夜の世界… 後編
その部屋に入ると、中には老人が座っており。後ろには鍛冶屋と言わんばかりの鎚も飾ってあった。
この人が、バンケルか。そこには威風堂々とした気迫で座っており、まさに歴戦の職人を思わせるたたずまいだ。
「おじいちゃん、夜の世界への航路を知りたいって人が来たよ」
「おお、やっときたか、ずいぶん待たされた気がするな」
待たせた?来るなんてことは一言も言っていないが、いや、町の人間がつたえたってことはあるのか。 なんにしても、この老人から聞けば航路がわかるに違いない。
「ノア・クロックよ、儂のことは知っておるな?」
「いえ、あなたとは初対面のはずですが?」
「なに、話を聞いとらんのか、ならどうやってここに来たんだ?」
そうして、旅に行く経緯いと、本を見て行ってみたいと夢に見ていたということを伝えた。
「なるほどな、本を残しておいたのか」
「本の作者について知っているのですか?」
「知ってはおるが、それは夜の世界に行けばわかることだ」
なるほど、あの世界に行けばこの素晴らしい本を書いた作者に出会えるというわけか。
「では、夜の世界について話そうではないか」
そして、夜の世界についての情報をいろいろと話してくれたどうやらこの老人も一緒による世界に行ったという。そのこともあって、話はまさに冒険譚と言うに言うにふさわしい素晴らしいはなしだった。
「そこで、夜の世界に行くまでにある最後の島、この無人島に着いたら万全の準備をせんといかん。ここから、先が夜の世界がいかれていないわけデットポイントと呼ばれる嵐の地帯に入ることになる」
「デットライン…」
噂には聞いたことがあったけど、あまりの天候の悪さに近づくものをすべて飲み込むと聞いたことがある。だからこそ、夜の世界が知られていないのかと納得が行くが、そんな場所に行くとなると中々難しい旅になることはあきらかだ。そんな俺のことを察してかバンケルは言ってきた。
「そこで、儂の孫も一緒に連れて行ってほしい。船大工の仕事もできるし、船の操縦も可能だ」
願ってもみないことだった。俺は快くその申し出を承諾した。彼女なら期待もできそうだ。
「ぜひ、お願いします」
そう言って、後ろの彼女を振り返った。
「よろしくな、えっと…」
「シリアです。私も夜の世界には前から行きたいと思ったていました。ぜひ、よろしくお願いします」
彼女はこの時を待っていた言わんばかりに喜んでいた。
「こちらこそ」
そうして、俺たち二人はイリノイ島を出航した。二人の旅は順調に進んだ、これもシリアの活躍によるものがでかい。彼女は知識に技術どちらを取っても申し分ないくらいだった。それでも困難がないわけではなかったかが力を合わせてそれも乗り越えた。
そうして、俺たちは、夜の世界に行くまでの最後の島になる無人島に着くこととなった。俺は、色々とシリアに世話になったと思う。そう言ったお礼も今のうちに言っておきたいと思った。
「あの、シリア、色々ありがとな、お前がいなかったらここまで来れてたかわからなかった。本当にありがとう」
「何言ってるんですか、まだ終わったわけでもないのに。私こそ、連れ出してくれてありがとうございます」
お互いに礼を言い、デットラインに進むことに決めた。ここからは、気が抜けないだろう。
そこは、まさに、荒れ狂う海だった。風は吹き荒れ、波は同じ波長を刻まないそんな海だ。はっきり言って死ぬと思った。
「シリア!大丈夫か!」
「ええ!なんとか!」
シリアは荒れ狂う波の中でも舵を手放さずにいてくれる。しかし、かなり限界が迫っていた。危険にはなるだろうとは予測していたが、予想をはるかに超えていた。
そして、意識が飛びかけたその時、ぱったりと嵐がおさまった。だが、まだ周りは暗闇のままだった。そう思い上を見上げるとそこには光が点々と存在していた。
「星だ…」
そうやっと俺たち二人は夜の世界に入ることができたのだ。その景色はまさに絶景だった。横を見るとシリアが涙を流しながらへたり込んでいた。そして、俺は初めて見る月と言うものに対して驚きを隠せないでいた。
「これが月か、綺麗だ」
疲れ切っているはずの体が硬直してしまっている。だがそれくらいこの景色をずっと見ていたいと思った。そうこうしているうちに、陸に着いた、目標の旗と言うのはすぐ近くにあった。
そこには手紙もありこう書かれていた。
「綺麗だろ。 ジノ・クロック」
父さんの名前が書かれていたことをおかしく思いながらこう呟いた。
「綺麗だな」