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エロイカメンテ  作者: フリー・マリガン
5/22

鳥籠と青空 下

フリー・マリガンです!

えーと、5話目?を投稿しました!文量多いとか言わないで上げてください!泣

戦闘描写マシマシにしてみたのですが、それ以外が酷すぎて泣きそうです。泣

アイディアやご意見、ご感想ありましたらお待ちしてます!

それではどうぞ!

「げほっ……脇腹がやられたか……おそらく内臓も馬鹿になったろうな」


 いつの間にか、霧のかかった夜空に月が朧に浮かんでいた。そのかすかな光が流れ出る血に反射して、レタスの瞳に映し出される。自分の体からまっすぐ伸びる赤い線を虚ろな目で眺めながら、レタスは自分の左の腹部を擦る。やや生温いぬめりけのある感触が皮膚に伝わる。感覚が徐々に薄れ、ここがどこか、何時くらいかなど、頭から少しずつ霞んでいく。窓の方に首を回すと、向かいの建物の三階には小さく赤い光が灯っている。


「や、奴は……無事だろうか……」




「いいか、この宿は三階建て、俺たちの部屋も三階で、部屋の外の廊下には西と東に階下に繋がる階段がある。この部屋は西寄り。数は分からんが敵はおそらく西側の階段から多くの兵を投入し、俺達が一番近い退路を断つだろう。そこであんたには恐らく注意が薄いと考えられる東側から宿を出て、向かいに見える建物の奥に向かってもらいたい。幸いお尋ね者は俺だけ、あんたにはノーマークだ。その炎筒を布か何かにくるんでバレないように外に出るんだ」


「『ハジキ』には魔法が効かない……貴様1人をこの部屋に残してどうするつもりだ」


「そのためにあんたの力を借りるんだ。あんたが入ってきた奴らを狙撃するんだ。俺はあんたの腕を信頼している。頼んだぜ、蛇のレタスさん」


「言われなくとも百も承知だ。貴様は自分の身の心配だけを案じていろ」


 レタスがドアノブに手をかけた時、階下から怒号が響く。


「政府軍だ! 只今からこの宿を調べさせてもらう! 建物に残っている者はその場から1歩も動くな!」


 レタスが無言のままコルクの方を向くと、彼は眉を寄せて鼻で笑っている。近くにあったソファにどっかりと腰掛け、足をテーブルに投げ出し、降参したように手を頭上で振る。


「あー、万事休すってやつかな、お嬢さん。どうする? ああ言われちゃな」


「敵の言葉にはいそうですかと従うようなら、初めから戦いの中に身など置かなかったさ」


 コルクの座るソファの後ろを早足で通り抜け、窓の前に立つ。コルクがその方向を向くと、窓を開け、今にも飛び降りるかのように足をかけるレタスの姿があった。


「怪我するなよお嬢さん」


 その言葉を合図にしたように、レタスはさっと身を外気に触れさせ、夜の闇へと消えた。


「さて、俺はどうしようかね」




「オイル隊長、この階が最後であります」


 東側から階段を登るオイルの班が三階へと辿り着く。部下に命令させ、一つ一つゆっくりと部屋を確認する。廊下の向こう側から、西側から登ってきた班の姿が見える。彼らも同じようにドアノブに一つ一つ手をかける。

 西側の班の1人が3番目のドアに手をかける。

 瞬間、ドアは開くことなくそのまま水平に動き始め、兵士を壁に押し付ける。


「がぁっ! こ、ここだっ」


 その兵士が扉をどかそうと両手を振り上げ力強く叩くと、扉は砕け、木片が刃となり彼の顔や腹、足に突き刺さった。


「ぎゃあっ! い、痛てぇっ! 痛え!」


 その兵士は目を抑えてその場で呻いている。体はくの字に曲げたまま痙攣していたが、暫くして動かなくなった。


「野郎っ! 味な真似をやりやがるっ!」


 頭に血が上った西側の班が狭い入口を順番に潜って突入する。


「『ハジキ』が来ると予想し、直接的な魔法でない攻撃を考える……これは一筋縄ではいかんな」


 オイルは次いで自分の班も続かせ、その後を追った。




「やぁやぁ皆さん、お揃いで」


 騒がしい客人に挨拶を返し、コルクはソファからのんびりと立ち上がった。黒い全頭頭巾に一枚布で出来た黒い装束、コルクが予想したとおり、『ハジキ』部隊だ。兵士たちは先程の光景で、自分たちの装備は無敵ではないと悟り、彼が立ち上がると数歩後ずさった。


