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第七話

書き直しました2019


 空を貫くような、鋭く尖った岩山は雪に覆われていた。白銀の中に、灰色の岩肌が浮かぶ。大雪にまみれた山々は幾つも連なっていた。


 その中でも抜きん出て鋭く高い山の中腹に、大きな亀裂が走っている場所があった。その先を進むと、巨大な洞窟が口を開けていた。


 僕達は、その洞窟の中で静かに息を潜めていた。

 ここは、驟雪国にある魔竜の巣とされているものの一つだった。 


 驟雪国王都、獅間子しまねにある、獅子城から持ち運ばれた転移のコインによってこの山の麓へ出たときは、寒くて死ぬかと思った。


 条国においても今は冬だったけど、どんなに寒くてもマイナス二度を下回る事はないし、そう寒いのは朝方だけだった。故郷、ルクゥ国であってもマイナス四度を下回ることはない。


 だが、驟雪の北部は昼でもマイナス十度は当たり前。しかも、この山脈は更にひどい。マイナス四十度もある。燗海さんによれば、それでも今日は暖かいという。


 僕は既に閉じられていた毛皮のコートの襟を掴んで、更に締めた。松明の火が吐く息が白い事を知らせる。寒さにかじかみながら、燗海さんごしに辺りを窺った。


「ここにはおらんな」

 燗海さんがぽつりと独りごちて、振り返った。


「進むぞい」

 低声で言って立ち上がると、後ろで数人が動く気配がした。


「そんなに慎重になる必要がどこにあるんだ」


 緊迫感が漂う中で、ヒナタ嬢がつまらなそうに呟いた声が聞こえた。

 僕は振り返ると彼女に目を向けた。もしかしたら不快さが出てしまって、睨んだ形になってしまったかも知れない。


 でも幸いな事に、彼女は僕を見ていなかった。

 どことなく不愉快そうに、ヒナタ嬢は燗海さんを見ていた。


 燗海さんは真剣な面持ちを、柔和な顔つきに戻した。眉を八の字に曲げて、駄々を捏ねる子供を見るような目をヒナタ嬢へ送る。


 ヒナタ嬢の後ろにいる二人が、緊張感のある雰囲気をかもし出した。明らかに、困惑している。この二人は、条国の王族だ。


 奥にいる人が、愁耶しゅうやさんといって、長身でがっちりとした体格を持っていた。瞳はスカイブルーで、髪は茶色の短髪、年は三十八から四十あたりだろう。


 もう一人、手前の彼は彪芽あやめさんと言って、青緑の瞳に黒髪の青年だった。背はそんなに高くなく、ヒナタ嬢と同じくらい。年は僕より少し下の二十代前半といったところだ。


 条国の王族に会ったのは彼らと王と殿下、マルを含めて十一人いるけど、いずれも皆青色系統の瞳を持っていたな――と、二人の目を見てなんとなしに思い浮かんだ。


 ヒナタ嬢が珍しく笑む。といっても、とても魅惑的とはいえない。小バカにするような嘲笑的な笑みだった。それでもきっと、こういう類が好きな人はぞくぞくして堪らないだろうけど。

 彼女は皮肉を込めたように言い放つ。


「もう五年も魔竜を殺してまわってるんだぞ」


 ヒナタ嬢の言うように、魔王と名付けられた兵器が誕生してから、五年の月日が流れていた。


「確かに五年間で数多くの魔竜を滅ぼしてきたが、油断は禁物じゃぞ」

「……あたしは正直、つまらない」


 それだけ言って、ヒナタ嬢は黙り込んだ。

 燗海さんは困った孫娘を見るような目で見て、微笑んだ。


「血がたぎらんか」

「ああ」


 ヒナタ嬢は静かに頷いて、「ヒリヒリしないんだ。これなら戦場の方が遥かにマシだ」と言った。


 僕は深くため息を零す。

 ヒナタ嬢はまったく変わらない。


 相変わらず戦闘狂で、相変わらず無遠慮で、自己中だ。

 僕が思わず彼女を睨んでしまった理由もそこにある。


 僕はこの五年、魔竜討伐に出来る限り加わり、後方でひっそりと邪魔にならないように見学しながらメモを取っていた。彼女はその間ずっと、つまらない。意味ない。もっと血湧き肉躍ることがしたいとぼやいている。


 彼女がそういうことを言うたびに、ぴりっとした緊張感が場に漂うんだ。燗海さんはともかくとして、結界師の役目として同行してくれている条国王族の方々は、あまり場を乱したり、和をかく言動に慣れていないのか、どうしよう――大丈夫かな? といった雰囲気がそこはかとなく流れるのだ。


 御国柄なのか、特に兵士はそういう傾向が強く出る。

 今日は洞窟が深すぎ、入り組んでいるという理由から、外で二十五人の兵士が待機しているから良いけど、いつもはヒナタ嬢がそんな言動をするたびに不安げな空気が流れていた。


 ただ、今では皆それがヒナタ嬢という人間だということは分かっているから、何度か一緒に行動したことのある兵士や、王族の方に差し障りはなくなったけど、愁耶さんと彪芽さんは今回の任務が初めてだった。


 僕は幾度となく繰り返されたこの空気にうんざりしてしまっていた。

 まあ、戦闘狂である彼女がつまらなく思うのも分からなくはないんだけど、もっと協調性を持って欲しいよなぁ。

 そう思ったとき、洞窟の奥から低い唸り声が聞こえた。


「いたか」


 ヒナタ嬢の瞳が鋭く光る。一気にスイッチが切り替わったのがわかった。何だかんだ言っても、戦いとなれば彼女は何であれ嬉しいのだ。


「やれやれ……」


 僕は呆れながら低声で呟いた。

 ヒナタ嬢は舌なめずりし、うずいて堪らないという表情をする。それを見た愁耶さんと彪芽さんが唾を飲んだ音が聞こえた。


(あ~あ)

 

 僕は心の中で哀れみを込めて嘆息する。

 今の彼らには妖艶で魅惑的に見えたであろうヒナタ嬢の顔面も、僕にしてみれば彼らが抱いた淡い想いが砕け散るカウントダウンにすぎない。


 一気に奥まで駆け出したヒナタ嬢を追うように、僕らは洞窟の奥へと走った。

 徐々に暗がりの中に明かりが射してきて、大きく開けた場所がある。縦穴の底だ。縦穴は巨大で、一軒家くらい軽々と飲み込んでしまえるほどの大きさだった。


 二十インチ近く降り積もった雪を踏みしだいて上ると、雪はガチガチに硬くなっていた。山の外から見た雪の量からみても、雪の感じからしても、この縦穴に侵入してくる雪は稀だと言ってよさそうだ。


 おそらく、風の関係で吹雪が入り込む事はあまりないんだろう。

 縦穴を通り抜けると、その先は真っ暗だった。


 さっきいた場所よりも更に暗い。

 まるで底のない井戸を覗き込んでいるかのような暗闇だ。


 どことなく、不安を掻き立てられる。

 僕はいつの間にか歩調を緩め、その足取りを止めてしまった。だけど、ヒナタ嬢は恐れることなく突っ込んでいく。


「ヒナタ!」


 燗海さんが叱責する声を上げた。

 ヒナタ嬢は僅かに振り返り、足を緩めるが、止まる気配は無い。


(燗海さんの言う事は聞くんだよな。彼女にしては、だけど)


