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バーザス

 バーザスは南太平洋上に浮かぶ

強大な力を持った国家である。

 数百万の人口をかかえる首都クルールは、

南太平洋の真珠と呼ばれるほどに

美しい景観を誇る都市であった。

 数十階の高層ビルが建ち並び

整然と区画整理された道路には

自動車クルマがあふれていた。

 マーク・レナードは恋人のジル・ハリスと

首都クルールの目抜き通りを歩いていた。

 マーク・レナードは陸軍の将校。

 ジル・ハリスも軍関係者だ。

 二人は久しぶりの休日を楽しんでいた。

 おいしいと評判のレストランで食事。

 映画。

 ウィンドウ・ショッピング。

 やる事はどこも同じだ。

 二人は-----通りを

自動車を止めてある駐車場へ。

 その時

近くで

まるでカミナリが落ちたような大音響が

林立するビルの群を揺るがした。

 「マーク」

 ジルが思わずレナードにしがみついた。

 マークも何が起こったのか-----

わからない。

 周りにいる、

歩道を埋め尽くさんばかりの人々も

キョロキョロと。

 腹に響くような震動が

断続的に

地面を通して

マークたちの身体に直接伝わってくる。

 「何?コレ」

 ジルがそちらの方を。

 表情は不安に-----。

 その時

腹に響く、

地獄の底から聞こえてくるような咆哮がこだました。

 ビルの向こうが、異様な光を発した。

 「カミナリ?」マーク。

 「まさか」ジル。

 落雷の光り方とは明らかに違う。

 次の瞬間

ビルの陰から通りの反対側にあるビルへと

光の帯が伸びていった。

 光の伸びたビルは、一瞬にして溶解。

 崩れ落ちる。

 それも次々に。

 人が

自動車が

蒸発していく。

 「そんな」

 マークもジルも何が起こったのか

呆然と。

 まるで映画のワンシーンを見ているよう。

 ビルの陰から

黒い巨大な影が。

 百メートルはある。

 マークもジルも口をあんぐりと。

 「怪獣?」ジル。

 「そんな馬鹿な」マーク。

 「映画の-----撮影-----か。

 何かじゃあ」

 「映画の撮影では

ビルは壊れないよ。

 あれはセットを壊しているだけ。

 馬鹿!逃げるんだ」

 周りの人々もパニックを起こしている。

 怪物はその人々へ向け

口からレーザーを。

 人々が蒸発。

 悲鳴がビルの間をこだまする。

 警官が二三人

怪物へ向けピストルを。

 しかし全く-----こたえない。

あの巨体ではピストルの弾丸など

皮膚の表面で止まってしまうだろう。

 怪物はなおもビルを人を自動車を。

 あの地鳴りのような足音とともに

マークたちの方へ向かってくる。

 「あんなものじゃあ、ダメだ」マーク。

 年配の男が

どこから持ち出したのか

自動小銃-----突撃銃-----を構えて撃ち出した。

 近くのスーパーマーケットであわてて買って来たらしい。

 その証拠に値札もついている。

 「この前の巨大恐竜の時は

スーパーが休日で銃を買えなかったが

今回は。

 俺様の生まれ育ったこの都市まち

好き勝手はさせん。

 思い知れ」

 フルオートで怪物を撃ち出した。

 相当-----このオッサン

動揺しているのか。

 わけのわからん事を口走っている。

 このクルール市で

こんな怪物が暴れた事などは

記憶にある限りは

ない?

 -----はず。

 そう言えば。

 マークも気づいた。

 何とかいう映画の中で。

 確か。

 このオッサンの年齢から見てあれか-----。

 という事は

この男。

 映画と現実を。

 動揺して

混同しているのか。

 怪物もこれで終わりか?