「ひぃ、ふぅ、みぃ……律儀に廊下に並んだお客さんも加えると総勢8人くらいってとこか。大変なんだな君たちも。俺が若い頃はもっと君たちの装備の兵隊さんたちを相手に戦ってたんだよ。そうだな例えば」


 コルクが言葉を続ける前に、隊の中で一番若い兵士が抜剣し、一歩踏み出し下から切り上げてきた。


「そう。君くらい血気盛んだったった頃だ」


 コルクが目の前に出てきた兵士を指差すと、爆音が轟く。他の兵士がその音に気を取られていると、自分たちの足元に先程の若い兵士が転がっているのに気付くのが遅れた。全頭頭巾を被った頭には大きな穴が空いている。

 彼は大きく海老反りしたあと、絶命した。


「おいっ! おい、しっかりしろ!」


 絶命した兵士に駆け寄った兵士を、先程まで若い兵士に向けていた人差し指を駆け寄った兵士へ向ける。刹那、その兵士が廊下に群がる兵士達の中にもんどり打って倒れ、風船の空気が抜けるような音を立て息を吐いたあと、呼吸が止まった。彼の心臓には、最初の若い兵士の時のような穴が心臓に空いていた。


「お前達、部屋から出るんだ! 早く!」


「あと1人くらいは持っていきたいところだが、出来るかな」


 背中を向け、慌てて撤退を始める兵士達の1人に風穴が開く。前の兵士の肩を掴み、暫くは立っていたが払いのけられ、その場に崩れ落ちた。

 廊下に出た兵士達は、オイルを中心に円を作り、話し合い始めた。


「ど、どういう事でしょう、オイル隊長。我々の装備は魔法を弾くのでは」


「……奴のあれは魔法ではない。私の予想が正しければ。残りは何名だ」


「は、三名がやられ、今は五名です」


「そうか……先程から繰り出される攻撃、あれは炎筒によるものだと思う」


「炎筒!? あのジャムゥの民族武器ですか」


「ああ。奴め、やはりバジル隊長の危惧していたとおり、戦力を確保していたか」


「それで、この後はどうされますか?」


「ここで奴らを仕留める。ジャムゥ族は2人でいいだろう。奴らは近距離の戦闘と多人数の戦いには向いてないはず。コルク=ボトルには三人を当て、数で圧倒する。種が分かった今、奴は袋のネズミだ」


 コルクのいる部屋に屈強な兵士が三人、勢いよく乗り込んで来る。部屋の角にそれぞれ配置し、なるべく距離をとりつつ様子を見ようと言ったところに見える。


「おや、今度は3人でお出ましかい?」


「機転は利くようだか生憎私も戦闘のプロでね。魔法が効かない魔法使いなど、赤子を殺すより容易い」

 



「おかしい……今度は3人だ。こちらに気付いて乗り込んでくるか?」


 レタスが建物の窓から大通りを見下ろすと、人混みをかき分けて慌ただしくこちらの建物めがけて走ってくる兵士の姿がある。


「数にして、2人か。ふふ、舐められたものだ私も」


 レタスは恩義と誇りを忘れない。兵士が乗り込んでくるとわかっても、彼女は援護射撃を止めるつもりは無かった。狙いを手前の屈強な男に構える。不気味な装束に1人だけ羽か付いている。なるほど奴が隊長か。自分が寝そべる床に、足音が響く。奴らが上に上がってくるまで撃ち続ける。身を守るのはそれからだ。

