載せていた。『菊花賞2着、3着馬が最長距離レースへ!』、『打倒タイムシーフを掲げる2頭が前哨戦!』。言葉はちがうが、いずれもファンの気持ちを煽る見出しになっている。

 

「まぁ獲得賞金が少ないから、どっかで足しておきたいところだろうけどな。でも2頭がかち合うとはな」

 

 岡平師が言う。たしかに、有馬記念はファン投票だから出られるだろうが、その後のことを考えると賞金を加算しておきたいところだ。実際、これだけの実力馬なのに、ジャパンカップははじかれたのだ。

 

 でも、と弥生は思う。2頭が同じレースに使ってくるとは。弥生はそのステイヤーズ・ステークスに騎乗はなかったが、俄然楽しみになった。

 

 ―― どっちが勝つんだろ!?  それに、人気はどうなるんだろ!?

 

 まるでイチ競馬ファンかのような心境だった。

 

 出走予定馬の馬注欄に記載されているジョッキーは、当然ながらフレアに南條慶、シルバーソードにマルク・ミシェルとなっていた。

 


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