 深い闇に彼女が突入しようとした瞬間、闇の中に突如満月が現れた。月はヒナタ嬢の顔面付近に現れたかと思うと、一瞬だけ消えた。


(瞬きみたいだ)


 ぽろっと思った刹那、僕の背中にぞっとしたものが走る。

 あれは、目だ。


「アジダハーカだ!」


 誰かが叫んだ。多分、声が若いから彪芽さんだろう。

 僕はその場に硬直した。後ろには、彪芽さんと愁耶さんがいる。燗海さんが脚に力を入れるのが見えたけど、駆け出す前にヒナタ嬢は恐れることなく跳躍した。


 チャクラムを腕から外すことなく、その鋭い刃を魔竜の瞳へ突き刺した。肘まで魔竜の瞳に埋まる。


「ヴィギャアー!」


 魔竜が悲鳴をあげ、奥へと引っ込んだ。


「うわぁ……」


 僕は思わず呟いた。

(よくやるよな。本当、最悪)


 思わず戻しそうになったけど、後ろでどちらかのえづく音が聞こえて、僕はそれを堪えた。

 思わず小さく相槌を打つ。


(うん。目玉に腕突っ込むとか、やばいよな)

 僕が密かに同情を送ると、


「ヒナタ、いったん引け! 縦穴に誘い込むぞ」


 燗海さんが叫んだ。後ろに向って軽くジャンプすると、その一歩だけで光の射す縦穴の中心へとたどり着いてしまった。降り積もって硬くなった雪が舞い、キラキラと輝く。


 僕と後ろにいた二人も燗海さんの後を追ったけど、縦穴にたどり着く前にヒナタ嬢に追い越されてしまった。


「何でたたみ掛けない」

 ヒナタ嬢はイラついた調子で燗海さんを見る。


「暗いところは不利じゃろうて。それに、松明を持ったままでは戦い辛かろう」

「……」


 ヒナタ嬢は渋々納得したようすで向き直った。

(はあ~)

 感心してしまう。


 燗海さんの上手いところは、こういうところだよな。

 僕だったら、先には何があるのか分からないし、魔竜はつがいだ。あんな化け物に挟み撃ちでもされたらどうするんだ。


 それに松明を持ったままじゃ戦えないだろって余計なことまでべらべらと言ってしまうところだ。


 そうすると、ヒナタ嬢のことだ。弱虫なやつめと一蹴して、戦えるとムキになるに決まってる。燗海さんは仲間内で一番ヒナタ嬢の扱いが上手い。やっぱり年の功かな。


 暢気にそんな事を考えていると、ヒナタ嬢が松明を投げ捨てた。ぴりっとした空気が伝わる。


 闇の吹き溜まりのような洞穴から、重い足音を響かせながら魔竜が姿を現した。緊張感が走る。ヒナタ嬢はにやりと酷薄な笑みを浮かべ、燗海さんが構えた。


 愁耶さんが魔王を風呂敷包みから取り出すと、緊張した面持ちで彪芽さんが結界を解く構えをした。

 そこでふと、僕はあることに気がついた。


「ちょっと待って。あいつ目怪我してないぞ」


 僕が指摘した瞬間、縦穴の上空に何かの影が横切った。


「ヴィイイ!」


 甲高い雄叫びを上げながら、遥か上空を旋回している不気味な黒い影。もう一匹の魔竜だ。ずるりと何かが滴り落ちてきて、僕のすぐ側の雪を赤く染めた。


「あいつ、怪我してる」

――ってことは、さっきの魔竜は上空の方か。

「レテラ!」

「え?」


 血で染まった雪を覗きこんでいた僕は、燗海さんの叫び声にぱっと顔を上げた。上空の魔竜が急激に下降してきている。


 この縦穴は、魔竜が離着陸する場所だったのか!

 僕は急いで逃げ出した。

 でもその時、陸にいるもう一匹の魔竜が口を開いた。


(ヤバイ、咆哮が来る!)

「どいてろ、邪魔だ」


 暗い声がして、ヒナタ嬢が僕の後方へ飛び込んだ。かと思うと、わき腹に痛烈な痛みが襲ってきて、僕は一メートルくらい離れた雪の上に肩から落ちた。


(あいつ、蹴りやがったな!)

「蹴ることないだろ!」


 僕の訴えを盛大に無視して、ヒナタ嬢は指を弾いた。

 その瞬間、既に縦穴に鼻先を突っ込んでいた魔竜が悲鳴を上げた。


 目から血が噴出し、ずるりと這い出るように弧を描く。それを見た陸にいた魔竜が、上げかけた咆哮を思わず止めた。


「貫け」


 静かに出されたヒナタ嬢の声音は、洞窟内に恐ろしいほど冷たく響き、彼女の指先が向けた方向。もう一匹の魔竜目掛けて、引き出された血液が、鋭い刃の姿に形を変えて猛スピードで向った。


 しかし、魔竜にぶちあたった血の刃は、魔竜を貫く事は出来なかった。魔竜は悲鳴をあげ、よろめきはしたものの、分厚い脂肪と硬い鱗のおかげで完璧に無傷だった。


「チッ」


 ヒナタ嬢が舌打ちをした瞬間、血を抜かれた魔竜がぐったりしながら彼女の上に落ちて来た。


「危ない!」

 彪芽さんが悲鳴を上げた。

「大丈夫だよ」

 僕は小声で呟く。

「あの人がいるから」


 次の瞬間、ヒナタ嬢に激突しそうになっていた魔竜の左首は、洗練された剣戟によってものの見事に切り落とされた。いわずもがな、燗海さんだ。


「愁耶さん、彪芽さん。結界を張ってください」


 僕が二人を振り返ると、ぽかんとした表情で二人は頷いた。目の前の状況に頭が追いつかないんだろう。気持ちは分かる。


 それでも彼らは正気に戻って、仕事に取り掛かってくれた。

 相棒の死に動揺しているらしい魔竜の隙を突いて、愁耶さんが結界を張り、魔竜と彪芽さんをその中に閉じ込めた。


 彪芽さんは自身に素早く結界を張り、魔王の封印を解いた。

 その瞬間、魔王は爛々と輝き、僕らを倒そうと咆哮を上げた魔竜の口に自動的に吸い上げられた。


 あとはいつもの通り、魔竜が内側からはじけ跳び、べたべたと肉片や臓物が結界にはりついた。

 愁耶さんが結界を解くと、一瞬にしてぼとぼとと地面に落ちる。


「……つまらない」


 陽光が雪に照り返され、ヒナタ嬢の金色のまつげをきらきらと輝かせた。白い肌はいっそう白く、ほんのりと色づいた紅色の頬が彼女の実年齢を感じさせない。僕は少し背も伸びたし、十八歳の頃に比べれば筋肉もついた方だと思う。

 でも、彼女は変わらず少女のようだった。


 反射のせいで愁いを帯びたように見える瞳が、右腕についた眼球のなにがしかと、血とで台無しだ。

 僕はヒナタ嬢に近づいて、軽く声をかけた。


「まあ。今日はちょっとスリルがあっただろ?」

「……」


 案の定、鋭い瞳で睨まれた。

 苦笑を浮かべた僕の横に、燗海さんが並んだ。


「ヒナタ。お前さんは戦いだけではなく、他の事も学ばなければいかんな。ちゃんと人間や生き物を見れるようにならんとな」

「……は?」


 ヒナタ嬢は怪訝、というよりは不快そうな顔つきで燗海さんを見た。

 燗海さんは眉尻を下げて微笑わらった。


「でなければ、お前さんはいつまで経っても乾いたままじゃぞ」

「……」


 ヒナタ嬢は黙り込んで、珍しく何かを考える表情を浮かべた。

(なにか思い当たるふしでもあるのか?)

