初めての異世界村
村は全体的に木造建築で質素な作りだった。
出入口から続く道が中央通りなのだろう。その左右に僅かな商店が軒を連ねる。
雑貨屋・酒場・武器屋・食堂・薬屋・宿屋などがあった。
不思議と文字は読める。字体は見たことが無いのだがローマ字で日本語を読む感覚だった。
文明レベルは中世程度なのだろうか。電気やガス、水道などは無さそうだった。
皮の鎧と西洋剣を腰に下げた若い男性がを見た。ラノベ風で言うなら"冒険者"なのだろう。
最低限の文明品を入手出来る事に安堵し、雑貨屋に向かう。
「すいません。入口警備の方に買い取りをして貰えると聞いたのですが。」
カウンターの白髪の老婆へ声を掛けた。
「あいよ。いらっしゃい。アンタ見ない顔だね?」
「はい。グンマー村のキラと言います。タンニ村のブロンさんに紹介して頂き、このシラカ村を尋ねました。」
「そうかい。それで何を売りたいんだね?」
「山羊は買い取り可能でしょうか?」
「山羊?まあ買い取るけど、変わった物を持ち込むんだね?」
「ええ、ちょっと山羊が増えたので。」
「そうかい。それで山羊は外なのかい?」
「はい。」
ジャミばあさんが店を出て山羊を2頭査定する。
「痩せてるねぇ。これじゃあ金貨2枚だね。」
「そうですか。あと他にもあるんですが見て頂けますか?」
「ああ、いいよ。」
薬草を1枚とルコの実を1個取り出した。
「薬草は銅貨5枚だね。ルコの実は銅貨1枚。」
「わかりました。塩とこの石は買い取って頂けるのでしょうか?」
「この岩塩は1ペタ(1ペタ=1kg)で銅貨1枚だね。この石は…武器屋に持っていきな。」
「わかりました。では全部出しますので査定して下さい。」
・山羊×2頭 金貨2枚
・薬草×60枚 銅貨300枚
・ルコの実×100個 銅貨100枚
・岩塩×10ペタ 銅貨10枚
「全部で金貨6枚と銅貨10枚だね。金貨を銀貨に分けるかい?」
「はい。お願いします。」
キラは金貨5枚・銀貨10枚・銅貨10枚を受け取った。
そしてキラとアリスの服や靴、そして下着や調理器具、ナイフ、食器、生活用品、調味料などをこの雑貨屋で購入した。
「全部で銀貨15枚だよ。」
ジャミばあさんに代金を支払って、店を出た。
次に武器屋へ向かった。
「すいません。ジャミばあさんから、この石を買い取って頂けると聞いたのですが?」
店の奥からスキンヘッドの厳つい親父が出てきた。
「ああ?見ない顔だな?」
「グンマー村のキラと申します。(以下略)」
「それで何を見て欲しいんだ?」
キラは天然磁石を一つ取り出した。
「ほおぉ。マグタイトか。珍しい物を持ってんじゃねえか。」
「はい。偶然ある程度の量を入手しまして。」
「ほぉ…。ある程度の量とは?」
(やっぱり天然磁石は貴重っぽいな…。ここは慎重に交渉しないと。)
「まず、この塊だと幾らになりますか?」
「そうだな、マグタイトは1ペタで銀貨1枚だ。」
(ふむ。銀貨1枚で1,000ジル。日本円で10,000円ぐらい。つまりキロ1万円か!)
「数量が多いと割り増しになるんですか?」
「そうだな。マグタイトの使い道は多い。少量だと陶磁器や防具・衣類などに使われる。だが、貴族様が使う魔道具を作るには100ペタほどが必要になる。だから増えるほど値は上がる仕組みだ。」
「因みに100ペタだと買い取り価格はいかほどに?」
「金貨20枚だ。」
(これは良い事を聞いた。森に戻って根こそぎ集めるか。)
「この村に魔道具は販売しているんですか?」
「ん?ああ、簡易的な物ならな。」
「どんな物があるのでしょうか?」
「ちょっと待ってろ。」
親父は店の奥に行き、ゴソゴソと何かを取り出している。
「これが火の魔道具だ。ここに火の魔法を注ぐとコンロになる。」
見た目はカセットコンロだった。だが中央に見たことがある黒いワイヤーが巻かれていた。
「この火の魔道具は幾らですか?」
「金貨1枚だ。」
(たっけぇぇ!カセットコンロに10万かよ!)
