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映画「明日に向かって撃て!」にみる悪漢―ブッチ&サンダンスの魅力

 



 平野耕太さんの漫画「ドリフターズ」を読んでいたらブッチ&サンダンスが登場した。

 映画「明日に向かって撃て!」を知らなくてもドリフターズを読んでこの二人組を知っている方がいると思う。

 アメリカン・ニューシネマの傑作として名高い、実在の人物をモデルにした映画です。

 日本公開が1970年らしいので、約半世紀前の作品になります。

 だいぶ古い映画ですけれども、良作は時代を経ても陳腐とならない特徴があります。

「明日に向かって撃て!」も同様で、現在視聴してもそこには、ある種の魅力を見出せることでしょう。

 それゆえ平野さんも漫画に登場させたと思われます。


 このエッセイの作者は小学生の頃、「明日に向かって撃て!」を観たことがあります。

 やはり子供には理解しにくい部分があったものの、なんとも切ない、まさに劇的な終わり方が印象的でありました。

 ネットでレンタルして再度視聴してみたので、悪漢の魅力という視点を軸にしてエッセイにまとめました。


 まず主人公二人はポール・ニューマンとロバート・レッドフォードが演じている。

 二人とも極めて有名な俳優なので知っている人も多いはず。

 で、気づいたのはこの二人、もう既に若者ではないということ。

 30代の半ばから後半ぐらいに見えて、しぶとくて強かな男だけれど、ちょっとした疲れも仄かに見える……そういうキャラクターである。

 まぁ、おっさん二人と言ってしまってもいいかもしれない。

 ラノベだと少なくても肉体だけは若者である主人公が多いと思う。

 転生主人公だと中身は大人だったりするけれど……。現に筆者の作品もそうであります。

 劇構造として主役の年齢設定は重要です。

 ブッチ&サンダンスは、やり直しの利く若者ではないという重要な位置づけがされているわけです。


 このブッチ&サンダンスの年齢はまさに今現在の自分とまんま被るので、見ているとやたら胸に来るのである。

 小学生の時には無かったこの感覚……。


 作中、特に印象に残った台詞にこんなものがあった。

 記憶を頼りに書き出してみます。


 保安官「お前らは所詮、小悪党さ。ちょっとばかり名は売れてはいる。でも最後は血塗れになって死ぬのが相応の奴らだ」


 また作中ブッチ&サンダンスはピンチを切り抜けて何度か堅気の道に進むチャンスが巡ってきます。

 しかし、ブッチは諦めたように呟く。


「牧場は体にこたえる。つらい労働だ……。もう俺たちには無理だ」


 これが現実なのである。

 過酷な牧畜業が嫌になり牛泥棒や列車強盗をしていたのに今更もう一度、牧場なんかやれるか……。

 すごく良く分かる感覚だ。

 ある年齢になると肉体労働はやりきれない。

 若い頃から続けていて、その延長としてならばありうるけれどリタイアした者が再挑戦できる分野ではない。

 人生を変えようもないまま、ブッチ&サンダンスは強盗を繰り返して放蕩三昧。

 刹那的で、ロクデナシと言える。

 愚かだ。

 そこには破滅の予感が匂う。

 それでも明日は来る。行かねばならない……。


 悪漢、ピカレスクという言葉がある。

 作者は学者的に研究したわけではないから、ネットで調べたことをざっとまとめると……もともとはスペイン語の「ピカロ」(picaro)がもとのようだ。

『ピカロ、グスマン・デ・アルファラーチェの生涯』Vida y del Picaro Guzm?n de Alfaracheという本が第1部は1599年、第2部は1604年に上梓されたらしい。

 作者はマテオ・アレマン  Mateo Alem?n、1547年 - 1616年。

 え、そんな昔かよって感じですよね。

 日本ではちょうど関ヶ原の戦いが行われていたころという……。


 Picaroという単語の意味するところは悪者、悪漢、悪党……など。

「ピカレスク」は、そのピカロが「picaesca」に変化したものらしい。

 本自体は未読なので、申し訳ないが書評は書けないです。


 小説や映画には様々な主人公がいてブッチ&サンダンスは、あきらかにピカレスクの男たちである。

 さて、それでは悪者が主人公ならどんな内容であっても悪漢「ピカレスク」の物語りになるのだろうか?

 というのがこのエッセイのテーマであります。


 結論から言うとピカレスクの男は、単なる悪者ではありません。

 以下に特徴を上げると……。


 なるべく殺さない。

 女子供には手を出さない。

 盗むのは金持ちから。

 ケチじゃない。

 仲間は大切にする。

 冷酷ではない。

 覚悟がある。


 まあ、特徴をあげるならばこんなところでしょうか。

 なんかルパンみたいな……。

 愛すべき人間性が全くないと、それは単なる低劣な悪人となってしまいます。

 サイコパスを主人公に据えるという方法もありますが、それは悪漢ものとは別のお話しでありましょう。


 悪漢を悪漢なりにしっかりと描けば、薄っぺらな正義だけを持つ人物よりも、よほど魅力的になる。

 むしろ、観客に強い共感を与えることができる。

 それがピカレスクの深みと言えるでしょうか。


 作中ブッチ&サンダンスの関係がやはり面白いです。

 けっこう口汚く罵り合うところもあるのですが、心の底では信頼しているのが分かる描写になっている。

 似た者同士だけれど、ちゃんと役割分担があって互いに欠けた部分を補う相互補完の関係になっています。

 表面上の浅い付き合いに終始しがちな学校や社会生活とは程遠い、ワイルドでタフな人間関係は時代を超えた味わいがあります。


 個人的には馬がたくさん出てきたところも楽しめた要素です。

 雄大なアメリカの原野や岩場を馬と人間が駆け抜けて、逃走劇を繰り広げます。

 その景色の広がり方と舞台の巨大さときたら……すげ~となってしまいます。


 なお作者は小説に馬を頻繁に登場させています。

 冒険者が標識などあるはずもない未知の大地を、馬と共に旅する……。

 想像するだけでワクワクしてきますね。


 以上、映画「明日に向かって撃て!」にみる悪漢の魅力でした。


お読みいただき、ありがとうございます。


獣の見た夢ー父親殺しの転生綺行 

http://ncode.syosetu.com/N1682DD/

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