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エロイカメンテ  作者: フリー・マリガン
4/22

鳥籠と青空 中

フリー・マリガンです。

4話目…になるのかな、を投稿しました。

相変わらず展開が遅いですが、次あたりにもっさり戦闘を出すのでご安心を笑

新キャラ、伏線っぽいの、ちょっと動き出す個々の思いを少し感じてくれたら、上手くかけたかなって思えます。

ぜひ、読んでみてください。


読んであげてください。

 コルクの数歩先をレタスが確かな足取りで歩き始める。早足で進む彼女は短く切った金髪の髪を、まるでコルクを誘導するように光らせた。背中には例の銃が下げてあり、弾が込められているのか、ちゃりちゃりと音を立てている。コルクはその背中に言葉を投げかける。


「お嬢さん? その武器は確か、『炎筒』だね?そうなるとあんたは多分あの……」


「これを知っているとは。その通りだコルク。この武器を作ることができ、なおかつ使えるのは我々、『ジャムゥ傭兵団』だけだからな」


「ジャムゥ……ジャムゥ村……七年前の『摘み取り』で消滅したんじゃないのか?」


 神妙な面持ちで言葉を返すコルクに、ぴたりと足を止め、振り向いたレタスが無言で頷く。霧で表情は読み取れないが、悔しい思いをしたのだろうか、すぐさま振り返って進み出す。先程から自分の足取りが重く感じるコルクは、軽々と歩くレタスの背中を視線に写しておくことが精一杯だった。


「確かに殆どの村民は命を落としたな。しかし、私や団長はこの技術を後世に伝えるべく、こうして生き永らえている。『炎筒』は政府のクソッタレ共にはない技術。ひがんで私たちを攻撃するなど馬鹿馬鹿しいにも程があるな。ところでどこで『炎筒』を知った?」


「はぐれ者は同じはぐれ者の事を嫌でも知るようになるのさ。あんた、俺は何に見える?」


「……多分、魔法使い、なんだろうな。貴様の使う技は私には到底理解出来なかった。話には聞いていたが、何をしたのかさっぱりわからなかった」


「話には聞いていた?」コルクは霧の中に消えるレタスを情けない足で必死に追いながら、レタスの話で気になる点を見つける。


「ああ。団長が話すんだ。かつて魔法使いと一緒に戦ったんだ、って。魔法使いは我々と同様、政府から除け者にされてきた同志だ、とも言っていたな。今の私や貴様がそうか」


「同志、ねぇ。奇遇だな。俺も『炎筒』使いに同志がいたよ。お嬢さん、あんたのその、団長さんの名前はなんて言うんだい?」


「おや、見えてきたぞ」コルクの質問が聞こえなかったのか、レタスが自分の目の前で立っている。辺りを見ると霧は先程より余程晴れており視界が開けている。2人は小高い丘陵に立っており、コルクの疲労が大きいのは、少しながら登攀したためである。


 レタスの指差す方には、監視塔の松明が赤々と燃えている。そこから少し下に目を落とすと、まだ活気に溢れる市場の姿があった。懐中時計に目をやると、夜の8時過ぎで、城下町ならほとんどの店は閉まっている頃である。


「まだ店はやっているんだな……どれ、君はこの買い物、俺は人探しと行こう」


「まぁ待て。夜も深い。宿をとって明日にしよう。用事はそれからでもいいだろう」


「宿? 君、泊まるつもりでいるのか?何もそこまでする必要は無いんだぜ? とっとと探して終わらせちまった方が、君の仕事にも差し支えないしいいんじゃあないんのか」


「貴様には命を助けられた恩がある。私はできる限りの恩義を返したい。それを返さねば私の誇りに傷がつくし、それが人としての道理ではないのか?」


「恩、誇り、ねぇ……まぁ好きにしてくれ。宿はそっちで探してくれ。俺は人探しをしてくる」


 街に入ると、レタスは大通りを堂々と進み、宿を探した。コルクは狭く仄暗い裏路地をネズミのように歩き回り、目的の人物の家を探す。コルクが裏路地を通るのには訳があった。