 男の撃った銃弾は怪物へ。

 機関銃を撃ち出した者もいる。

 怪物はモンドリ打って倒れ込み

断末魔だんまつまの苦しみに

モガキ、ノタウツはずがーーーーーやはり小銃弾ではーーーーー。

 全く。

 何事もなかったよう。

 男は

信じられないといった様子。

 「そんな馬鹿な。

 巨大恐竜なら-----。

 機関銃で撃てば死ぬはずなのに」

 怪物が男の方を向いた。

 眼が合ったようだ。

 男は放心状態。

 怪物は怒りに燃えた眼で。

 全身が異様に光った。

 口からレーザーのような光を。

 男の今までいた道路が

地面ごと溶け、蒸発した。

 マークもジルも横道へ。

 ビルの脇道を、辻から辻へ。

 「どうしましょう」ジル。

 「そんな事言っても」マーク。

 二人ともこの事態が

夢か現実かもわからない。

 マークの眼に銃砲店が。

 「ジル。本部へ連絡してくれ」

 ジルは携帯を取り出し。

 見ると何人かが

携帯片手にでわめき散らしている。

 「マーク。あなたは」

 マークはニヤリとしただけ。

 何事が起こったのかと、

店の前でキョロキョロと

都市まちの様子をうかがっていた店主を強引に。

 怪物が現れた事を

必死に説明しようとしている。

 銃砲店へと消えていった。

 怪物はその間も

ビルを人を。

 都市はビルがビル火災特有の火を

煙をあげている。

 ジルは所属部隊の長へ

直接電話した。

 しかし-----動揺しているのか

何を言ったのか全く記憶にない。

 とにかく

向こうが一方的に

いつの間にか切っていたらしい。

 気づくと

切れた携帯に夢中でしゃべり続けていた。

 どうしようもない。

 ジルはマークを捜した。

 銃砲店へと入っていく。

 マークが何やら

店主と言い合いをしている。

 「どうしたの」ジル。

 「いや。

 このわからず屋が

ロケット発射筒を売ってくれと言っているのに

モタモタして」

 「ロケット発射筒。

 あれなら」

 ジルも納得。

 歩兵が肩にかついで撃てる

個人用の対戦車ロケット弾を発射するものだ。

 「とにかく早く出せ。

 怪物が暴れているんだ」

 外では

怪物が口からレーザーを吐くたびに

ビルが破壊される轟音が。

 店主も相当気にしてる-----が。

 そこへ血相を変えた男が飛び込んできて

“ロケット発射筒を出せ。

怪物が”

である。

 店主がグズるのもいたしかたない。

 「お嬢さん。

 しかし」

 「何でもいいから。

 早く出して」ジル。

 店主もしぶしぶロケット発射筒を

カギのかかった隣の部屋から持って来た。

 「これさえあれば」

 マークはすぐさま

携帯用のロケット発射筒を引き伸ばし、 

撃つ準備をしつつ

店の外へ。

 店の前でロケット発射筒を肩に

上空へ向け

怪物がノシ歩くメインストリート方向へ。

 上空には軍の偵察ヘリが。

 マスコミのヘリも見える。

 「ちょっと、お客さん」

 「代金はこれ」ジルが。

 「そんなんじゃあ。

 金の問題じゃないだろう。

 そんなもの

こんな町なかで」

 あわてて店の外まで追いかけて来た。

 「ウルサイ。

 怪物がいるんだ」

 「怪物!