「この中央に巻いている線はなんでしょうか?」
「あ?おめぇ"マギワイヤー"も知らねぇのかよ!」
「私の村には魔道具が無かったもので…」
「これはマグタイトと同じく魔道具作成に欠かせない高価な素材だ。」
「それってコレなのでしょうか?」
キラは巻いて持ち歩いていた焼いた黒蔦を取り出した。
「おお。そうだ。処理が中途半端で甘いがマギワイヤーだな。」
「これも買い取って頂けるんでしょうか?」
「ああ、0.1ペタで銀貨5枚だ。」
(きゃーー。黒蔦が1ペタ(1キロ)で50万えんんん!)
キラは必至に平静を装い、売却の交渉をする。
「ここで商品を購入するので、このマギワイヤーを買い取って頂けますか?」
「いいぜ。この量なら問題ない。」
「マギワイヤーで質問なのですが、コレってどうやって切断するんですか?」
キラは何をしても切れないマギワイヤーを加工しているのが不思議だった。
「ああ、これはな"ミスリル"の刃じゃねえと切れねえんだ。何でそんな事を聞くんだ?」
(うひょー。異世界素材のミスリル来ました!)
「まだマギワイヤーを持っているので、持ち運ぶのに長くて不便で切断を考えているんです。」
「そうか。ミスリルに魔力を流さないと切れねえぜ。他の魔伝導率が高い金属でも切れるが、その金属は王族や貴族以外で持っている奴は居ねえしな。」
「ミスリルの道具って売ってますか?」
「あるが、高いぜ。」
ミスリルのノミを見せて金貨1枚だと言われた。しかも先端にしかミスリルは使用されていないそうだ。
「お前のマギワイヤーが0.2ペタなんで、このミスリルで同額だな。」
「じゃあ、それでお願いします。」
「で。マグタイトは今どれぐらいあるんだ?」
背嚢に入れてたマグタイトを全部出した。3ペタほどしか無く銀貨3枚だった。
「しかし、その背嚢?なんだそれ?酷い作りだな。手作りか?」
「はい。田舎の村には物資が無くて、木の皮で作りました。こちらで背嚢は売ってますか?」
親父に背嚢やアリスが着る黒い外套、火の魔道具に皮の防具や短剣、弓と弓矢なども合わせて購入した。
「全部で差し引き金貨4枚だ。」
全て支払うと銀貨5枚と銅貨10枚しか残らなかった。
「最後に聞きたいのですが、皮素材や荷馬車、馬の鞍などはこの村に売ってますか?」
「皮素材や中古の荷馬車ならジャミばあさんが取り扱ってる。馬の鞍はねえな。」
「ありがとうございました。またマギワイヤーを持ってきます。」
「ああ、待ってるぜ。俺はナナッパだ。宜しくな。」
どこかで聞いた名だと思ったが気のせいだと思い武器屋を後にした。
村を出る前にジャミばあさんの店に寄る。
そして皮素材を銀貨5枚分購入し、荷馬車の価格を聞いた。
取り扱っている荷馬車は、中古の幌無しと幌有りがあり、仲介なのでここには無いとの事だった。
馬1頭が金貨50枚
幌有り荷馬車が金貨50枚
幌無し荷馬車が金貨20枚
車みたいな値段だと考えると、物価はどこも同じだなと思った。
そして大量の荷物があるので一部はジャミばあさんの店に置かせてもらい、持てるだけを新しい背嚢に詰め込み両手一杯になりながら村を出た。
クロの待つ場所に着き、荷物を乗せる。手元には銅貨10枚しか残らなかった。
そして再び村へ荷物を取りに戻り、アリスの待機拠点へ出発した。
─━─━
「アリス。お待たせ。」
「ご主人様。お早いお帰りで。」
アリスに黒い外套と新しい服と下着を渡し着替えるように言った。
アリスは木陰に隠れて着替えているようだ。チラチラと真っ白な尻が見えた。
「ご主人様、如何でしょうか?」
「うん。呪術師っぽい。凄く怪しいよ。」
黒い外套のフードを被り、カラフルで奇怪な木面を被っている。
「それは…。お褒めになられたのでしょうか…?」
「まあ。両方かな。」
話を適当に濁し、購入したものをアリスに見せる。彼女はテンションが上がり嬉しそうに調理器具やコンロの魔道具などを触っていた。
そして、薬屋の事を聞いてみた。