「さて、そろそろかね」




「シルク様、ご報告があります」


 コルクがソアラの街を発ってから五、六時間ほどして、ソアラ城では玉座の間に駆け込んだ1人の若い兵士が、目の前の主に跪く。


「バジルか。なんだ騒々しい、申してみよ」


「医療施設エリアの営業管理局から連絡で、コルク=ボトルの経営する病院が、休診届けを管理局へ提示していないとの事です」


「ふむ。コルク=ボトルか、懐かしい名だな。まぁ焦ることもあるまい。奴は1度我々に敗北を喫し、身も心も我が国の忠実な医師として働いておる。万が一という事もあるまい。大目に見てやるのだ。バジルよ、お主はまだ若い。若くして摘み取り隊長を任されたとはいえ、事を急いては仕損じるぞ」


 シルク王は自分の首や顔の周りを覆うほどの分厚い白髭を右手で撫で、左手は退屈そうに肘掛に指を付いて鍵盤でも引くかのように動す。


「は、しかし王様。あの男は魔法使いです。もし我々に牙を向く意志があればすぐにでも」


「良いではないか。むしろ今儂に楯突いているのはバジル、お前の方ではないのか?」


 肘掛に置いていた手の人さし指をすっと伸ばし、眼前のバジルに伸ばす。顔には刻まれた深い皺が眉間にに集まっている。その物言わぬ圧力に気圧され、バジルは俯き、狼狽する。


「め、滅相もありません王様。御意に」


「よい、よい。下がれ」


 バジルは玉座の間を後にし、廊下を何かを踏みつけるような足取りで進む。玉座の間の扉から遠く離れたあたりで壁に握り拳をぶつける。通り過ぎた使用人がちらと横目に見るが気にしない。


「王は何故あの男を生かすのだ。あの男こそ大罪人、革命派の首謀者ではなかったのか。反逆の芽は摘み取らねば。そうだ、今にきっと奴は仲間を、武器を、拠点を築き上げているに違いない」


「……バジル様、この後はどうされますか」


 玉座の間から伸びる廊下でバジルが帰るのを待っていた部下が怒り心頭のバジルに伺う。


「おおオイル、王はコルク=ボトルに目もくれない。これでは政府が奴らの革命運動とかいうふざけたテロによって崩れ去ってしまう。そうなる前に手を打つ」


「は、では直ちに『ハジキ』を招集し、コルク=ボトルを尾行させます。部隊長は私が」


「尾行? 違うな、殺せ! いかなる方法を以てしてでも殺すのだ! これが成功した暁には革命軍など恐るるに足りぬ存在に成り下がる……その折には王も私の身勝手をお許しになるだろう、そして! 私は昇進し摘み取り部隊のみならず政府軍全てを統率する将軍になる!」


「は、しかし隊長。並行して摘み取りも行うことになるのですがそれはいかがなさいますか」


「摘み取りの前に終わらせるのだ。もっとも、摘み取りはあの裏切り者のレイスが事実上軍団を率いていることになる。王子とはいえ所詮裏切り者、ここで奴が手柄を上げようとも大衆の意志は早々変わらん。しかも奴が率いる軍で我々が手柄を上げても結局は奴の手柄だ。力を注ぐのはコルク=ボトルの殺害! これ一択に力を注げ」


「了解しました、では、仰せのままに」


 一言短くオイルが応答すると、早足で兵舎の方向へ進んでいった。数分後、城から甲冑姿の兵士が数名、街を出発する姿があった。




「営業停止、とはねぇ……」


 コルクは頭を掻いて立ち尽くした。魔法技師は本来国の支援を受けて、その技術を提供している。しかし今コルクの目の前にあるこの魔法工房は、とても支援を受けて営業をしているようには見えない。窓は割れ、粗末な端材で作られた壁は落書きだらけで、本来の壁の色が見えない。屋根は穴が空いており、所々から煙が漏れている。裏路地から見たこの店は筆舌に尽くしがたい有様だったが、表に出てきてもこの惨たらしい状態だと、魔法技師を嫌うコルクも少々哀れに思った。この店が自分の訪ねようとしていたと認識できる唯一の手掛かりは、営業停止の張り紙の下に今にも倒れそうになっている、これまた落書きだらけの看板に、『スカイ=プレーン』の文字を見たからである。


