理解と許容 上
6話目です!
今回は少し短めです。読みやすいかな?苦笑
あと、魔法使いどうしの会話があるから説明回でもありますかね笑
兵隊達の濃いキャラや、スカイとコルクの考え方をちらと感じてくれれば嬉しいです!
「ピンズの元へ集結する期限は摘み取りの一週間前か」
「関節部分は布ほどに薄く、かつ強度はそのままよ。それから今までは掌から滲み出した血液を外部に放出させていたけど、新しく血液循環のシステムを付けたから、貧血の心配は無くなるわ。ただ、血管に数本のチューブを通すことになるから、すこし痛みがあるかもしれない」
「また約一ヶ月のお別れか」
感慨深そうに呟きながら、暖炉の炎に手をかざす。血の通った、それでいて病的に白い手が炎に照らされる。コルクのグローブを外して暫くの間いじっていたスカイが立ち上がり、コルクの前に立つ。両手には、コルクの見たことのない装備が抱き抱えられている。
「大きくないか? 俺の知ってるグローブってのはこのくらいのサイズで、こいつは篭手とか、そういった類のものじゃ」
自分の手をスカイに見せて、以前のグローブの大きさを示すが、スカイは気にもせずさっさと型を当てはめていく。二つの型を合わせて腕につけるタイプになっている。溶接はせず、カジノと同じ魔法接合で繋ぎ合わせる。
「さて、チューブの方をはめるわ。まず麻酔を打つから、その台に横になって」
スカイが指さした方には、粗末な作業台がある。工具が散らかっており、人を寝かすには片付ける必要がある。しかし、コルクにはその時間はない。そのまま台へ体を倒す。
「おいおい、大手術だな。麻酔の経験は」
「無い。でもやり方は教わった」
「とんだドクターだな。優しく頼むよ」
たどたどしい手付きで注射器を用意して、コルクの両腕へと刺していく。ゆっくりと薬品を注入すると、暫くしてコルクの両腕は死んだように動かなくなった。それを確認したスカイは、グローブのもう片方の型を腕にあてがう。スカイが両腕をコルクの両手に当てはめてあるグローブに添えると、魔法を流し込み、二つを接合する。魔法でチューブが針のようにピンと尖り、腕の血管を目掛けて伸びていく。
「君のは……血液循環タイプか」
「そう。上手く使えば永久に魔法を使ってられる奴ね。ただ、体のキャパによって使える魔法のレベルが限られる……あまりに現実味を帯びない内容になると血管や心臓が破裂するわね」
「それなら俺だって一緒だ。余りにも虚妄じみたものを発動させようとすると干からびちまう。現実ありきの魔法ってのが、魔法使いのタヴーだろ。そこ行くと君のこれは掟破りだ」
新しいグローブを肘から曲げる。カチンと言う軽い音と共にいつも通りの角度に腕が曲がる。タギル鉄の合板を薄く加工する技術は流石というところである。麻酔がまだ効いているのか、腕の動きは鈍く血管や腕に痛みはない。
「あなたが何をするかは分からない。ただ、あなたのする事がどれだけ大きいかは何となくわかるの。それには力がいる、違う?」
「力のあるものはどうしてもその力を見せびらかしたくなるものだぜ? 君のその技術力も、いつか誰かに知ってほしいと、そう願っているんじゃないか? 自分の力が理解されないこの世の中だから、あわよくば俺が世界をひっくり返してくれるのでは、なんて思ってたりするのかい」
「たしかに私の力は今の世界では認められていない。けれどそれを崩して私達魔法使いを世界の表舞台に立たせたら、誰かが頭角を現すのは間違いないわ。それは今まで王族が行ってきた行為をそのままコピーしたようなもの。私は、この世界が壊れた後もこのままでいる」
「王に縛られず、好きなものを作り続けることが、君にとっての価値の証明かい?」
コルクの問いに、若き魔法技師は辺りを照らすような笑顔を顔に表し、振り返りざまに答える。
「そうよ。今までと同じ。ただ、今は政府が私のやることにとやかく言うだけだから。それが無くなるだけ、でしょ?」
コルクは魔法技師であるこの娘に、愛着が湧いてきていた。スカイの考え方は、コルクの生き方に少し似ている。
「あなたが頑なに魔法技師にならないこと、それはあなたにもプライドかあるからじゃない? プライドの形は人それぞれで、私は今の政府があるからこの仕事に就いてるって思わないの。いつかはこの仕事に就いていたなって、そう思う。そして私の作りたいものを作って、人が望むものを作る。多分それは変わらない」
「それにはまずは俺達への理解のある世界にならなきゃあな。ああ、俺は何も手をくださないぜ?」
知ってる、と笑顔はそのままにスカイは自分の机の方へと戻っていく。鼻で笑いながら、コルクは指の1本1本を動かしてみる。腕に痺れに似た痛みが戻ってくるのを感じる。
「ところで、これはどうやって外すんだい? 流石に今までと違ってこのままシャワーや寝るのは厳しくはないかい?」
「そのために私がいるんでしょう?」
「えぇと、ということは君は俺についてくるって言うことかい?」
その質問には、彼女の満面の笑みが答えていた。コルクは小さくため息を一つつくと、気だるそうに切り出す。
「君は、戦闘に適した魔法は使えるのかい? もちろん、回復や、防御も含めてだ」
「ううん、全然」
「あー……そうだな、君を連れていくとなると、俺があと3人くらい必要になるんだけど、手配できるかな?」