 僕はヒナタ嬢を窺い見る。でも微かな期待は、やっぱり当然の如く破られた。


「あたしには必要ない。戦いこそが、ジャルダ神こそがあたしの全てだ」

 ですよね。

「それにしても、ヒナタさんが僕を助けてくれるとは思わなかったな」

 蹴られたけど。

「はあ!?」


 つい、ぽろっと本音が口をついてしまっただけなのに、ヒナタ嬢は僕の上から下までを鋭いナイフのような目で睨みつけて舌打ちをした。


「勘違いするな。邪魔だっただけだ」

「ですよねぇ」


 へらっと僕が笑いかけると、ヒナタ嬢は不快そうな表情のまま歩き出した。


「相変わらず怖いなぁ」


 ぼそっと呟くと、ぽんと背中を叩かれた。振向くと燗海さんが柔和な顔のままヒナタ嬢を見送っていた。


「長年一緒にいるんじゃ。自身は気づいてないかも知れないが、ヒナタだってそれなりに愛着があるんじゃろう。キミにも、他の者にもな」

「ですかねぇ」


 僕が半信半疑な声を出すと、燗海さんは懐かしむような視線を送った。


「ヒナタ自身も早くそれに気がつけば良いんじゃがな」


 その郷愁のような瞳の中に、どことなく心を抉られるような深い哀しみが見えた気がして、僕は一瞬だけ寂しい気分になる。


「……燗海さんって、やっぱり目黒燗海でしょう?」


 これまで幾度か訊いては、はぐらかされてきた質問をぶつけてみた。

 今ならなんだか、答えてくれそうな気がした。

 燗海さんは、細い目を一瞬だけ開けて僕を一瞥すると、「ほっほっほっ!」と声に出して笑う。


「そんなわけがあるまい。二百年も前じゃぞ。彼はもうとっくに死んだよ」


 思わず目を丸くしてしまった。

 はっきりと否定されたのは初めてだ。


「……ま、そうですよね」


 肩を竦めながら言って口の端を持ち上げた。

 口ではそう言ったけど、やっぱり心のどこかでは燗海さんは目黒燗海だという説を否定しきれない。


 僕の気持ちを知ってか知らずか、燗海さんは僕の背中を再度叩いて促した。


「わかったのなら、さあ、帰ろう」

「はい」


 僕は軽く返事を返すと、雪をざくっと踏んづけた。


 * * *


 僕らは山を降りると転移のコインで条国へと戻った。

 十日後には、獅間子に持ち帰られた転移のコインで再び驟雪の王都へ戻り、凱旋パレードに出る事になるだろう。


 各国で魔竜退治をした際には、その国でパレードをすることになっていた。どこの国でも盛大で豪華なパレードになり、民衆は温かく迎えてくれる。特に、ヒナタ嬢に対する民衆の反応は熱狂的なものがあった。


 あの容姿が故か、カリスマ性故なのか、英雄視され、多くのファンがいるくらいだった。もちろん、そんなことを気に留める彼女じゃないけど。


 僕は色んな国や街が見れるから、この行事は大好きだったけど、ヒナタ嬢はめんどくさい。興味ないと言って、嫌っていた。


 どうにかこうにか頼み込んでパレードに出席させるのは、他ならぬ同郷の僕の役目だったけど、これが毎回大変で仕方がない。


 三回に一回は不機嫌な彼女に殺されかけるはめになる。そうなると、助けてくれるのは大概アイシャさんか燗海さんで、頻度はアイシャさんの方が高い。


 アイシャさん、もしくは燗海さんがなだめすかして、なんとか転移のコインまで連れて行き、アイシャさんがヒナタ嬢を正装させたり、髪飾りをしたりして飾り立ててくれる。これが毎回のパターンだった。


 ったく、三歳児かよ――さながらアイシャさんは母親で、燗海さんはお祖父さんだなって、毎回悪態をつく。もちろん心の中でだけど。


 今回もそうなるんだろうなと、僕は帰って早々ちょっとだけ憂鬱だった。

 ヒナタ嬢といると、晃のことを思い出す。あの微笑が未だに忘れられない。思い出すことで僕の癒やしになっているんだなと改めて思う。


(あ~! 逢いたいなぁ)


 僕は情けない気持ちで廊下を進んだ。これから王に報告に行かなくちゃいけない。

 帰ったらすぐに紅説王に報告しに行くのは僕の役目になっていた。


 ヒナタ嬢はそういうことは出来ないし、燗海さんはああ見えて組織立った行動が苦手だったりする。戦いになれば別だけど、報告や文章の制作は苦手がってやりたがらない。驟雪国に報告するだけで精一杯だって苦笑していたっけ。


 陽空が一緒の時は任すこともあったけど、大抵は一緒に報告しに行く。でも今日は二人はある事情から任務に同行してなかった。


「レテラ。お疲れさま」

 落ち着いた声に振り返ると、アイシャさんが手を振って歩いてきていた。


「お疲れさまです」

「これから、報告でしょう?」

「はい。アイシャさんは、そろそろ時間ですか?」


 僕は懐中時計を出して時間を気にする素振りをした。


「そうね。あと五時間あるけど、やる事が山積みで追いつかないの」


 アイシャさんは困ったように口を尖らせる。


「結婚の報告ですもんね。しかも五年ぶりの帰郷とくれば、そりゃ色々準備もありますよね」

「ええ。そうなの」


 肩を竦めたアイシャさんは幸せそうに口角を上げた。


「でも、驚いたなぁ。アイシャさんがあんなチャランポランと結婚するだなんて」

「レテラ。それは言わないでよ。私が一番びっくりしてるのよ」


 アイシャさんはわざとらしく目を大きく見開いた。

「ハハハッ」と僕は笑って、


「陽空のやつは幸せ者ですね。こんなに美人で、気立てが良くて優しい人をお嫁さんに出来るだなんて」

「口が上手いわね。レテラは」


 アイシャさんは嬉しそうに微笑んだ。でも本気にはしてないみたいだ。僕としては本音なんだけど。


 結婚の報告を聞いたのは、二週間前の大広間だった。

 魔竜討伐の報告をかねて、月に一度行われる定期会議の最後に陽空から報告があると言われて、皆の前でその話が発表された。


 付き合ってたのはもちろん知ってたけど、あのナンパ男と結婚する決心を決めたアイシャさんに脱帽だった。今思い出しても、敬服する想いがある。ただ、心配がないわけでもないけど、あの男が相手だからな。