 そんなものいるわけが。

 ちょっと。

 この野郎。

 ヤメロ。

 この○○野郎」

 ロケット発射筒を構えて狙いをつけるマークを

制止しようと

店主が手に持った銃の引き金に。

 「やめないと撃つぞ。

 早くそれをそこへ置け」

 しかしマークは

空中の一点へ狙いをつけたまま。

 「やめなさい」

 ジルも店にあった銃を片手に

 店主へ銃を。

「しかしお嬢さん。

 この野郎は」

 その時、

例の不気味な足音が。

 怪物の咆哮が。

 ビルの陰から怪物の姿が。

 店主は-----声にならない。

 ガタガタと震えだし

腰が立たないらしい。

 怪物はレーザーを。

 進行方向のビルを次々に。

 横から狙いをつけるマークには気づかないらしい。

 ビルを破壊し続けている。

 「早く」

 店主は声にならない。

 マークは低いビルの屋上越しに撃つつもりらしい。

 距離は百メートルあまり。

 怪物が-----巨大に見える。

 マークの視野一杯に広がる。

 怪物の全身が光った。

 レーザーが前方のビルをなぐ。

 「この野郎」

 マークが叫んだ。

 ロケット発射筒が火を噴く。

 ロケット弾が白い煙を引きながら。

 この距離でははずれようもない。

 「やった」

 マークもジルも。

 店主も小躍こおどりしながら。

 なにせ-----戦車でも一発で撃破できる

対戦車ロケット弾である。

 爆発と同時に

前方へ向け数千度の高熱ジェットガスが噴き出し

厚さ数十センチの鋼板を撃ち抜く。

 その効果を疑う者はいない。

 怪物は

動きを止めた。

 「倒れるぞ」店主。

 あの巨大な怪物が倒れてくれば

ただでは済まない。

 “逃げなければ”

 身体が動かない。

 しかし----- 

怪物は倒れない。

 ゆっくりと

怒りに燃えた眼をマークたちの方へ。

 向けた。

 マークたちは声も出ない。

 怪物が全身を

異様に光らせた。

 レーザーが

その巨大な口から。

 次の瞬間

マークたちはその光の中に飲み込まれていた。


 



























         


