勇者召喚
俺は小坂光輝。高校2年で17歳。私立進学校のバスケット部で主将を務めている。
今日は放課後の練習試合でライバル校を訪れている。
彼女も応援に駆け付け声援を送ってくれている。
「よし。お前ら。今日は絶対に勝つぞ!」
「「「おう!!」」」
試合は最終局面。このフリースローを決めれば勝ちだ。
精神を統一し、この一瞬に持てる力の全てを出す。
ボールを頭上に構え、軽く膝を曲げシュートを放った。
その瞬間…
「なんだ!?何なんだコレは?」
─━─━
アタシは本庄真奈美。高校2年で17歳。今は放課後に友達とカフェでお茶をしている。
週末に大学生とコンパをするので、その話で盛り上がっている。
「…て訳なんだけど、マジやばくない?」
「「ヤバイ。マジやばい」」
「ごめん。ちょっと彼ピッピから電話。」
真奈美がスマホを操作した瞬間…
「は?なにこれ?ここは何処なのよ!」
─━─━
俺は駿河浩二。高校2年で17歳。柔道の推薦で私学へ進学した。
現在は柔道部の主将を務めている。
大人でも軽く投げ飛ばせるような大柄な体躯は、他者を圧倒する膂力を持っている。
全国大会に向けて、今日も猛特訓している。
「よっしゃ。もう一本だ!」
「主将、ちょっと休ませて下さい。」
「お前ら軟弱だな!もっと筋肉を鍛えろ!仕方ない20分の休憩だ。」
浩二がスポーツドリンクを鞄から取り出し、飲もうとした瞬間…
「ん?なんだココは?」
─━─━
私は音村小百合。親の影響でカトリック系の女学校に通っています。
現在、高校2年生で17歳です。
本当は普通の共学に通い、彼氏とか作って遊びたかった。
両親がとても厳しく、門限も5時と早い。
そのため少し内向的な性格になり、趣味はラノベとアニメの鑑賞。
今日は学校の帰りに好きなラノベの続巻を買うため、本屋へ向かう。
「あった!良かった。この作家さん、人気なんだよね。」
両親にはバレないように趣味の事は隠している。
お小遣いから代金を支払い、本屋を出た瞬間…
「えっ?なに?コレってもしかして…」
─━─━
「よく来た。勇者となるべく異界の者達よ。まずは混乱せず話を聞くがよい。」
目前の玉座に居る王らしき人物が、何か言っている。
光輝は、ふと足元をみると幾何学模様と文字らしき模様が描かれた魔法陣が光っている。
周囲を見渡すと魔法陣が他に3つ。その上に男女3名が同じように立っていた。
ギャルっぽい女子高生が王らしき人物に向かって叫んだ。
「ちょっと!アンタ誰よ!ココは何なのよ!」
護衛と鎧を着た側近達が一斉に抜刀して真奈美に刃先を向ける。
「アンタ達、誘拐犯ね!警察に電話するから!」
王らしき人物が一言「よい」とだけ言い。護衛と側近たちが鞘に剣を収める。
「預言者から"隣国で魔王の異世界召喚の兆し有り"と告げられた。我らは宝具の適正を有する勇者を異界より召喚した。その勇者となるお主達には宝具を用いて魔王と戦ってもらう。」
光輝が殺気立った周囲の空気を読み、少し丁寧に質問をする。
「俺達を日本からこの世界へ魔王と戦わせるために召喚した。って事なのでしょうか?」
法衣を着た側近と思われる1人の男が答えた。
「貴様達は王国の宝具である"伝説の武器"の適合者だ。この武器はこの世界の人間には扱えない。そのために召喚の儀を行い適合者である貴様達を呼び寄せたのだ。」
浩二も逆らえる状況では無いと感じたのか、丁寧に質問をする。
「俺達は普通の高校生です。魔王?と呼ばれる存在と戦えるとは思えませんが。」
「コウコウセイが何を表しているかは知らんが、"伝説の武器"の適合者は、装備をするとそれに見合った能力を武器から付与される。勿論、今すぐに戦いに向かわせる訳では無い。基礎的な戦闘技術は王国の騎士団が指導する。宝具の扱いに慣れてから討伐に向かわせることになる。」