「そういえば、二人の馴れ初めってどんなんです?」


 僕は無邪気を装って訊いてみた。

 アイシャさんは眉を八の字に下げ、頬が僅かに赤くなった。


「ほら、アイシャさんに一度訊いた事があるけど、照れて教えてくれなかったじゃないですか。陽空も何故か教えてくれなかったし」

「つまらないでしょ。そんな話」

「まさか。大好物ですよ」

「もう」


 大げさに驚いてみせると、アイシャさんは少しだけ頬を膨らませて笑った。可愛いなぁ。


「えっとね……」


 アイシャさんは記憶を辿るように、目線を上に移した。

 そして、少し緊張したように、「レテラは、覚えてる?」と尋ねた。


「ん?」

 首を傾げて先を促すと、アイシャさんは口をへの字にぎゅっと結んだ。


「ほら、私が魔竜に脅えてたときのこと」

「ああ」

 僕は静かに頷く。


「私、初めて魔竜の巣に出向いてからドラゴンが怖くなったのね。特に魔竜なんだけど。でも、ずっと隠してきたわ。それを、陽空は気づいてくれて、魔竜の巣から帰ってからずっと気にかけてくれるようになったの。それで、ちょっと気を許しちゃったのよね」


 アイシャさんは照れて笑った。


「付き合ったのは、あの日よ。魔竜に脅えたのをレテラに見られちゃった日」


 アイシャさんは僕を見て少しはにかんだ。


「それまで陽空は気づいてはいたけど、直接触れないように気遣ってくれたり、フォローしてくれたりしてたの。でも、その日はずばり、図星をつかれちゃってね。ケンカしたのよ。でも、結局仲直りして。その時に、告白されたの。私も自分でも陽空を好きになってたなんて、びっくりしたわ。でも、告白されたとき、すごく嬉しかったから、そういうことなんだろうなって思ったの」

「そうなんですか」


 僕は微笑ましい表情を作りながら、内実は別のことを考えていた。あの日、あいつが言った言葉を思い出す。


アイシャさん、ごめん。それ、陽空の計画どおりです――。何て事を言えるわけもなく、僕はそのまま飲み込んだ。今、二人が幸せであることに間違いはないんだし。


「でも――」

 不意にアイシャさんは顔を曇らせた。瞼に影が射し、瞳が暗く見える。


「私……本当は逃げたんじゃないかって負い目があるのよね」


 低声で呟かれた声は、暗く沈んでいた。

 アイシャさんは、あれから魔竜の討伐には出かけない。


 討伐に出ても戦いに行く者のフォローに回ったり、医療を手伝ったりと、内勤が主になっていた。紅説王もそれは許可なされているし、重宝して下さってもいた。でも、自国でどう言われているのかは知らない。多分、せっつかれてはいるんだと思う。


 そこにきて、今回の結婚話だ。陽空と結婚すれば、当然アイシャさんは焔家の人間になるということだ。そうなれば、ハーティム国ではなく、水柳国の人間になる。ハーティムの人間でない者が、ハーティムの代表として任務にあたれるわけがない。

 当然、アイシャさんはこの任務を降りることになる。


「……」


 僕は無言でアイシャさんを見詰めた。

 アイシャさんは本来、責任感の強い人だ。だから、一人で何とかしようとするし、背負い切れずに潰れたりもする。


 そんな自分が許せずに、苦悩し、いつか復帰してやるという真の固さがある。アイシャさんは本当は、真面目過ぎるが故に、気苦労の耐えない人だと思う。


(逃げても良いのにな……)


 ぽつりとそう思った。でも、それを言う事はしない。言ってしまえば、アイシャさんが傷つくだけだと今では分かる。


 これも、アイシャさんと燗海さんに昔ヒナタ嬢のことで怒られた賜物だ。

 それがなかったら、今でも無遠慮に土足で入っていっただろう。


「……本当に逃げた人は、そんなこと自分から言いませんよ」


 緊張しながら切り出した。声が少しかすれてしまったけど、声音は平然としていた方だと思う。

 アイシャさんは驚いたように僕を振り返った。

 僕は、にこりと笑みかけた。


「それに、本当にそうだったら心が解放されて、晴々としてるはずです。そんなに、苦悩してる表情はしませんよ。大丈夫、今は少し休みが必要なだけですよ」


 アイシャさんは、一瞬泣きそうに顔を歪めた。潤んだ瞳を見られないようにか、俯く。


「あのちゃらんぽらんとずっと一緒にいれば、呆れ果てちゃってすぐに復帰したくなりますよ」


 冗談を言って軽く背を叩くと、アイシャさんは噴出した。

 声に出して笑うと、目を擦って顔を上げた。


「そうね」


 そう言って笑うアイシャさんは、どことなくあどけない感じがした。

 つい、ぽっとなる。「ところで」とアイシャさんが話題を変えた。


「愛しのには逢えたのかしら?」

「……」


 僕は思わず苦い顔になる。

 アイシャさんは申し訳なさそうに、眉尻を下げた。


「あら、ごめんなさい。まだ見つからないのね」

「そうなんですよ。もう、かれこれ五年探してるんですけどね」

「見つかると良いわね。晃ちゃん」

「……はい」


 僕はがっくりと項垂れながら答えた。

 五年前、死ぬ思いをした僕はもう一度晃に逢いたくて街中を捜し回った。でも、その日は結局見つからず、気晴らしがしたくて陽空に話したのがそもそもの間違いだったんだ。


(あいつ、瞬く間にバラしやがって)


 自分の額に青筋が浮かんだのが分かる。

 面白半分に触れ回ったせいで、城の大半とは言わないまでも、幾人かが僕の尋ね人の名前を知っている。


 陽空は、これだけの人が知ってれば情報もそれだけ入ってくるとかぬかしてやがったけど、情報は一行に入らず、僕はただただ恥ずかしいだけだ。


 幸いなことは、噂話は王や殿下の耳には入らずにわりとすぐに沈静化したことだ。王は特になにも言わないだろうけど、(むしろ応援してくれるかも)殿下の場合は仕事で来ているくせにと小言を言われそうだ。


