やはり地球じゃない!
焚火が安定してほっとした。これなら明日は水浴びと肉が食べられるだろう。
持ち帰った芋を数個焼いて夕食とする。
「良い匂いがしてきた。やっと人間らしい食事が出来るのか。」
すると奥から子犬の鳴き声が聞こえた。
"グルゥ..."
「ん?ワンちゃんの意識が戻ったのか...殺りにくいなぁ。」
焼き芋を食べながらどうしようか考える。このまま放置して明日の朝には衰弱してくれれば楽なんだけどな。それだと一思いに解体して肉を焼けるのに。
"ビクッ...クゥ~ン"
子犬が何かを察知したように従順な素振りを見せる。
「ん~、生きたままの犬を解体なんで出来ないしなぁ。どうしようかな。」
"クゥ~ン...クゥ~ン..."
「なに?この焼き芋が欲しいの?」
"ガウ..."
(あれ、なんで子犬の考えが理解できるんだろう?気のせいかな。)
「まあいいか。ほれ、食べるか?吠えるなよ。紐は外さないけどな。」
アキラは子犬に近づき焼き芋を食べさせた。
"ガウガウ"
「なに?まだ欲しいのか?仕方がないなぁ。ほれ。」
(うーん。なんとなくだけど、やっぱり子犬の考えが分かるな。やっぱりここは異世界なんだ。)
子犬は飢餓状態だったのか、必死に焼き芋を食べている。アキラは子犬に食事を与えているうちに少し情がわいてきた。
"ガウガガウ"
「え?逆らわないし逃げないから拘束を解いて欲しいって?」
"ガウ、ガウガウ"
「水も飲みたい?食事のお礼に力になるからお願いします。って?」
"ガウ"
「本当かな?まあいいか。洞穴の外で開放するから、気を付けるんだよ。もう暗いし。」
"ガウ"
柵を乗り越え洞穴の外に出る。側に石斧を用意して石ナイフで子犬の拘束を切った。
"バウ、ガウ"
「ちゃんと戻って来るって?」
"ガウ"
そう言って子犬は歩き出したが、足取りはヨロヨロとしている。
「おーい。水辺まで連れて行ってあげるから少し待つんだ。」
アキラはそう言って、洞穴の焚火から薪を取り松明代わりとした。
片方の手で子犬を抱き上げ水辺まで歩く。子犬の毛並みはゴワゴワしいるし臭い。
池に到着して子犬を下ろす。ヨロヨロと歩いて水を飲んだ。
「このまま森に帰っていいんだぞ?」
"ガウバウ、ガウ"
「一緒に戻るって?別にいいけど。」
再び子犬を抱きかかえて洞穴に戻る。自分も臭うがコイツはもっと臭う。
「明日は水浴びをしないとな。」
そう子犬に言って、今日は休んだ。
─━─━
朝目覚めると、子犬が座って待機していた。
「もう起きていたのか。早いな。」
"バウ"
「じゃあ食事をしてから水浴びをしようか」
アキラは火をおこし芋を焼く準備をする。火力が安定するまでの間、木の実を食べる。
「お前も食べるか?美味しくないけど。」
"ぷい"
子犬は顔を背けた。
「なんだ食べないのか。」
芋が焼けて皮を剥く。子犬に2個与えてアキラは3個食べた。
焚火に薪をくべて服を乾かす準備をする。
「さて、今から水浴びに行こうか。」
"バウバウ"
「周囲を警戒するから自分は大丈夫だって?いや駄目だよ。お前臭いよ。」
「もう歩けるのか?体は回復したのか?」
"ガウ"
「そうか、なら付いておいで。」
池に向かい水浴びをする。服もついでに洗濯した。子犬は水際で周囲を警戒している。
「賢い犬だな。ツノが生えてるけど。たぶん犬じゃ無いんだろうな。」
アキラは水浴びと洗濯を終えた。素っ裸だが周囲人は誰も居ない。あまり気にならなかった。
「ワンちゃん。こっちにおいで。洗うから。」
"バウゥ..."
「え?嫌なの?だってお前臭いもん。ちゃんと洗うんだ。」
子犬を呼び寄せ、水を掛けてワシャワシャと洗う。シャンプーや石鹸が無いので汚れが落ちにくいが、それでも随分とマシにはなった。
洞穴に戻り、焚火で服を乾かす。日中じゃ乾燥しないと思うので今日は弓を作ることにした。
集めた枝でしなりの良い物を選ぶ。石ナイフと石ノミで形を整える。
「うーん。作るの難しいな。これじゃ使えないっぽい。あと弓矢用の細くて真っすぐな木も欲しい。」
"バウバウ"
「ん?細い木の場所を知っているって?じゃあ明日そこに行こうか。芋の補充もしたいし。」
木材を石ノミで削って弓を作り直す。
1作目は紐の弦を張る時に折れた。
2作目は弦を張れたが強く引くとまた折れた。
3作目は形状に気を付けて削った。
弦も引きも問題が無かったが弓がまだ薄いのか張力が弱い。
4作目でやっと納得できる弓を完成した。
ワンちゃんは大人しく座ってずっと弓を作るのを見ていた。
「ワンちゃん。お前に名前を付けようか。
そうだな...[ハチ]って名にしよう。」
"ガウ!"