この法衣を着た側近は自分は"キスリト神教会"の枢機卿だと言った。
そして、この"伝説の武器"は"ロトンの末裔"となる者にしか扱えず、召喚者は神の代行者として教会から、この大陸"アフレガルト"を救うために代行者特権を与えられると伝えてきた。
すると小百合が"ボソッ"と小さな声で何かを言った。
「異世界召喚、チートきたコレw」
光輝が枢機卿へ質問をする。
「あの、魔王はこの世界の軍隊じゃ討伐出来ないのでしょうか?」
「魔王は普通の武器や魔法は通じぬ。魔族を従え魔物を操り、この世界を滅ぼそうとする存在なのじゃ。それにこの国は隣国と戦時下で軍を多方面へ配置しておる。そのため召喚を行い貴様達を呼び寄せたのじゃ。」
「魔王討伐を断ったらどうなるのでしょうか?」
光輝が話したと同時に真奈美が叫んだ。
「アタシは嫌よ!争いなんてした事ないし、痛いし汚れるから嫌!」
すると枢機卿が
「貴様達に拒否権は無い。断るなら…」
周囲の護衛と鎧を来た側近たちが再び抜刀した。
「わ、わかりました。魔王討伐は受けます。終わったら帰れるのでしょうか?」
「魔王の核を使い帰還の儀を行えば、元の世界へ戻れると預言者から告げられておる。」
光輝と浩二は観念したのか、大人しく国に従う事にした。真奈美は「何でアンタが勝手に決めるよ!」"ブツブツ"と文句を光輝に言っている。小百合はニヤニヤとしながら立っていた。
そして部屋に"伝説の武器"が運び込まれ、それぞれの適正が計られる事となった。
光輝が再び枢機卿に質問をする。
「もし俺達が"伝説の武器"に適合しなかったら、どうなるのでしょうか?」
「その場合、貴様達は処刑される。教会と王国の予算を無駄にした罪でな。」
4人とも顔面が蒼白になりながら、武器適性を受けた。
光輝は"ロトンの聖剣"
真奈美は"神樹の杖"
浩二は"破壊神の斧"
小百合は"祝福の書"
4人は適性を有していたことに安堵を覚え、退室を許可されて与えられた城内の個室へ移動した。
その夜、4人は光輝の部屋に集まり話し合う。
「なあ、この状況ってどう思う?」
「知らないわよ。もう好きにしてって感じ。マジ最悪。」
「俺は理不尽だとは思うが、見知らぬ世界とは言え破滅を防ぐ助けが出来るなら協力すべきだと思ってる。」
「私は、今は戻れないなら国の方針に従う他は無いと思うの。」
4人は夜更けまで話し合い、互いに協力して魔王討伐を行う事で一致した。
その後、各自の適正に合わせ、騎士団から基礎訓練を受ける。
一人は勇者として剣の扱いに長け
一人は魔法使いとして攻撃魔法に魅了され
一人は戦士として膂力を生かした破壊力を得て
一人は僧侶として回復支援の術に感動して
それぞれが非現実な力の虜になり、己は選ばれた存在だと信じ込み、この世界の思考に染まっていった。
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地方の村で魔族と思わしき者が出現した。と街から王都へ報告が入る。
ついに魔王討伐への出発の時が来た。
この世界に来た時とは、別人とも思える雰囲気を醸し出している。
光輝達は、その魔族に関する情報を調査するため、最初の目的地を地方の村へと定めた。
乗馬の訓練も行ったが、乗りこなすには時間が不足していたので徒歩で向かう事にした。
国からは初期経費として、各自へ多数の金貨が支給された。
もし旅で不足した場合、後は自力で資金を調達するようにと言われ、定期報告を"冒険者ギルド"を通じて行うように指示された。
国が少し非協力的だと感じたが、異世界を見て回れる事への期待感の方が大きかった。
その後、旅に出発してからスライムやゴブリンなどを討伐して小さな経験と大きな自信を得る。その勘違いが大きな落とし穴になるとも気付かずに。
そして街道でキラ達と出会ったのであった。