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超短編2

へるぷみー!

作者: しおん


「なんなんだよあいつ、授業わかんねーよ」



ぼそりとこぼしたこの一言。

誰も聞いてないと思ってた。



「優等生くんでも悪口ゆーのな」



聞かれてたのは災難にも人工的に色素を抜かれた髪とチャラチャラしたアクセサリーを身に纏った、不良に属する奴だった。








僕は品行方正な優等生。

を、演じている男子生徒だ。みんなの手本になれだとか、生徒の代表だとか。そんなことを言われていても所詮演じられた優等生。心からの行いでないのだから不満ぐらいある。


何故演技なんてしてるのか。そんなことを聞いてきたのは誰一人としていなかったけれど、別に意識してこうなったつもりはない。いつの間にかその役割を与えられていただけなのだ。

しなければならないからしている。それのなにも間違ったことではないだろう?どんな人間にだってそれぞれ役割がある。それが本来の性格だとは限らないけれど、それは神様のイタズラってやつだ。受け入れるほかない。


かくして、僕は優等生となった。


桃から生まれたから桃太郎になったようなもので、こんなことさして気にすることはない。ただ問題なのは現状だ。優等生の本性が暴かれようとしている。これは大問題だ!


生まれてこのかた親にもばれたことがないというのに、こんなどうでもいいやつにバレるわけにはいかないのだ。

しかし僕は運がいい。こいつは馬鹿だ、うやむやにしてしまえばどうにでもなる。 



「別に誤魔化さなくてもいいよ。優等生くんが本当は馬鹿で、一生懸命勉強してることも知ってるからさ。でも残念だよね、どれだけ頑張っても秀才にすらなれないんだからさ」



こいつは何を知っていると言うんだ。

いや、この場合どこまで知っているのかが正しいのだろう。こいつの言葉通り、僕は馬鹿だ。人より勉強をしなければ成績も底辺だろうし、勉強しても良くて上の下。同じように勉強しているやつらよりも断然成績が悪いのだ。秀才にすらなれない。僕の現状を知らなければそんな皮肉は浮かびすらもしないだろう。



「ところでさ、優等生くんは固まってないでそろそろ何か言ってくれないかな?これじゃまるで、俺がいじめてるみたいじゃないか」



いや、できるならそれでいい。その方が後々楽だ。にこやかにしてる不良に、ここで変に切り返してみろ。まるで不良と優等生が仲良しみたいじゃないか。


それはない。ありえない!


風紀委員と不良が喧嘩腰で話している姿なら良く見る光景だと素通りするが、ひ弱そうな優等生と不良だ。いじめの光景がお似合いに決まってるだろうがっ!



「ちぇー。張り合いないなあ、優等生くんは。真面(まじ)メガネくんとしかお話する気はないってことですか。そうですか」



「そうですよ」



「あっははっ!やっと話したと思ったらそれ!?いいよ優等生くん。とっても面白いよ」



彼が笑う度揺れるアクセサリーはジャラジャラという重い金属独特の音をならし、その耳障りな音がなると、ざわめきのあった教室からは彼以外の音が消えた。


まずい、これは非常にまずい。止まない彼の笑い声に何事かと皆が様子を伺っている。やめてくれ、悪目立ちはしたくないんだ。僕はただの優等生でありたいんだ。



「聞いてよクロ。優等生くんがさぁ」



空気がよめないにも程があるだろう。みんなの注目集めてるってのによく平然と話ができるな。それにしてもしんと静まり返った教室に不良の声はよく響いた。いや、実際声が大きかったんだけどさ。聞き耳をたてていなくとも勝手に耳に入ってくるぐらいに。



「興味ない」



そう返したのはクロと呼ばれた不良で、こちらはチャラチャラした不良君とはまた別の強面な不良君。彼と対面して話すときは誰もが恐れおののくらしい。いや、絶対おののく。これは怖い。



「というかコレ、何?」



何。

人を指差して尋ねることではないと思うのだが、強面君の指は僕を捕らえて離さない。つまり何というのは......



「優等生くんだよ?」



不良くんはあたりまえだろーとケラケラ笑いながら強面君の背中をバシバシと叩いていた。そんな恐怖行動をハラハラと眺めていると不良くんと目が合い、唐突に噴き出された。


「ブッファ!優等生くんは肝座ってんのか、座ってないのか、わっかんねー!」


あはは、あははと壊れるように笑う不良くんはなんだか怖い。


「俺に対しては微動だにしなかったのに、クロ見たとたん……ブッハァ!」


ケラケラと笑い声が消えないのが原因か、目の前の強面くんは眉間のしわを深く刻ませていく。え、まじで。それより凶悪な顔になるとか聞いてないんだけど。

自分の身かわいさにこの場所から早く離れたい僕は、何も口にすることなく二人からじりじりと距離をとった。


「優等生くん、どこ行くの?」


やはり、こんな安易な手ではばれてしまうのか。自分の失敗に対する教訓を胸に刻みつつ、仕方ないから二人との距離を少しだけ詰める。それでも納得しないのか、奴は一人で僕に近づいてきたけど。


「もしかして、逃げられるとでも思った?」


さようでございます。

なんて口が裂けても言えない僕は、


「いや、えっと……」


と言葉をただただ濁らせて、会話をスルーした。まじかよ。逃げることすら不可能ってどうしたらいいわけ?このままここにいたら絶対に死ぬのに、それを回避させてすらくれないって何なのこの拷問。


優等生としての僕どころか、僕そのものの存在すらも怪しいんですけどー!!




へるぷみー!




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