「参ったな。まったく厄介だ。どれ、一旦お嬢さんと合流して宿に……」


「待ってよ! まだ私の商品が来てない!」


 コルクが辺りの喧騒の中一際大きな声の上がった方を向くと、ターバンを被った人物と輸出入管理局の男が少し奥に見える荷物受け取り窓口でやり取りをしている。金切り声をあげるターバンの人物が早口で捲し立てている。声と口調から女性とわかる。頭には薄汚れたターバン、ゴーグルのようなものが後ろ姿だが確認できる。身振り手振りがが大きいのか、ターバンから暗い紅色の髪が零れ落ち、彼女の体の動きに合わせて動く。コルクはゆっくりとその場に歩み寄る。


「お嬢さん、もともとあんた宛の荷物なんてなかったって。さ、帰んな」


「ちょっと待ちなさいよ! 聞いて、ちゃんと買ったの! 見てよこれ! 注文表の控え! ここにほら、ご覧なさい……『タギル鉄鉱石』3500個って! 私は正式に注文したの! いくら私が異端だからって文句は言わせないわ!」


「あー、君、悪いんだけどその商品は届かないかな」


「馬鹿な事言わないで!あんたが何を知って……」


 管理局の男に自分の言葉を飲み込む間も与えぬまま続ける女性にコルクはそっと肩に手を置く。弾かれたようにこちらを振り返った女性は荒れ狂った竜巻のように髪を振るいコルクの目を見据える。


「……あ、えと、本当に、コルク=ボトル?」


「えぇと、スカイ=プレーンさんかな。もしかしなくても」


「君、この娘の保護者かね? 困るんだよ、勝手に魔法武具を作って問題を起こしたりして」


「ええすみません、私からちゃんと言い聞かせておきます。ほらスカイ、お家に帰ろうね」


「子供扱いしないでっ!」


 その場をどうにか収め、コルクは駄々をこねるスカイを引き連れ工房へ引き返した。粗末な建物の中に入るとスカイは、「なにか飲む」とだけ尋ねた。事の終始を話した後だからだろうか、あこがれの人物に緊張しているからか、スカイはどこか妙に大人しくなっている。


「何かって、何も無いだろう」


「何で知って……あ、上がり込んだの?」


「家の裏を見てみろ。嫌でも見える」


「あ、そう。そうね……はぁ……」


 桶から二つのコップに水を注ぎ、軋むテーブルの上に並べる。辺りには魔法工房らしく鍛治の道具以外にも、薬品や魔導書、そしてコルクがつけているのと似たようなグローブが置いてある。視線をテーブルの先にいるスカイに戻すと、何か話したそうに目線をこちらに向けては逸らしを繰り返している。


「カジノから聞いたよ。君がこれを作ったんだってな」


 拉致があかないと思い、コルクから切り出す。コップから手を離し、スカイの目の前で指通しをぶつけ、音を鳴らしてみせる。見てくれは十代に見えるほど小さい身長、恐らくレタスより小さいだろう。サイズの合わない白衣に袖を通して、煤だらけのシャツとパンツを中に着込んでいる。


「……こんな子供がっ、て思いました?」


 先程までの大人しい口調は鳴りを潜め、今度は敬語で話し出す。そう言えば、彼女は俺のファンだったか。


「いや。そんなことは。とても馴染む、うん。ピッタリだ、どうもありがとう」


「へへー、褒められちゃった! あ、あとね! 指の関節部分をもう少し薄くすることも出来るんですよ! それから、コルクさんの魔法は血液消費のタイプだから、使う血液を圧縮することによって最小限で最大の威力を」