 僕は時間が空く度に、それこそ町中を探し回ったけど、晃には今まで一度も逢えないでいる。


 初めはもう一度笑顔が見たくて。そして、この気持ちが恋なのかを知りたくて捜していたけれど、途中から気づいてしまった。

 僕は、晃が好きなんだって。


 たった一度しか逢ったことがないのに。どんな子なのかも詳しく知らないのに。それでも、こんなに強く惹かれているなんて、自分でもどうかしてると思う。


「じゃあ。私はここで」

 アイシャさんはそう言って軽く手を振った。

「報告がんばってね」

「はい。ありがとうございます。アイシャさんも〝道中〟気をつけて」


 僕のジョークに、アイシャさんは「ふふっ」と笑って、

「そうするわ」と言った。


 僕はアイシャさんと別れると、研究室へと向った。

 研究室に入るや否や、煙が立ち込めていて、僕は咳き込みながら手で煙を払った。

 煙の中でも二つの影がむせている。


ショウ!」


 マルが呪文を唱える声が聞こえて、煙は途端にどこかへ霧散してしまった。

 息を整えている紅説王とマルに声をかけると、二人は振向いた。


「レテラ、帰っていたか」

「はい」


 僕は王に向って跪くと、王は、「そんなのは良い」と慌てたので、僕はすくっと立ち上がった。


「驟雪国の魔竜討伐、つつがなく終了しました。多分、もう驟雪国には魔竜は生息していないでしょう」

「そうか」


 王は安堵したように息をつく。でも、少しだけその表情には影があった。

 元々数が少なかった魔竜は、五年で絶滅寸前といって良いほどその数を減らした。

 五年で三百頭は、さすがに狩り過ぎだった気がしないでもない。

 でも、魔竜がいないに越したことはないんだ。絶対。


 魔竜がいなくなって生態系が乱れるわけでもないんだし。でも、王はそれが気にかかるらしかった。優しい紅説王のことだから、魔竜に同情してるんだと思う。


 青説殿下も、嫌みったらしく王に意見してたっけ。殿下はきついけど、おっしゃることは正しいことが多い。僕は、王よりも殿下の仰ることの方が理解できることが多かった。


「これで、魔竜が生息していると思われる国は条国と、水柳国だけだな」

「そうですね」


 僕は頷くと、机に目を向けた。呪符らしき紙が置いてある。緑色で、赤い文字が書かれていた。


「それは?」


 尋ねると、「ああ」と王が頷いたけど、嬉々として答えたのはマルだった。


「これは今開発中の呪符さ! 煙が出る仕組みになってるんだ」

「へえ。どうやって?」

「それはまだ秘密だよ!」


 マルは口の前に人差し指を持ってきた。

 この二人は本当に、秘密主義者だよなぁ。終わったことなら教えてくれるけど、経過途中のことは殆ど教えてくれたためしがない。研究者って、皆こうなのかな?

 いずれにせよ教えてくれなさそうだから、僕は早々に話題を変えた。


「じゃあ、どうやって煙が消えたの?」

「転移のコインの応用さ」


 これはどうやら終わった実験らしい。

 僕はほくそ笑んだ。


「別の空間に移動させたんだ。って言っても、すぐ近く。中庭に放出しただけだけどね。転移のコインのように行き来は出来ない。行ったら行ったきりの一方通行さ。それに、大きな物質は運べないんだ」

「へえ」


 僕が興味津々に返事を返すと、マルは得意げな顔をした。


「転移のコインはさ。重力を操る能力者の協力を得て出来たものなんだよ」

 マルは軽く指を振る。


「重力を一点にかけ続けると、黒いひずみが出来るんだ」

「そうそう」


 王がにこやかに教えてくれると、マルはうんうんと頷いてみせた。


「それがブラックホールと呼ばれるものになるのだ」

 王は穏やかに言った。


「王が名付けられたんですか?」

 尋ねると、王は首を振る。


「いや。ブラックホールは天文学にもう存在しているよ。宇宙にあるんだ」

 王は上に人差し指を向けた。


「へえ。そのブラックホールってのを作ると、どうして移動出来るようになるんです?」

「コインは二枚必要だろ」

 マルが割って入った。


「それが入り口と出口になるわけだけど、天文学では、全てを飲み込む入り口がブラックホール。全てを放出するのがホワイトホールという考えがある。更に、ワームホールといわれるものが存在していて、ワームホールはブラックホールとホワイトホールの間に存在しているものとされてるものなんだ」


「ワームホールは、空間と空間、時空と時空を繋ぐトンネルのようなものだと言われている」


 王が補足して下さった。僕は「へえ」と頷く。無意識のうちに取り出したメモ帳の上を、これまた無意識に走っていたペンが踊る。転移のコインの秘密をついに知ることが出来るなんて。わくわくする!


「重力能力者と磁力能力者に協力してもらって、そのワームホールになるように力をかげんしたわけ」

「へえ」


 きっと、今までの実験みたいに何回も失敗して、試行錯誤しながらようやく出来たんだろうなぁ。


「その能力者たちはどこにいるんだ?」


 是非、取材したい。

 僕は意気込んだけど、二人は顔を見合わせた。王は困惑した表情を浮かべたけど、マルは至って普通だった。次第に紅説王の眉が下がり、悲しげな顔つきになる。


「レテラ達が来る前に、魔竜の討伐隊が組まれてね」

「その中に二人もいて。全滅したよ」

 言い辛そうにした王に代わって、マルがあっけらかんと答えた。

「そっか」


 僕は気まずく俯いた。

 マルは研究以外のことには殆ど頓着しない。人の生き死にくらい、もう少し気にかけたって良いと思うけど。


 僕が呆れた気分でマルを見ると、マルは話を促されたと思ったのか、「まあ」と言って話を戻した。


「それを呪符に記憶させて、コインに呪符の紋様を刻印して、紅説様がコインに移し変えたわけさ」

「移し変えるなんてことも出来るんですね」


 感銘した僕に、王は謙遜なさったように笑った。


「いや。完成するまでが大変なんだ。基礎が出来てしまっていれば、応用は簡単なんだよ」

「そういうもんですかねぇ」


 感心してやまない僕を、「そういうもんだよ」と王は言ってこの話を終わらせようとした。王は、自身を褒められることをあまり好まない。照れるからだと思うけど。僕なんか、褒められると跳んで自慢したくなるくらい嬉しいけどな。実際に自慢はしないけどさ。