「いい? あなたの魔法は呪印穴を通して血液を外へ流して初めて魔法が発動できるの! 言わば等価交換、数千年前の錬金術や悪魔召喚の儀式に似た内容なの! その代わりにその血の濃度や量によって、強力な魔法を使えてるの。その発動源たるグローブのメンテナンスを怠ったとして、どうやって魔法を発動するの?」
スカイが一気にまくし立てる。コルクは厄介な客を追い払うように素っ気なくあしらう。
「別に呪印穴は俺も作れるんだ。問題ない」
「問題なく無い! あなたの新しいグローブ、それを通じて流れ出た血液を再び体内に戻すようにしているの! 当然外気に触れた血液を体内に戻すわけで、血液を清潔に保ったり、パイプ構造とかに高度な技術が求められたの! そのお陰で消費型のあなたが循環型のように魔法を使えるようになるんだから、安いもんでしょう?」
スカイが大声でがなりたてると、流石にコルクも滅入ったのか、相手にするのは時間の無駄だと思ったのか、とうとう折れた。
「わかった、分かったよ……ただ、最悪君の身の安全を守れないかもしれない。そこは前もって伝えておくよ。いいかい?」
「もちろん! 自分の身は自分で守るから大丈夫!」
小さな技師は親指を天井に立てて返事を返した。指先からは青い光が仄々と浮かび上がる。盾の魔法。なるほどこの娘は魔法使いだ。
「ええい! 遅いではないか……オイルはどこで油を売っている?」
「は、バジル様。オイル様がこうも遅いとなると、恐らくもう……」
「隊長なのだぞ? そんじょそこらの新兵などでは無い! 貴様らを残して隊長が先に死ぬなどと、そのような事があってなるものか!」
ソアラの城の中にある兵舎は、1人の男の怒号で満たされていた。隊長室でバジルは忙しなく部屋の中を右往左往し、時計を見ては情けない顔をする部下に罵声を飛ばす。
「まぁいい。仮にオイルが奴によって殺害されたとしよう。ではだれが? 誰がこの始末をつける? 責任は私が持とう、しかし! 私にはまだ兵がある、それは! 任務の続行を意味する、これが分かるな?」
ここまで一息で吐き出したバジルは机の上のコップを乱暴に引ったくり、中の水を飲み干す。既にしばらく置かれていたのか、その水は生温くなっていた。
「ご安心ください、バジル様。私には策があります」
「策があるなら動くが良いビネガー! 口を動かすことは誰にでも出来るのだぞ」
そっと、ビネガーと呼ばれる男は顔の横で手のひらを掲げ、喚くバジルの顔を伺う。その様子を見ると、先程まで喚きふためいていたバジルがピタリと大人しくなる。このアクションは彼が信頼できる作戦を公表したい時に決まってとる動作だ。
「ビネガー、話してみろ」
「は、オイル様が向かわれたのはモロニカ市場です。既に私の隊から数名を派遣し、安否の確認をしております。更に、コルク=グリスと関わったと思しき人物への調査から足取りを辿ります」
「足取りはいい! 問題はどうやってあの男を殺すのかだ」
怪訝な表情で払い除けるようにビネガーの発言を遮ると、負けじとビネガーも食らいつく。
「いえ、既に安否の確認は完了、コルクの居場所も分かるのです」
「なに、そうなのか? それを早く言え! して、奴はどこに」
「申し訳ありません。一つ気になることがありましたもので。奴は今、市場の中にある技術士の元を訪ねています。今晩はそこへ泊まる模様かと」
「技術士……魔法技師か。というと、スカイ=プレーンくらいしかおらんな。奴も厄介なやつだ。丁度いい、一緒に片づけてやる。早速新たに兵を差し向けて」
「いえ、それはまだ控えた方がいいかと。私が気になっていたことがそこにあります。奴の目的がハッキリとしていません」
「ふん! 今更目的などと、奴は革命軍の軍門を下り、政府の転覆を狙っているに違いない!」
「いえ、それが。オイル様が殺された現場には、無数の穴が空いていたのです」
「穴? 奴の魔法ではないのか?」
一刻も早くコルクを殺さんと言わんばかりに、部屋のドアノブに手をかけているバジルに背中越しに諭す。
「いえ、調べたところ穴から鉄の塊が見つかったのです」
「鉄の塊が……? まさか、炎筒のものか?」
「作用でこざいます」
「やはりそうではないか! やつは仲間を集めていまにでも」
バジルがちらとビネガーを見ると、例によって片手を顔の横に掲げている。
「すまない、続けてくれ」
「はい。射撃のあった方向に向かうと、確かにジャムゥの女が一人いました。ただ、死体でした」
「オイルの部下が殺したのだろう」
「刺し傷が見つかったので、多分そのようです。ただ、せっかく見つけた仲間を置いていきますか? 奴には回復魔法があります。しかしやつはそれを使っていない。革命軍の人員は『摘み取り』により日に日に勢力が縮まってきております。奴は大事な戦闘員をむざむざ死なせてしまった。奴はまだ同じ街に留まっている。これは、奴の動機を今1度考え直す必要があるのでは無いのですか?」
「その必要は無い。考えるのは奴を捕らえてからじっくりと聞き出すさ。ビネガーよ、貴様のその手際の良さと思慮深さは大いに評価する」
「隊長!」
「さぁこうしてはいられない。オイルの倍の兵士であの反逆技師共々駆除するんだ。指揮は貴様が取れ」
既にドアノブは手汗で汗ばんでいる。バジルはその握っているドアノブを強く引き、兵士を数名連れて外へ出た。仕方なしに、ビネガーはその背中を追った。