 引き金に指を添えた瞬間、背後の扉が勢いよく開く音がする。はっとして振り返ると、兵士が2人、剣を構えてこちらに突進してくる。


「なんだ、意外と早かったじゃあないか。もっと鈍くさいもんだとばかり思っていたぞ」


 レタスは先程まで合わせていた照準を自分に襲いかかる手前の男に持ってきて、引き金を弾いた。




 爆発音が鳴り響く。レタスのものとは分かるが、弾がこちらに飛んでこない。恐らく向かった数名の兵士と交戦中なのだろう。


「貴様の相棒さんはもう死んでいる頃だろう。お前も諦めて俺達に殺されるんだな」


「どうやらそのようだな……そうなると、俺が戦わなきゃならないのかな。数にして3人、もう少し向こうにあたってもよかったんじゃないか?」


「減らず口を抜かすな。魔法は効かないんだぜ? 我々にどう立ち向かうと」


 その言葉を体で表すかのように、コルクは一番扉に近い角に立っている兵士の目の前に、明かりが灯るように現れると、どこから取り出したか、剣が腹部を突き刺した。


「かっ……は、き、貴様」


「あー駄目だ。やっぱり剣はからっきしだな。相手を苦しませちまう」


 刺した時と同じように刃を抜くと、ゼンマイが切れた玩具のようにその場に顔からどうと倒れた。


「あ、お、俺の剣だ!」


 反対の角に陣取る兵士の剣は、コルクが先程の兵士を突き刺すのに使ったものであり、一瞬のうちに奪われていた。オイルはその光景に肝を抜かれつつも、冷静を保ち思考する。


「あれは、瞬間移動魔法……厄介な代物だ」


 オイルの握る剣に強い力が加わる。コルクは血が鈍く光る剣を二、三度振るうと、反対の隅に立つ兵士にピタリと切っ先を向ける。


「お、おい、何をする気だ?!」


「あんたの剣なんだろ、返すよ」


 磁石の両極が弾けるように、コルクの手から矢となった剣が放たれ、向かいの兵士の喉元に突き刺さる。兵士は、声を上げずしばし苦しんだ後、喉を掻きむしるようにして呼吸を絶った。


「恐ろしい奴だ。私でも勝てないかもしれん。しかしジャムゥの炎筒使いは命を貰い受けるぞ」


「勝手にしろよ。ただ、おいそれと命を差し出すような雑魚ではないと思うぜ? 見たところ、あんたがこの『ハジキ』の隊長さんかい? この勝負、勝ち目はないと思うが」


「自分の力に余程の自信があるのだな。まずはその高い鼻を折らねばなるまい」


「力を誇示するのは二流三流のやることさ。俺は事実を言ったまでだ」


「あくまで貴様のそれは誇示では無いと言うか! よろしい、ならば真実を教えてやる!」


 剣を奪うのに1回、一人目を殺害するのに1回、計2回の瞬間移動魔法はコルクの体に応えた。疲労が蓄積され、目の前が朦朧としている。実際のところ、軽口を叩くのも精一杯だった。先程から撤退や炎筒を見抜いたところを見ると、隊長であるこの男は一筋縄ではいかないようだ。次の一手を考えている間に、オイルが胸元まで迫っていた。切っ先は顎の下まで振り上げられているのが目に飛び込んでくる。


「うおっと…っ……がふっ」


 拍子抜けした掛け声とともに、両手を前にかざし魔法で相手を吹き飛ばす。直後に大きく呼吸が乱れる。後転するようにオイルが角まで押し戻され、壁にぶち当たる。外傷はそれほど無いらしく、頭を暫く抑えた後、立ち上がる。