「なあアリス。村に薬屋って有ったんだけど、何を売ってるんだ?」
「はい。回復薬や解毒剤などが販売されております。」
「回復薬を使うとアリスの傷も治るのか?」
「……。可能ですが…その…。」
「なに?」
「この火傷は部位欠損に該当すると思われます。それを治癒する回復薬は超級回復薬を何本も使用する必要があります。それに超級回復薬は、王都の薬屋しか販売しておりません。」
キラはアリスの火傷が治る可能性を感じて心が躍った。
「村には無いのか。その超級回復薬っていくらなの?」
「…その、噂で聞いた話ですが、1本で大金貨10枚らしいです。」
「ん?大金貨?10枚って?」
「……。1,000,000ジルです。」
「100万ジル?ってことは1000万円?1本が??」
「はい…」
キラは天国から地獄に落とされた気分になった。
「あの!私はこれ以上、ご主人様にご迷惑をお掛けしたくありません。そんな大金で火傷を治す価値など私にはございません。ですのでお気になさらないでください。」
「アリス。ちょっと金額を聞いて驚いただけだよ。でも諦めるのは良くない。目標は高い方がいいんだ。直ぐに治してあげる事は出来ないけど、二人で頑張っていつか王都に行こう。」
「ありが...とうございま..す。」
アリスは泣きながら言葉にならない謝礼を言った。
─━─━
メビウスの森の洞穴に戻ったキラ達は、素材を集めて再び村へ向かう事にした。
残したマグタイトを紐で結び、岸壁を引きまわって磁力で採取する。これはサルとアリスに任せた。
皮の素材でクロのメッシュ目隠しを作った。
赤目が生物に死の威圧を放つなら、隠せばどうなるのか試してみた。
「アリス。ちょっとコッチに来て。」
「はい。ご主人様。」
アリスは普段から外套と仮面を着けるようになった。
「クロに目隠しをして死の威圧が軽減するか試したいんだ。目隠しをするからクロの目を見てくれないか?」
「はい…。」
アリスは怖がりながらも了承してくれた。
「クロ、目隠しをするよ。よしよし。良い子だ。愛い奴め。」
キラはクロを撫でまわしながら、皮のメッシュ目隠しを取り付けた。
「アリス。どうだい?」
「はい。怖い感じはしますが、威厳とも取れる感覚になりました。」
「そうか。これでクロも一緒に村に入れるな。」
結び目が甘かったのか、クロの目隠しが外れてしまった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛…」
アリスが怯えながら腰を抜かし、座り込んでまた漏らしてしまった。
「しまった。大丈夫か!アリス。」
すぐにアリスへ駆け寄り、抱き寄せる。暫くしてアリスは落ち着いてきた。
「申し訳ございません。ご主人様…。醜態を晒してしまい…。」
「いや。すまない。謝るのは俺の方だ。」
洞穴に焚火をおこし、アリスを抱いて水際へ向かう。
キラはアリスの外套や下着、服などを脱がし、それを洗濯する。
洗い終わったキラは、アリスの方を見た。
アリスは顔を両手で隠して座っている。
キラはアリスを抱き上げ、下半身を洗うために水辺へ向かう。
汚れたアリスの下半身を執拗に丁寧に何度も洗う。何度も何度も……。
「あの…。その…変な感じになるので、もう…。」
キラの鼻息は"ふー、ふー"と荒く、アリスの言葉が耳に入ってない。
アリスは限界になり、なってキラの手を掴んた。
「もう…だめ…です。」
手を掴まれたキラが我に返り、焦ってアリスに言い訳をする。
「いや。綺麗だから、つい、その、興奮して。ごめん。もう大丈夫。」
「いえ…その、嬉しいです。ありがとうございました。」
その夜更け…
「よし。アリスは眠っているな。」
キラは寝床からそっと起き上がった。
「ご主人様?どちらへ?」
「え?その、ちょっと、用を足しに外へ…」
「私が致しましょうか?」
「なんの事かな?小便に行くんだよ。俺は。hahaha」
ゴソゴソ…ゴソゴソ…ゴゴゴゴゴソッ…
おぅふぅ…
スッキリした
(注)小便です。