「レテラ、アイシャへのプレゼントは買いに行くんだろう」


 王は完全に話を終わらせた。

 僕はがっかりしながら、態度に出さないように注意して、


「はい。そのつもりです」

「円火も買いに行ったらどうだ?」


 王はマルに話を振ったけど、マルは見向きもしないで答えた。


「僕は良いですよ。研究したいんで」


 視線は机の上の札に注がれている。

 僕は呆れて軽く首を振った。

 王は僕に向き直って、


「では、レテラ。楽しんできてくれ。円火の分は、私含めて条国からとして用意しておこう」

「はい」


 * * *



 僕は陽空と燗海さんと、アイシャさんへの手土産を探しに街へ降りた。魔竜の討伐は早朝だったから、まだ午前中だ。まだ真上に達していない太陽を目を細めて見つめる。


 ふと、隣で暢気な顔をしている陽空に視線を移した。

 まじまじと陽空の顔を眺めていると、不意に本音が洩れた。


「それにしても、婚約とはねぇ。お前が」


 僕の言葉に皮肉が含まれていることに気づいて、陽空は苦笑した。


「意外かよ」

「意外だね」

 どうせ浮気すんだろと、僕は陽空の肩を小突く。

「どうかねぇ」

 陽空は含むように言って微笑った。


「お前なぁ。アイシャさん泣かしたら許さないからな」

「ハハッ。まあ、当分はしねーよ」

「当分って、お前な」


 呆れきって陽空を見ると、後ろからついてきていた燗海さんが、ほっほっほと、朗らかに笑った。


「まあ、浮気性の男は、嫁にするなら真面目な女を選ぶというが、子供が出来れば変わるじゃろう、君は」

「そっすかね」


 陽空は照れたように笑んで、頭を掻いた。

いや、そこ別に照れるとこじゃないからな。


「本当、しっかりしろよなぁ」


 僕は嘆息して、街に向き直る。

 一時帰還するアイシャさんを、こっそりと祝うためにプレゼントを買いに出たのは良いけど、何を買ったら良いんだろう。

 考え込んだ僕をよそに、陽空は突然弾んだ声を出して元気よく手を上げた。


「じゃあ、俺はここで!」

「は?」


 訊き返した僕を無視して、陽空は意気揚々と街へ繰り出す。


「あいつ……」


 絶対独身最後とか言って女の子ひっかけにいったな。


「では、ワシも」

「え?」


 驚いて振り返ると、もう燗海さんの姿は消えていた。


「……ったく!」

 僕は憤りを吐き出すように舌打ちした。

「団体行動が出来ないやつらだな!」


 僕もどっちかっていうと個人行動の方が好きだけど、彼らほどじゃないぞ。

 ぶつくさ言いながら、何を買おうかと辺りを見回した。不意に懐かしさが蘇ってくる。僕はそこにいない少女を瞳の奥に映した。


「晃」


 小さくその名を囁く。

 街に出て晃を捜す度、晃に似た髪の子がいれば目が追い、違って落胆する。そんな日々が一年、二年と続いて、早五年。内実では、もうとっくに諦めてる。でも深淵では未だに、諦めきれない。ふとしたときに晃の影を追ってしまう。人間ってのは、どうしてこうもやらなかったことを後悔して廻るんだろう。


「陽空の忠告、聞いておけばよかった」


 ぼそっと呟くと、背後から明るい声音が響いた。


「おにいちゃん!」

(晃か!? ――なわけないか)


 一瞬はっとしたけど、こんなに幼い声であるはずはない。

 一息ついて、きょろきょろと辺りを見回すと、僕の尻にぽんと手が置かれた。振り返ると、肩越しに少女がいた。真ん丸の瑠璃色の瞳が嬉しそうに細められる。


「誰だ?」

 呟くと少女は、にかっと笑った。


「ねえ、ねえ、おにいちゃん。こうとくさまのとこにいる人でしょう?」

「え? ああ。まあ、そうだけど」

 なんでそんなこと知ってるんだ? 僕は訝しがって眉を顰めた。


「やっぱりー! 一回ろうかで見たことあるもん!」

「廊下で?」

 小首を傾げると、

火恋かれん様!」


 人中から、慌てたようすの女性が現れた。

 女性は少女に目線を合わせるように屈み、乞うように叱った。


「火恋様、御一人で御歩きにならないで下さい。迷子になったらどうなさるのですか」

「ごめん。でも、しってる人を見かけたから」

「知ってる人?」


 女性は僕を見上げた。

 彼女は目が合った瞬間、息を呑んだ。

 僕もあまりの衝撃に息を忘れた。


「……晃?」

「お兄、さん……?」


 晃だ。間違いようがない。赤茶色の瞳が大人びてはいたけれど、雰囲気はまるで変わらない。

(ああ。どうしよう……)

 なんて言ったらいいのか分からない。


「ひ、晃。久しぶりだな」

「うん。本当に久しぶり」


 晃は言って微笑んだ。この笑顔も変わらない。僕の胸は暖かさと同時に、きゅんと何かに掴まれて、少し苦しい。


「お兄さん、覚えていてくれたんだね」

「あ、当たり前だろ!」


 僕はつい、ムキになってしまった。慌てて口をぎゅっと結ぶ。

 晃はそんな僕を見て、微笑った。

 僕は、幸せと混乱のあまり泣き出しそうだった。


「お兄さんは、どうしてここに?」

「ああ。えっと、同僚の女性にプレゼントを買いに。――晃は?」

「……私は」


 晃は一瞬顔を曇らせて、火恋を見てにこっと笑った。


「火恋様の御買い物の付き添いで」

「へえ。晃は今、侍女かなんかなの? この子は?」


 晃は僕の問いに、うんと頷いて、

「火恋様は、二条家の姫君にございます」

「え!? 条国の?」


 確か、条国では王に選ばれた者と、その正室のみが三条の姓を名乗れ、それ以外の者はは例え正妃との子供であろうと、三条の姓は名乗れない。他の王族は全て二条と名乗る決まりになっているらしい。青説殿下とマルもそのひとりだ。


 正室は王族の中から選ばれる決まりだ。側室は何処の誰であろうと良いみたいで、何人子供を作ろうと構わないが、正室との間にはひとりしか作ってはいけない決まりだとか。


 ただし、その子供が王になるわけではないところが、この国の面白いところで、全ては能力の良し悪しで決まるらしい。


 紅説王が幼い頃から王位に就く権利を与えられていたのは、王族の中で誰よりも強かったからだろう。それを証拠に王は二条の出で、側室の子だ。逆に青説殿下は正室の子だった。――と、昔マルに教わった。


 僕はじっと、火恋を見つめた。この子は誰の子なんだろう。見たところ、六、七歳くらいだけど……。


 青説殿下は正室と側室をお持ちだけど、子供はまだいないはずだし。紅説王は結婚すらしていない。一緒に魔竜討伐に出かけたことのある王族の内の誰かの子だろうか。

 僕が考え込んでいると、火恋は嬉しそうに笑った。


「ヒカルはあたしが生まれてからずっと、あたしと遊んでくれてるんだよ」


 にっと出た八重歯が可愛い。でも、この笑顔をどこかで見たような気もする。僕は小さく首を傾いだ。


「さあ、お城へ参りましょう。紅説様がお待ちです」

「え? 晃、城へ行くの?」

「うん。火恋様が紅説王に呼ばれているから。それでこの町に帰ってきたんだもん」


 晃は懐かしそうに町を見渡した。


「もしかして、ずっといなかったの?」

「うん。お兄さんと別れて、すぐに引っ越しすることになって」

「そうなんだ……」


 それじゃあ、見つかるはずもない。思わず苦笑が零れてしまう。


「じゃあ……私はこれで。プレゼント、素敵なものが見つかると良いね」


 晃は微笑んで言って、火恋の手を引こうとした。


「ちょっと待って!」

 僕は慌てて呼び止める。


「ぼ――僕も行くよ。僕、城にいるから」

「え?」


 晃は驚いて目を丸くして、僕は、ずっとしたかったことをした。


「あのさ。僕、レテラ。レテラ・ロ・ルシュアールって言うんだ」


 僕は自分の頬が赤くなるのを感じながら、頭を掻いた。晃は、少しだけきょとんとした後、くすっと笑って、


「私は晃。よろしくね、レテラ」


 そう言って、晃は手を差し出した。僕はその手をやわらかく握る。

 六年越しの、自己紹介だった。


 * * *


 城に戻った僕らは、真っ先に紅説王へ会いに行くことになった。

 晃や他のお付きの者たちは自室に行こうとしていたけど、それを僕が止めて研究室に案内することにした。自室に行っても、王は殆どおられない。紅説王は研究室にこもることの方が遥かに多い。


「おにいちゃんって、こうとくさまに詳しいのね」


 火恋が僕に手を繋ぐように要求しながら言った。僕は火恋の手を握る。火恋の手は僕の手のひらにすっぽりと覆われてしまった。


「まあ、何だかんだで長くここにいるからね」

「ふ~ん」

「ずっと、こちらにいらっしゃるのですか?」


 僕は不安そうな声に振り返った。今のは、明らかに後ろからついて来ている晃だった。


「まあね。どれくらいになるかなぁ?」

「そうではなくて」


 晃は訂正するような口調で言って、


「あの、お国に帰られたりはしないのですか?」

「うん?」


(どうしてそんなことを聞くんだろう?)

