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アイドルジョッキー弥生は、1番人気でGⅠレースを勝てるのか?  作者: 勒野宇流
11月(ジャパンカップ)
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(1) アルゼンチン共和国杯(GⅡ)

  

 秋のGⅠシーズンは9月最終週のスプリンターズ・ステークスから始まり、12月最終日まで続く。その中でGⅠレースが組まれていない週が、10月1週目と11月1週目。10月の方はGⅠレベルのトライアルレースが組まれて盛り上がるが、11月の方はなんとなく中休み的な雰囲気となる。

 

 そこでのメインレースは、東京競馬場のアルゼンチン共和国杯(GⅡ)。2500メートルとジャパンカップに直結する距離だが、ハンデ戦なので有力馬はほとんど出てこない。

 

 出走馬の傾向は概ね2つに分けられる。重賞での活躍が過去にある高齢馬か、条件戦を階段を上がるように勝ってきた苦労人型の馬。いずれも、このレースの前週に行われる天皇賞では勝負にならないと判断された馬だ。

 

 弥生はここで乗鞍があった。春の東京開催、国分寺ステークスで後方一気を決めた関西馬のボルタだ。ローカルは小倉に持っていったので弥生に騎乗は回ってこなかったが、9着、1着と2勝馬クラスを2戦目で勝ち上がり、阪神の準オープンで3着に入って手応えを感じ、重賞に格上挑戦となった。

 

「またあんときとおんなじように、脚ぃためて追い込む競馬でな」

 

 厩務員が弥生に簡単な指示を出した。

 

 条件馬の重賞挑戦は相手関係が厳しいが、ハンデ戦なので格下馬ということで軽ハンデで出走できるという利点がある。弥生はスタートしてすぐ最後方まで下げた。6番人気でがっちりマークされる立場ではない。寝たふりして直線で末脚を爆発させようと考えていた。

 

 道中、流れが速いと感じた。前がけっこうやりあっているのだ。流れが速ければうしろから行く馬が有利になる。もっとペースよ上がれと、じっと手綱を絞りながら弥生は思っていた。

 

 3コーナーから4コーナーへ。すでにバテてしまった馬がいて、弥生は交わしていく。12頭立てと、このレースにしては今年は珍しく小頭数で、馬なりに上がっていくなか、直線に向いたときには7番手くらいになっていた。

 

 馬の反応はいい。弥生は今だとばかりに追い出した。まるで半年前の国分寺ステークスのときのようにスムーズなレース運びで、スピードに乗ったボルタはサッと2頭交わした。

 

 ―― あっ、これは勝てる!

 

 馬の伸びに勝利を予感した。さらに内の数頭を交わして3番手。2番手の馬も目の前だ。

 

 また東京メインの重賞で勝てるんじゃないか! 弥生は血が沸き立つ感覚を持った。2番手を交わしてあと1頭。今回、外に持っていっていないので先頭に立つ馬とは内外離れていない。だから差に見当がついた。1馬身といったところだ。ボルタのこの伸びならまちがいなく差せる!

 

 あと1ハロン。つまり、あと200メートル。差すには十分な距離だ。この馬は長期休養があったせいでまだ条件馬だが、オープンの力は充分にある。それをうまく引き出せているぞと、弥生は手ごたえを感じた。

 

 しかし……。

 

 前との距離が意外にも詰まらない。ボルタの脚は鈍っていないのに。そして詰まらないどころか、差が開きだした。

 

 ―― どうしてっ!!

 

 相手は先行勢のやり取りで相当疲弊しているはずなのだ。それなのに、まったくバテていない。飛ぶようなストライドで、こちらをどんどん離していく。

 

 ―― ウソでしょ!

 

 弥生もジョッキーとしてそれなりの経験を積んでいるので、常識的な流れは分かる。あそこまで差を詰めたら、外の馬が交わすのがレースの流れというものだ。東京の直線で何馬身も差を詰められた内の先行馬が、かろうじて逃げ粘るなら話は分かる。しかし残り1ハロンを切って、差そうとする馬を置き去りにしていくなど、通常はあり得ない。

 

 そしてゴール。弥生はまず振り返った。ボルタが止まったかもしれないと思ったからだ。しかし後続はちぎれている。やはりボルタは伸びていた。

 

 惰性で1コーナーへ向かっていくとき、その馬のジョッキーが一馬であることを知った。

 

「すごい強い馬ね」

 

 近付いて言った。

 

「あぁ、すごいエンジンを積んでる」

 

 興奮した感じで一馬が返してきた。そして、

 

「この馬ならジャパンカップ、充分に狙えるぜ」

 

 もう一言付け加えた。GⅠに渇望している才ある男が、弥生を睨むように数秒見つめ、そして馬の鼻面をスタンドに向けて戻っていった。

 

 それから検量室に戻った弥生は、一馬の乗ったキヨマサに5馬身離されたことを知った。

 


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