 ゴーザスは都市を

目に付く巨大な高層ビルを

その生物レーザーで片っ端から破壊し続けていた。

 ビルが崩れ落ち、道路が溶け、

自動車が、人が焼かれていく。

 「目標、発見」

 対戦車ヘリが数機

ゴーザスへと向かう。

 ゴーザスが生物レーザーを。

 超高層ビルが崩れ落ちる。

 「クソー」隊長がうなった。

 攻撃許可はすでに出ている。

 「いくぞ」

 30ミリ機関砲が

ミサイルが。

 「何か-----。

 映画みたいだな」

 部下の一人がつぶやいた。

 攻撃ヘリが。

 「覚悟しろよ」

 機関砲を。

 これで撃てば。

 機関砲弾は怪獣へ

吸い込まれるように。

 あれだけの巨体

はずれるはずもない。

 「思い知ったか」

 しかし-----。

 「ダメです」

 ゴーザスは

ヘリに気づいたのか

ヘリへ向け、生物レーザーを。

 ヘリが数機

次々に爆発、消滅した。

 「ちくしょう。

 機関砲ではダメだ。

 対戦車ミサイルを使う」

 レーザー誘導の最新型のものだ。

 威力も大きい。

 その間もゴーザスの生物レーザーが

味方のヘリを襲っている。

 「撃て」

 対戦車ミサイルがゴーザスへ。

 命中した。

 第二次大戦中に使用された

無反動砲、ロケット発射筒と同じ

○○効果を利用したその弾頭からは。

着弾と同時に爆発。

 前方に数千度の高熱ジェットガスを噴き出し

数十センチの鋼板をも溶かし

蒸発させながら貫く。

 しかし-----。

 怪物は-----何事もなかったよう。

 「そんな」

 ゴーザスがこちらを向いた。

 全身が、生物レーザーが。

 ヘリは次々に墜とされていった。

 ゴーザスはクルール市内を火の海に。

 戦車が十数両。

 近くの駐屯地ちゅうとんちから駆けつけてきたのだろう。

 重砲も見える。

 ゴーザスはメインストリートを広場へ。

 戦車隊はそこで迎え撃つつもりのようだ。

 バーザス陸軍。

 第五機甲師団、師団長のニール・パークス中将は

偵察ヘリから送られてくる映像越しに

その様子を見ていた。

 「こんな事があってもいいのか」

 暴れる怪獣を見て、つぶやいた。

 「しかし、現実に」

 副師団長のホーリー・リンク少将。

 参謀長のニック・ルイス大佐もいる。

 ゴーザスが広場に達した。

 戦車が装弾筒付翼安定徹甲弾《そうだんとうつき、

 よくあんてい、てっこうだん》を。

 それは砲口を離れた直後、

砲弾を覆っていた装弾筒が飛散し、

矢のように細長い劣化ウラン製の徹甲弾が

ゴーザスへ。

 それも十数発同時に。

 しかし

火花を散らしただけ。

 「そんな」ルイス参謀長。

 ゴーザスが全身を。

 生物レーザーが

戦車をなぐ。

 戦車が一瞬に蒸発。

 重砲も撃ち出した。

 重砲弾がゴーザスを襲う。

 しかし

 全く、効果がない。

 上空には空軍も。

 レーザー誘導爆弾が。

 直撃。

 ゴーザスが生物レーザーを。

 航空機が次々に蒸発していく。

 パークス師団長はじめ、全員真っ青。

 「信じられん」パークス。

 「どうすれば」リンク。

 ゴーザスは軍の攻撃に

怒り狂ったように生物レーザーを。

 都市が、ビルが。

 パークスたちはどうしようもない。

 「増援は」パークス。

 「それが-----時間が」ルイス大佐。

 立ちすくむのみ。

 「あれは?」

 参謀の一人が空の一点を指差した。

 巨大な何かが

近づいてくる。

 金色に輝くそれは-----。

 地上に降り立った。

 「何だ。あれは」パークス師団長。

 それは

身長百メートルはあろう、

全身金色の

巨人であった。

 「まさか-----」

 「あんなモノまで。

 実在していてもいいのか」

 一同-----声もない。

 「これは夢に違いない」

 「ただの、怪獣が出てくるだけの

怪獣映画を思い浮かべていたので。

 まさかあのような巨人まで。

 予想も

できなかった」

 「どうしよう」

“怪獣が一頭だけなら専門家を集めて。

しかし彼らではーーー。

どこかから、その手の○○サイエンティストが

現れるのを待っていればいいはず“

 あまりの事に

何を言っているのか、考えているのか。

 あれやこれやと頭の中を。

 人型の巨人は

怪獣へと向かった。

 怪獣は一瞬たじろいだよう。

 全身を光らせた。

 生物レーザーが巨人へ。

 しかし

戦車を一瞬にして蒸発させるゴーザスのレーザーに

巨人はビクともしない。

 巨人はゴーザスを手刀で水平打ち。

 首に手をかけ、首投げにした。

 大地が揺れる。

 起き上がったゴーザスは

巨人の肩口へ牙をたてた。

 しかし巨人は全く

こたえない。

 歯が立たない。

 強引にゴーザスを引きはがす。

 ゴーザスな巨体を軽々と持ち上げ

投げつけた。

 大地が。

 巨人の全身が光った。

 巨人の右腕が

前方に水平に構えられた。

 左手は右の手首を軽くつかんでいる。

 巨人の右の手の平から光の帯が。

 その光を受けたゴーザスは

身体の内部から発熱を。

 次の瞬間。

 全身が白熱化。

 溶け崩れた。

 パークス中将たちは何が起こったのか。

 「我々は救われたのか」リンク副師団長。

 巨人は新たに現れた戦車隊を

航空機を見つけた。

 「どうします。

 攻撃しますか」ルイス大佐。

 あの映画のあのシーンでは

巨人は正義の。

 いや、しかし

あの映画のあのシーンでは

巨人は敵で。

 どうしよう。

 「いや。待て。

 様子を見よう」師団長。

 巨人は戦車を

航空機をグルリと見回した。

 参謀長がゴクリと生唾を。

 巨人の全身が光った。

 巨人の腕から

生物レーザーが。

 戦車が一瞬にして消滅。

 航空機も。

 「攻撃を」パークス。

 「やはり、奴も」リンク。

 「甘かった」パークス。

 戦車が戦車砲を

航空機が爆弾を。

 巨人はそれをまともに受けた。

 まるで自分自身の強さを

確めるかのように。

 全く、こたえない。

 巨人は戦車を航空機を

ビルを。

 そして-----。

 その結果に満足したのか

いずこへともなく飛び去った。

 「あんなもの。

 どうすればいいんだ」ルイス。

 全員

巨人の飛び去る姿をジッと見つめていた。


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