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天狗の花嫁  作者: 宮部ゆら
7/8

二人きり

善丸の厚意のせいで、森の中で旦那様(一応)と二人っきり。

気まずい・・・非常に気まずい!!!


善丸たちが私を置いて飛んでいってしまってから、すでに三十分近く経っている。が、その間まだ紫雲とは一言も話していない。

流石に、この状況に少しは居心地の悪さでも感じてるだろうと、チラッと紫雲を盗み見るが、奴は私のことなんか気にもしていないとばかりに、一人、居心地の良さそうな木陰の下に移動すると何かの書物を読み始めた。私とは違い、この沈黙に動じた様子は全くない。


私だってこんな森の中じゃなかったら何かしら暇つぶしを見つけられるのに!

一人だけ余裕な顔しちゃって!! なんか悔しい!!


そうしてさらに十分が経過・・・・


もう・・ダメ・・・限界デス!!

こうなったら、せっかく善丸が作ってくれた機会だ。何でもいいからしゃべろう。今後、紫雲と話す機会なんか無さそうだし、絶っっ対後から善丸に「なに話したんすか~」とか聞かれるもん!



「あ、あの~」


「・・・・何だ?」


「え~、えっと、、、、私に会いたかったって、何か用事があったんですか?」


「・・・・・・」



失敗したっ! 当たり障りのない話題を探した結果がこれだよっ!

せっかく無視されなかったのに、内容が良くなかったみたいだ。安易に「私に会いたかった」なんて言うんじゃなかった!!


後悔してもしょうがない。なんとか話題を変えなければ!

そう考えていると、



「お前に用はねぇ。ただ、善丸が俺の為にしたことだ。無下にしたら、あいつが傷つく。」


「ん? じゃあ、善丸のために嘘ついたってことですか?」


「・・・まぁ、そうなるな。」



なんだか意外だった。初日の印象から勝手に冷たい奴だと思ってたけど、仲間の天狗にはそうでもないらしい。綺麗な顔って冷たい印象になることがあるから、そのせいだったのかもしれない。



「なんか意外でした。冷たい人だと思ってたので。」


「ふんっ。はっきり言う奴だ。」


「あっ! ご、ごめんなさい! 嫌味とかじゃなくてですね、最初の印象と全然違うなーと思っただけで・・・その、全力で褒めてます!!」


「はははっ。全力で褒めてるね。そりゃ、一応礼を言っとかなきゃなぁ。」


「い、いえ・・・。」



笑った顔、初めて見た。

今までまともに会ってなかったんだから、初めて見ることなんて当たり前かもしれないけど、それでもたまに遠目に見たりするときはいつも険しい顔をしていた。

こんな風に優しく笑うことも出来るんだ・・・。


ふいに見せられた笑顔のせいで、うるさくなってしまった心臓を何とかなだめ、平常心を装う。

顔の綺麗な人の笑顔ってホントに心臓に悪い。



「そういえば、お前はなんでここに来たんだぁ? まさか、本当に俺に会いに来たのか?」


「ち、違いますっ! 善丸が散歩の途中で急に連れてきたんですっ!」


「散歩? 善丸とか?」


「正確には善丸と天丸とです。時々私が暇してないか、二人で様子を見に来てくれて散歩・・・っていっても、空を飛ぶことを”散歩”と呼んでいいか分からないですけど、空の散歩に連れて行ってくれるんです。里を案内するっすーとか言って。最初は怖かったんですけど、今は唯一の楽しみなんです!」


「そうか・・・。お前は・・・高いところが苦手じゃなかったのか?」


「えーと、苦手だったんですけど、今は平気になりました! それに、散歩の時は善丸も気を付けて飛んでくれて、全然怖くないんです。・・・紫雲さん?」



急に紫雲の機嫌が悪くなったように感じた。

直接言葉にしているわけでは無いが、表情が険しくなっている。



「随分と、善丸と仲がいいんだな。」


「え? ・・・はい。そう、ですね。・・・どうしたんですか?」


「なんでもねぇ。帰る。」


「えっ!? 急にどうしたんですか! って、置いてかないでーー!!!」



置いてかれた!! 

急に機嫌が悪くなったと思ったら、置き去りにしていくなんて、あいつはやっぱり嫌な奴だっ!!!


この後、私を探しに来てくれた天丸に発見され、なんとか無事に帰ることが出来た。

でも、その後、部屋に戻っても紫雲が私を置いて行ってしまったことを謝りに来ることも、なぜ急に怒ってしまったのか理由を話しに来てくれることもなかった。

 










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