ハチは元気よく吠えた。気に入ってくれたようだ。ハチの考えが理解出来ることに少し驚きを感じたが、転移なんて現象を体験すれば些細な事だと思えた。
服が乾いたようなので着る。弓を作るだけで1日が終わってしまった。
─━─━
次の日、ハチの案内で細い木のエリアに向かった。そこは細く丈夫な背の低い木が沢山生えていた。
20本ぐらい刈り取って確保する。矢筒が欲しいので何種類かの木の皮を剥いでみる。簡易的でも良いので背嚢も作りたい。
そんな作業をしている時、少し離れた場所からハチの声が聞こえた。
"ガウ、ガガウ"
「こっちに来て欲しいだって?何だろう?」
呼ばれた場所に向かうと、ハチの足と口で押さえられたカラスのような鳥が居た。
「今晩のご飯かい?よくやったハチ!」
"ガウ"
アキラは紐を取り出し鳥をぐるぐる巻きにする。
今夜は鶏肉の御馳走だ。解体できるか分からないけど。
"カアカァ"
"ガウ、ババウ"
"カァカカア"
"バウン"
なんか。こいつら喋ってるっぽい。鳥と犬って喋れないよな?異世界は獣共通語でもあるのか?
どうやらカラスが従うから助けて欲しいとハチにお願いしている。
ハチは信用できない。主とお前を食べる。と言っている。
カラスは絶対に裏切らない。もし裏切ったと感じた時はこの体を好きにすればいい。
ならば信用しよう。お前は序列二位だ。主のために励むように。みたいな事を言っている。
「おいおい。今夜の御馳走が無くなったよ...まあいいけど。」
"ガウバウ、ガウバウ"
「あ~、別にいいよ。喋れる鳥を食べるのも何だか気持ち悪いし。」
"バウガウ"
「そうだなハチ。芋を採取して帰ろうか。」
"カアカァア"
「え?お前も名前が欲しいのか?そうだな...お前は今日から[カラス]だ。」
"カ!? カァ.."
「嫌なの?」
"カァア"
「じゃあ、今からお前はカラスね。よろしく。」
"カア!"
そして芋を掘り木の実を採取して洞穴に戻った。
"カカァ"
カラスは洞穴には入らず付近の木で暮らすそうだ。警戒も行うので安心して欲しい。と伝えてきた。
食事は自分で木の実や虫を食べるので不要らしい。
転移前は一人でも寂しくなかったが、誰かと会話出来る事は素晴らしいと思った。
─━─━
翌日、ハチとカラスに矢羽が欲しいから今日は鳥類を捕獲したい。と伝えた。
鏃は黒曜石の破片を取り付けた。あとは飛行安定性を確保するのに羽が必要だ。
昨夜のうちに木の皮でお粗末な背嚢もどきと矢筒は作った。弓矢は完成してないけど。そして、もっと新たな食材や役立つ物が欲しい。
背嚢もどきを背負い、石斧と石ナイフを持ち、今日は池の周囲から少し離れた未探索エリアに向かうことにした。
しばらく探索していると、視界に見慣れた物が映った。タンポポの群生だ。
それだけなら特に気にしないのだが...サイズがデカイ!普通のタンポポの5倍はある。
たしかタンポポは食用可能で根を焙煎すればコーヒーの代用になると聞いたことがある。
花びらを1枚千切り、口に含んでみる。痺れはしないが青臭く苦い...。肉の付け合わせとしてなら十分に食用可能だろう。
そう考えて石ナイフで茎から1本切断してみた。なんか白いネバついた液体が出てきた。
花や茎根は食べられると聞いた事があるが、大丈夫なのか?少し心配になったが、根から掘り出して巨大タンポポを背嚢に入る限り詰め込んだ。
"カァカァ"
カラスが雨が降る。と言ってきた。
「なんで分かるんだ?」
"カァカアア"
早く戻った方がいい。大雨になる。急いで。と必死に伝えている。
野生動物の感覚は鋭いので信用することして洞穴に急いで戻った。
洞穴に戻り、浸水を防ぐために入り口に粘土と思われる土で簡易的な堰を設ける。
作業が完成する直前に雨が降り出した。
「本当に降ってきたよ。カラスも役立つな。」
雨が土砂降りになり雷雨となった。
「これはヤバかったな。早々に切り上げて正解だったよ。」
外はスコールの様になり、空がゴロゴロと鳴り始める。
"ゴロゴロ...ドオォオン"
「ぎゃーー。こえぇぇ」
外から赤紫の強烈な雷光が差し込む。微かに地面が揺れた。岸壁の直近に落雷したようだ。
アキラは怖くなり、ハチを抱きしめて震えていた。
そして暫くして雨がやみ日が差し込む。
「凄い雨だったな。ハチ。落雷も直近なんだろうな。どーんって揺れたし。」
"ガウ"
洞穴から外に出て周囲を見渡す。興味本位で落雷跡を探してみた。すると少し先に周囲が焦げた窪みを発見した。何気なく窪みの中の黒っぽい石を拾ってみると。砂鉄が付着していた。
「ほえぇ~、天然の磁石じゃん。これ。なんか面白いな。」
特に使い道が思いつかなかったのだが、アキラは夢中になって周囲の天然磁石を拾い集める。
周囲を探すと持ちきれない程の天然磁石を見つけ、それを全て洞穴に持ち帰った。
現在の所持品
【蔦の紐】【半月状の石】【尖った石】【黄色い木の実】【 芋】【石斧】【石ナイフ】【石ノミ】【 赤宝石(大)】【長いツノ 】【弓】【黒曜石の破片】【黒曜石の鏃】【巨大タンポポ】【背嚢(低品質)】【矢筒】【弓矢(未完成)】【天然磁石】