 僕はちょっと不安になる。

 晃は僕にいて欲しくないのか?


「え~と、そうだな。魔竜討伐が順調だから、そのうち帰還命令があるかも知れないな。陽空は、あと半年の任期になったって言ってたから。ヒナタ嬢と燗海さんはしばらくないだろうけど、僕はそのうちにあるかも……あっ、陽空っていうのは――」

「そうですか」


 晃は、説明しようとした言葉を遮った。その声音と表情は、曇っていた。


(どうかしたのか?)


 尋ねたかったけど、何となく怖くて訊けなかった。他の人相手なら、がんがん訊いていけるのに、晃相手だと、どうも調子が狂う。


 それに、どうしてさっきから敬語なんだろう。再開したときは普通だったのに。

 僕はぐるぐると自問しながら、廊下を歩いた。

 しばらく無言が続いて、居た堪れなくなった僕は言葉を切り出した。


「晃は、今どこの町にいるの?」

「オウスです」


 答えてくれた声音が明るくて、少しほっとする。


「オウスって、この王都カムヤマから、小さな町村を二つまたいだところにある城塞都市だったよね」

「はい。そうです」

「そっか……」


 会話が途切れそうになって、僕は思わず言ってしまった。


「じゃあ、手紙のやり取りくらいは出来るよね」

「ああ、そうですね」


 晃は、はっとしたように手を叩いた。

 嬉しそうに笑ってくれる。僕は心底安心した気持ちになった。

 この笑顔が、ずっと見たかった。

 目頭が熱くなってきて、僕は慌てて話題を変える。


「と、ところでさ、どうして敬語なんだ?」


 晃は言い難そうにして、苦笑を浮かべた。


「だって、お城で働いてるんでしょう? あの頃は子供だったし、気づかなかったけど、お城で働く外国人っていったら、外交官とか偉い人じゃないですか。敬語を使わないと、失礼になります」


 違いますか? と、付け足すように、晃は目線を送った。


「別に僕は構わないけどな。元々うちの国はそんなに敬語とか使わないし。もちろん、初対面の人とか大臣とか王とかには使うけどね」

「へえ」


 晃は興味深そうに相槌を打つ。


「別に初対面でもないし、こうして逢ったのも何かの縁だよ。敬語使わなくて良いからさ。レテラって呼び捨てで呼んでよ」

(いや――呼んで下さい。お願いします)


 ぐるぐるとした不安が腹の中で渦巻く。平然としてるつもりだけど、出来てるかどうかは全然わからない。


 でも、幸いな事に晃は、

「うん。分かりました――ううん。分かった」

と、言ってくれた。

 僕はほっと胸を撫で下ろす。


「ん?」

 僕は不意に視線を感じて、下を見た。すると、火恋の大きな瞳と目が合った。彼女はじっと僕の顔を見て、次に晃に一瞥送り、向き直ってにんまりと笑んだ。


「なんだ?」


 僕の呟きに火恋が答えることはなかった。代わりに、にんまりとした笑顔を、更に横に広げて笑った。


 * * *


 僕らが研究室へ行くと、紅説王とマルがテーブルに向かい合って座り、う~んと唸っていた。今は確か、新たな術の開発中だったはずだ。結界が自動で張られ続ける自動結界を考えているらしい。


 この二人は、術を考案し、形にしていくのが本当に好きなんだな。

 僕がしみじみと二人を見ていると、急に火恋が僕の手を離して走り出した。


「こうとくさまぁ!」


 火恋は紅説王の脚にひっつくと、紅説王は火恋を抱き上げた。


「やあ。火恋。よく来たな」

「うん!」


 火恋は紅説王に頬ずりをした。

なんとも微笑ましい光景だ。これは是非とも取材したい。


「お二人はどういう御関係ですか? 火恋に用があるとは?」


 目の端で、僕に向って焦るようにわたわたと手を動かす晃が見えた。彼女には図々しく映ったのかも知れない。でも、紅説王はこんなことでは怒らないし、僕の〝悪い癖〟もとっくに御存知だ。


 紅説王は爽やかな笑みを浮かべて、「レテラは相変わらずだな」と言いながら、火恋を降ろした。


「火恋を呼んだのは他でもない。次期国王候補に上げようと思ってな」

「え!?」


 仰天したのは他でもない、僕だ。

 晃も当の本人である火恋も驚いてはいたけれど、マルはいたって冷静だった。その姿に多少なりとも違和感を覚える。まるで、最初から知ってたみたいだ。


「私もまだ現役だし、お前が女王になるのはまだまだ先の話だが、次期国王はお前だ。火恋。今後、帝王学などを学ぶと思うが、心してかかるようにな」


 火恋は僅かな時間、呆然としていたが、やがて覚悟を決めたような、きりっとした表情へと変わった。


「――はい」


 火恋の毅然とした返事を聞いて、紅説王は満足したようだった。王は破顔して、火恋の頭を撫でた。

 火恋はにんまりと笑うと、マルを振り返った。


「おねえさま! わたし、がんばるね」

「うん。がんばれよ。火恋」

(お姉さま?)

 僕はぽかんと口を開けた。


「え、ちょっと待って。二人って姉妹なの?」

「そうだよ。似てるだろ」


 マルはおどけたように言って、火恋と並んだ。

 姉は分厚すぎる丸渕眼鏡の中に、小さくしぼんだ瞳を隠し、ショートヘアのぼさぼさ頭。一体何日風呂に入らなかったんだろうといういでたち。


 一方で妹は、上等な着物をはおり、女の子らしくアクセサリーを身にまとい、ツインテールの黒い髪は、しなやかで、きちんと手入れがされているのが一目瞭然だ。そして何より、くりっとした瞳と長いまつげが、将来美女になるであろうことを告げている。

