迎え
「──くん!あーそぼっ!」
「なな!」
男の子と女の子の楽しそうな声が聞こえる。女の子の方は、、私だ。小さいときの私。そう、これは夢だ。ちゃんと夢だって分かってる。小さいときからたまに見る夢。私は夢の中の私になって、男の子と話している。
「なな!これやる!」
男の子が手を差し出してきた。私に何かくれるらしい。
「わー!!ありがとー!!じゃあ、──くん、これあげる!」
「お、おう!」
夢の中の私は、それはそれは嬉しそうだ。
私は男の子の顔が見たいのだが、昔から顔だけはちゃんと見れない。夢の中の私は男の子の顔を見るどころか、さっきもらったものを眺めている。私よ、顔、顔を見ておくれ!!
私の願いもむなしく、夢の中の私は男の子の顔を見ない。
「なな!こっち来いよ!」
男の子に呼ばれてようやく私が顔を上げる。男の子は後ろ姿で私を呼んでいたが、少しずつこっちを振り返っていく・・・もう少し、もう少しで・・・・
がたんっ!
「~~!!っっ痛っ!!」
塗装されていない田舎道を進むバスの中で、したたか頭を打ち付けたせいで目が覚めてしまった。
もう少しで男の子の顔が見れるところだったのに、また駄目だった。
窓の外を見ると、見慣れた景色が見えてきた。
私がまだ小さかった頃、両親の仕事の都合でこの町を出てしまったが、今年の春から私だけ生まれ故郷であるこの町に戻ることにしたのだ。
長いことみてなかった夢を見たのも、久しぶりに戻ってきて懐かしく感じてたからだろう。ここに住んでいた頃はよく見ていた気がするし。
バスを降りて思い切り伸びをすると背中から嫌な音がしてきた。長時間のバス移動は辛い。ちょっと体をほぐすためにここからは歩いて行こう。
懐かしい田舎道を歩いていると、すぐに祖母の家が見えてきた。昔と何も変わってない。これから私が暮らす家だ。
私がこっちに来ると伝えてから祖母も祖父もとても楽しみにしてくれていて、今日も朝から何時に来るのか何度も携帯に電話がかかってきたくらいだ。
(おじいちゃんも、おばあちゃんも久しぶりだな~)
「ただいま~!」
「優希!あら~、大きくなって!疲れたでしょう?おじいちゃんも居間で待ってるから、あがって!」
おじいちゃんも、おばあちゃんも相変わらず元気で、私が部屋に入るなりずっとしゃべり続けていた。そのおかげで私が解放されたのは家に着いてから数時間もたって日が暮れた頃だった。
久しぶりに帰ってきてちょっと散歩とかしたいと思っていたけど仕方がない。散歩は明日にすることにしてとりあえず、今日は疲れたし早く寝て明日に備えよう。
******
翌朝。
はあ~!よく寝た!
いつもより早く寝たおかげで、早朝に目が覚めてしまった。早起きついでに昨日できなかった散歩にでも行ってこようと早速着替えを済ませて外に出た。
(う~。寒っ!やっぱりまだ冷える、、、。でも清々しくて気持ちいいな~)
早朝だけあってまだ人通りも少ない。
少し進んでいくと今自分が歩いている道が、昔よく遊んだ山に続く道だったことを思い出した。
昔は毎日のようにこの道を通って山に行ったな。で、そこで、、、あれ?そこで何して遊んだんだっけ?
毎日遊んだことは覚えてるのに、何をして遊んだのか覚えてない。
友達、、、一緒だったかな? え? もしかして独りぼっちで遊んでたっけ?
「あれが、七瀬優希か?」
「そ、そうじゃないかな。この写真と同じ顔してるし、、、。」
一人で昔の記憶を掘り起こしていると、不意に声が聞こえてきた。しかも、気のせいだろうか私の名前が聞こえてきた気がする。注意深く周りを見渡していると、さっきまで誰もいなかった場所に突然二人組の男が現れていた。どちらも黒髪で一人は背が高く、もう一人は背が低い。
そのうちの背の高い方がゆっくりとこっちに近づいてきた。
に、逃げなきゃ!なんか分かんないけど、私の本能が危険だといっている!!
背の高い男から逃げるべく元来た道を引き返そうと足を踏み出したとき、それよりも早く私のところに着いた男が腕をがっちり掴んできた。なんか、もう泣きたい。
「あんた、七瀬優希?」
「・・・・・。」
「おーい!!あんたが”七瀬優希”か聞いてるんすけど?聞こえてますかー?」
耳元でそんな大声出さないでほしい。ちゃんと聞こえてます。答えたくないだけです。察してください。
私がいつまでも答えないでいるせいか小さきい方の男が少し困ったような表情で近づいてきた。
「ぜ、善丸。そんな大声出したらびっくりしちゃうよ。も、もっと普通の声で聞かないと。」
「じゃあ、お前がやってみろよ」
小さい方に注意されて少し拗ねたような顔をしている背の高い方の男の名前は善丸というらしい。随分古風な名前だなーなんて考えていたら、今度は小さい方の男が話しかけてきた。
「あ、あの、、。ぼ、ぼく、天丸っていいます。あなたは七瀬優希さんですよね?」
小さい方の男、もとい天丸は少し頼りない感じではあるが悪い人ではなさそうだ。それに名乗ってもらったのにこちらが名乗らないというのも失礼な気がしたし、何よりも乱暴そうな善丸に名乗るくらいなら天丸の方が良いに決まってる!
少し考えてからどっちに名乗った方が安全か結論づけた私は、天丸の質問に渋々ながら答えることにした。
「・・・そうですけど。なにか御用でしょうか?」
そう言うと、二人は顔を見合わせてうなずき合った。そして、善丸が深呼吸をすると意を決したように私の顔を見つめてきた。
「七瀬優希。これから俺たちと共に里まで来てもらいたい。」
「里??」
「は、はい。僕たちの、、、天狗の里に」
「・・・・・はぁ~!!!!」