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アイドルジョッキー弥生は、1番人気でGⅠレースを勝てるのか?  作者: 勒野宇流
11月(ジャパンカップ)
23/45

(23) 名手の共演

 

3歳新馬          阪神2000m  1着(1人気) イアン

ゆりかもめ賞(500万下) 東京2400m  1着(2人気) イアン

忘れな草賞 (OP)    阪神2000m  1着(1人気) イアン

(6ヶ月休)

秋華賞 (GⅠ)      京都2000m  4着(2人気) アルフォンソ

エリザベス女王杯 (GⅠ) 京都2200m  1着(2人気) アルフォンソ

 

 このたった5戦がトーユーリリーの全成績だ。日本の競馬関係者であればこれでジャパンカップ挑戦は時期尚早に映るが、欧州競馬の感覚を持つアルフォンソには妥当に感じる。欧州では、これはという有力馬は使うレース数を絞る。5戦のキャリアで大一番のレースに向かうことに、なんの違和感もない。

 

 実際、モンダッタを断ろうか悩んだのだ。ただ欧州に本拠を置くアルフォンソとしては、先を見れば外国の有力馬を押さえておいた方がいい。ここでトーユーリリーを採ったとしても、暮れの有馬記念までの付き合いだ。翌年の大阪杯、ヴィクトリアマイル、宝塚記念は関係がない。だから長い目で見て、迷った末にモンダッタを採った。

 

 そういう思いがあったので、トーユーリリーだけには交わされたくなかった。他の馬には負けてもいい。今併せているリュウスターであれば、まだ屈辱を呑める。しかしトーユーリリーだけは許せなかった。

 

 内で激しく叩き合う2頭に、大外から襲い掛かる1頭。勢いは断然外だが、内が併せて伸びているだけに差し切れないようにも見える。まるでゴールに一列に並んで入ろうとしているかのような展開。

 

 モニターで見る弥生は声も出ない。世界を飛び回るアルフォンソに、来日後、2人でリーディングの地位をキャッチボールしているかのようなマルクとイアン。二流以下を寄せ付けないかのような、選ばれし一流の者だけの舞台。

 

 ―― これじゃあ……。

 

 弥生は知らずこぶしを握り、思う。

 

 ―― 馬主さんだって彼らに頼みたくなるよぉ。

 

 大歓声に覆われるゴール手前、びっしり併せる2頭に差はなく、外から伸びるトーユーリリーがようやくそれに並ぶ。そして3頭まったく並んだところでゴール板が後方に過ぎ去る。だれも分からない。実況もはっきりと言わない。肉眼での判別など到底不可能な3頭の叩き合い。

 

「分かりませんっ! まったく分かりませんっ!!」

 

 ラジオの実況は叫び、

 

「これはうーん、なんとも際どい」

 

 テレビの実況は1コーナーに向かう3頭のうしろ姿に合わせて声を絞り出す。映像がファンに伝える分、ラジオの実況のようにトーンを上げる必要はない。

 

 そしてスタンドも妙に静まり返る。名手たちの共演に、いや競演に、数万人の言葉が詰まってしまったかのようだった。なにしろ2400メートルもの距離を走り、計ったかのように鼻面を合わせてゴールしているのだ。それも因縁あるトップジョッキーたちが。とにかく、軽く言葉をはき出すに相応しくない空気に包まれてしまっていた。

 

 外からの勢いが付いている分、トーユーリリーだけが惰性で2コーナーまで進む。鞍上のマルクはまったく分からない。差しているのか届いていないのか。なんとなく、検量室に戻りたくない気分だ。

 

 とにかく、とマルクは思う。やはり自分の見立てどおり、この馬は伸びてくれた。

 

 少なくとも、いくつかの選択の中からこの馬を採ったのは正解だった。それだけは安堵した。今年はエターナルランで自身の馬の選択眼が揺らいでいた。エターナルランは、自分がしっかり乗れば3冠の目まであると思っていた。皐月賞直前では心底思っていたのだ。だから今回、悩みに悩んだ。

 

「でも、ガンバってくれたね」

 

 マルクはまだ確定していなかったが、馬の首を撫でてやさしく声をかけた。一般の者が近づけない東京の2コーナー周辺は、心落ち着く場所なのだ。

 

「さぁ、戻ろうね。結果がどんなでも」

 

 マルクは馬を反転させて、並足で1コーナーへと向かっていった。

 

 電光掲示板の4着の欄にはワイドレナの馬番が、5着の欄にはキヨマサの馬番が点滅していた。その上の3つの欄は、写真判定のために黒いままだった。 

 


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