 僕は思わず突っ込んだ。


「いや。似てねーよ」

 僕のツッコミを不快ともせずに、マルはけたけたと笑った。


「だろ? 似てないんだ。面白いだろ。同じ両親なのにさ。調べてみたいよな」


 同意を求めるように言って、くすくすと笑う。マルにかかれば、なんでも研究対象だ。そういうところは、なんだかシンパシーを感じてしまう。


「そんなことないもん! おねえさまは自分がわかってないだけよ!」

 火恋は顔を真っ赤にして怒鳴った。


「おねえさま、かがんで!」

 地団太踏んで火恋はマルに命令した。マルはやれやれといった感じでかがむ。


「なんだよぅ。火恋」

 ぶつくさ言ったマルの眼鏡を、火恋は勢いよく剥ぎ取った。


「ほら、あのしつれいきわまりないオトコに見せてやってください!」

 火恋は胸を張りながら、僕を指差した。


「失礼極まりないって、事実だと思うけどなぁ。姉ちゃんは」

 マルはぶつぶつ言いながら、僕に向って振向いた。


「え、嘘だろ」


 僕は絶句した。

 マルは、火恋にそっくりだった。


 ネコのように真ん丸な瞳。長いまつげ。実年齢よりも、だいぶ若く見える。まだ少女のような容姿だ。……眼鏡って恐ろしいな。


「そっくりだよ。マル」

「また。そんなこと言って」


 マルは冗談だと思ったのか、呆れた表情をした後、くすっと笑った。


「まあ、似てるとか似てないとか、美人とかブスとか、僕にとってはどうでも良いよ。僕は、実験が出来ればそれで良いからね」


 マルはきっぱりと言って、眼鏡をかけた。さっきまでそこにいた美人は、跡形もなく消えてしまった。


「もったいない……」

 惜しんだ声は、多分誰にも聞こえなかったと思う。


 * * *


 しばらくたわいもない話が続いた。

 六歳児の話だから空想部分が多かったし、マルと火恋の母親がどう怒ったかとか、父親がなにをしてくれたかとか、そんな話だった。


 それでも、普段の僕にとっては十分に興味深い話だったに違いない。なんせ、マルと火恋の両親は僕が御一緒したことのある人達だったんだから。


 彼らは、魔竜討伐のさいに結界師としての任務に就いたことのある人達だった。

 母親である悠南ゆうなさんは、水柳国の魔竜討伐のさいに一緒になったことがあったし、父親はさっきまで一緒だった。愁耶さんその人だ。


 でも、僕は話どころじゃなかった。

 一生懸命話をする火恋をまたいで、視線は晃に注がれていた。


 火恋が身振り手振りで話をするさまを、微笑ましく見守る晃は、この世のどの女性よりも優しげで、言葉で言い表せと言われても出来ないくらいにキラキラと輝いて見えた。――つまり、ありきたりな言い方をするなら、信じられないくらいきれいだってことなんだけど……。


 僕の胸は晃を見つめる度に、踊ったり、黄色い声を上げたり、お祭り騒ぎではしゃいだりして、苦しくてたまらない。


 晃から目を離すことなんて出来なかった。それなのに、たまに晃が僕に視線を向けると、さっと目線を離してしまう。


 顔が熱くて、僕は下を向いた。紅潮してる頬を気づかれないようにと願ったりする。そんな忙しなさの中にいて、メモなんて取れるはずがない。――僕は、どうかしてる。たった一度、出逢っただけでこんな気持ちになるなんて。


「火恋様、そろそろ時間です」


 他の御付の人が絶望を告げた。御付の者は護衛の兵士が三人、晃を入れた侍女が三人の計六人だった。

 僕は、時間を告げた侍女をそっと見やった。


(もう晃と離れるのかよ。やっと逢えたのに)


 がっくりと肩を落とした僕を、火恋が見上げていた。くりっとした瞳と目が合うと、火恋はにんまりと笑んだ。


「ねえ、こうとくさま」

 勢いよく王に向って振り返る。

「コイン、ひとつちょうだい?」

「コイン?」

 紅説王は首を捻った。

「ほら、あの……ちがう場所にいけるやつ!」


 身振り手振りで元気良く言った火恋に、王は合点がいったように頷いた。転移のコインが欲しいなんて、どういうつもりだろう? 僕と同じ疑問が過ぎったのか、王も一瞬だけ怪訝な表情を浮かべたけど、何かを思いついたように手を軽く叩いた。


「円火にいつでも逢えるようにしたいんだな?」

「う~ん……」


 火恋は唸って、何かを考えたあと、「うん。そんなかんじ」と言って笑った。王は嬉しそうに笑んで、マルは困ったやつだと言いながらもどことなく嬉しそうだ。


「では、そういうことなら一つ授けよう。もう一つのコインは円火に渡しておくから、直接姉と再会できるぞ」


 王はマルに顔を向けると、マルが研究室を出て行き、すぐに転移のコインを持ってやってきた。

 そういえば、研究結果の呪符とかってどこに保管してあるんだろう。

 考えを巡らせていた僕を火恋がぽんと叩いた。


「どうしたの?」

 僕はしゃがみ込んで、火恋と目線を合わす。

「よかったね」

「ん?」


 僕は訊きかえす。何が良かったのか、さっぱりわからない。

 すると、火恋はウィンクして見せた。


「これでいつでもヒカルにあえるよ」


 そうか。マルが転移のコインを持ってるなら、紅説王に気まずい思いで頼む必要はないし、殿下に見つかる心配もない。マルだったら、気兼ねなく言えるし、こういうことに頓着もしないから、下手に聞いて来ることもない。

 僕は火恋を見つめた。


「火恋。お前ってやつは……なんて良い子なんだ!」


 火恋が王族だってことも忘れて、僕は火恋を力いっぱい抱きしめた。御付の護衛に引き摺り倒されたけど、僕は頬が緩むのを止められなかった。


 これでまた、晃に逢える!


 * * *


 晃と火恋は、日が暮れないうちに馬車に乗り込んだ。

 午後二時頃のことだ。今から出立すれば、日暮れまでには次の街へ着くらしい。


 晃は馬車に乗り込むさいに、心なしかこの地を離れるのを寂しがっているような表情をして僕に微笑みかけてくれたけど、離れたくないと願っていた僕が見せた幻なのかも知れない。


 離れる前に、もう一度晃の優しい笑顔が見たかったな。

 僕は少し残念な気持ちで、城門の前で馬車を見送る。馬車の影が見えなくなって、隣で手を振っているマルに視線を移した。


「なあ、マル。もしかして、妹が次期国王に選ばれるって知ってたのか?」

「どうして?」


 マルはきょとんとした表情で僕を振り返った。


「紅説王から告げられたとき、マル全然驚いてなかったろ。それで」

「は~。よく見てるね」

 マルは感心したように言って、

「知ってたよ。っていうか、王族の者なら誰でも次は火恋だなって思ってたと思うよ」

「なんで?」


「だって、火恋は紅説王と同じ呪術者だから」

 日常をお知らせするように、マルはさらっと言い放った。


「それって、貴重な能力なんだろ?」

 戸惑う僕に、マルはなおも当然というように頷く。


「そうだよ。だからだよ。うちは、強い人が国王になる。そういう伝統だからね。男だとか、女だとか幾つだとか、関係ないんだよ。あの子が生まれて、呪術者だって判ったときから、火恋は国王になる定めだったんだよ」


 きっぱりと言って、マルは表情を曇らせた。


「僕は自由にやりたいことをやってるけど、彼女はそれをする権利も与えられないっていうのが、不憫だなって、姉としては思うよ」


 夕日に照らされたマルの横顔は、研究狂いの探求者ではなく、哀しいほど、姉のものだった。






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