「貴様の魔法が消耗の激しいものだという調べはついている! この持久戦に勝利することが私の最大の作戦だ!」


「ゼー……やばいな。血が足りねぇ。こりゃ晩飯はステーキかレバーだな」


「行くぞコルク=ボトル!」


 オイルがソファを乗り越え、コルクへ飛びかかろうとしたその時、爆音と共にオイルの体が中空で横倒しになった。

 地面に落されたオイルは胸部から血を流している。立ちあがろうと手を付くが、力が入らずその場で藻掻く。


「馬鹿な……ジャムゥ、い、生きて……ゼー、奴ら、しくじったか……」


「ふぅ……俺も付いてるね。悪いな、作戦までしっかり考えてくれたのに、最後は運に殺されると来たもんだ」


 力の抜けたオイルの手から剣をひったくると、転がったオイルの筋肉質な体に垂直に突き刺す。3秒ほど痙攣したあと、全く動かなくなった。オイルは煙草をワイシャツの胸ポケットから取り出し、火をつける。


「あぁ落ち着く。暫くは安静かなこりゃ」




「はぁ……はぁ……ごぼっ」


 脇腹からの出血が止まらない。恐らく死ぬのだろうという思いに駆られる。コルクの言った通り、自分は多人数との戦闘に向いていない。二人でもこの有様だ。勝てるはずがない。

 そっと目を閉じようとすると、背後から伸びる月の光に人の影が映り込む。途端に部屋がヤニ臭くなる。


「はは、はぁ……遅かったじゃないか。どうやら、幻覚じゃなければ無事の様だ」


「護衛任務ご苦労さん。お陰でこの通り、ピンピンでございます。報酬は弾むよ」


「はは、生きてりゃ貰えるだけ分捕るさ。おい、貴様。私の傷は魔法とやらで治せるか」


「悪いな、無いものを作るってのは、かなりの魔法の力を使うんだ。俺みたいな血液消費型の燃費のわるい質じゃあ特にね」


「無い……かあ……それじゃあ仕方ないな」


「あんた、ナイスファイトだよ。近距離戦闘と多人数戦闘は全く出来ないものだと思ってたのに、2人も道連れたぁ」


「げふっ……蛇のレタスを舐めてもらっちゃあ困る」


「蛇のレタス様のお力、しかと拝見させて頂きました」


「ははっ……げほっ、はぁ……ところでコルク」


 レタスが不意に手を伸ばす。コルクがしゃがむとレタスは彼の方を掴む。レタスの瞳は潤んでいた。月の光で煌めく。


「貴様、私を利用したろう。こうなることは、分かっていたのだろう? 貴様の力があれば、奴らすべてを撃退できたろう。私が死ぬ事も、全て見越して」


「……お嬢さん、あんたのいる傭兵団の団長さんの名前、ジャム=ヴァレニエだろ」


「どうしてその名を……」


「俺は、これからあんたの団長さんを殺さなきゃならなくなる。全て、俺達が始めた事の責任をとるために。理解は出来ないかもしれないが、あんた達はこの先、そのままじゃあ生き残れない」


「……はは、畜生、もっと、狡猾にってかい? コルク……」


 乾いた笑いをあげたあと、レタスの頬を涙がつたる。コルクがその涙を手で拭ってやると、既に頬は強張り、冷たくなっていた。




「泊まってきなよ。私の店は誰も寄り付かないからさ」


 空き家を出ると、夕刻に出会った魔法技師の少女が立っていた。どこか不安そうな顔をして、こちらの様子を伺っている。大きな瞳には恐怖とも取れる色が浮かんでいる。


「スカイちゃん、これは俺の責任、贖罪なんだ。お嬢さんみたいな若い人材が首を突っ込んで、掻き乱していい事じゃない」


「違うの! 私が憧れていたのはあなたじゃなくて、革命軍の英雄様なの。今のあなたは多分、違う人」


「……過去の記憶にすがるのは逃げだした者のする事だ。君は現実から逃げていないか?」


「いいえ。すがってなんか無い。私はただ、時代が変われば、あなたがそうなるかも知れないって思ってるだけ。私は、あなたがそう記憶されるのを強く望んでいるの。あなたの行動にとやかく言わないわ。あなたのした事が、皆の記憶に残ればいいなって」


「……その時は、名前は残らないぜ。ある英雄の記憶、とだけだろうな」


「私は通りすがりの武具職人。旅のあなたを偶然助けただけ」


「それで結構。スカイ=プレーンさん」


コルクは方頬を釣り上げて笑って見せた。

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