「いや、これで十分。話は終わりだ、失礼するよ」


「発揮でき、え? も、もう帰っちゃうんですか?もっともっと強く出来るのに、コルクさん、これからまた革命運動するんですよね?だったら……」


「いいかお若い技師さん。力のある者はどちらの側にもついてはいけない。いけなかったんだ。俺は今からその責任を取りに行く。君や他の魔法技師が待ち望んだ英雄はもういないんだ。今生きているのは力を持ったことに踊らされた若い自分を恨むこの俺だけだ」


 立ち上がったコルクを留めようと席を立ったスカイの肩を両手で抑え、椅子に座り直させる。コルクは力のある方ではなかったが、小さい女性のその体はすぐに押さえつけられてしまった。


「君の受け取るはずの荷物は全部賊に持ってかれた。わかるか? あのゴミをだぞ。何かが起きてる。君がでしゃばる場面じゃあない」


「こ、コルクさん……ですよね?革命派のリーダーの」


「いつの時代の話だ。今を見れない奴が辿り着くのが君みたいな暮らしを強いられるんじゃあないのか、違うか。プライドなんて捨てちまえ。恨むなら自分自身を恨むんだな。魔法技師に就いちまった君自身を」


 しばらくの間静まり返った工房は、穴の空いた壁から通り抜ける風の音だけが囁くように鳴った。


「でも、コルクさんはまた魔法使いとして動き出してる。それは、まだ魔法使いをどこかで認めてほしいって、世の中に存在させたいって言う思いがあるからじゃないんですか?」


「俺は世の流れを見守るだけにする。力を持つものをすべて廃したあと、また力に溺れるものが現れないよう。だが、さんざん殺しておいてぬけぬけと俺だけ生き残るわけにも行かんがね。俺は1度生かされた。もう沢山だ」


 唖然とするスカイを置いて工房の外に出る。またそそくさと逃げるように裏路地に回ろうとすると、人混みの奥から自分を呼ぶ声がする。おそらくレタスの声だろう。


「コルク! 宿が取れたぞ! ここを真っ直ぐ歩いて五件目だ!」


「そいつァ結構。先に戻っていてくれ。俺も後で追いつく」


 裏路地を建物の壁を一つ一つ触りながら数えるようにして進み、レタスが指した五件目の建物に辿り着く。裏口をノックすると、初老の宿の主人が現れる。


「何事かね?」


「いえ、こっちの道が近いって聞いたもんで、へへ。参ったな、酷い道だ」


「そりゃお客さん、どなたに聞いたか知りませんが直線距離より近いものは無いでしょう。裏路地は曲がり角が多くて大変だったでしょう。ささ、お上がりなさい。お泊まりでしょう?」


「連れがもう着いているはずです。レタスって言う」


「レタス……ええと」


 主人が宿泊名簿を確認している間、コルクは主人の姿越しに映る建物を気にしていた。


「あった、この方ですね。レタス=キャベツさん」


「ああそうです。ところで御主人、そこの建物は空き家なんですか?」


 コルクは大通りを挟んで向かいに立つ建物を指さして尋ねる。


「ん? ああそうですよ。それがどうされましたか?」


「いえ何も。部屋に案内して頂けますか?」


 案内された部屋に入ると、先にレタスが着いていた。ぼろぼろのマントを脱ぎ、ブーツを緩め、炎筒は下ろしていた。


「なぁ何故裏を歩く? 何かに追われているのか?」


「まぁそんなところだ。もしいざとなったら君の力を借りることになる。君の力はどんなものか、過去に君と同じ戦い方をした人物を見ているからよく分かる。協力してくれるか?」


「何やら大変そうだな……協力はいいが、誰に追われているんだ?」


「それは……」


 言いかけたところで、階下が騒がしいことに気付く。「奴らだ」


「貴様の言う、追手か? 相手を教えてくれ! でなければ戦うにも戦えん」


「……多分、『ハジキ』だ。間違いなく」

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