鳥籠と青空 上
3話目です!文の量は増えました!なお質は(ry
このお話では初めてのR15シーンと戦闘シーンが出てきます!グロテスクな描写は結構書き込めたと思います笑戦闘はもっさりしているかも知れません笑
描写が下手ってのもありますが、このモッサリ感はわざとやってる部分もあります苦笑なるべくリアル寄りの闘いにしたいと考えています!
それでは今話もよろしくお願いします!
霧の中、不確かな足取りで平原を進むこと5時間弱、コルクは疲れ切っていた。普段は自分が開いている診療所に居座ったままなため、久しぶりの運動は体に応えた。緩やかな丘に上がりその場に腰を下ろす。
「さぁて……どうしたものかね」
持参したコンパスと地図とを交互に見ながら歩いてきたものの、この深い霧でははたして自分が今どこにいるのかがはっきりとは分からない。ほとほと困り果てていると、遠くから軽く木を叩くような音がする。ランタンを取り出し辺りを見渡すと、突然目の前に、幌馬車が現れた。コルクが驚いてその場に転げると、御者が「どう、どう」と叫んで馬を足を止めた。
「いきなり何事かね」
「すみません、旦那。目の前に人がおりまして」
「人じゃと? この霧の中を身一つで……」
御者と馬車の中の人物がやり取りしている。馬車に乗る人物は老人らしく、ゆったりとした声で話す。
「これは失礼致しました。邪魔立てをしたい訳ではありません。どうかご勘弁を」
ゆったりと立ち上がったコルクが一言詫びると、馬車の中から人が二人降りてきた。ランタンの光にぼんやりと照らされた影は、どうやら先程御者と話していた人物らしき老人だった。後ろには長い筒を持った人物が付いている。霧の中、老人が頭を下げているのが辛うじて確認できた。
「いやはやこちらこそ不注意だった。申し訳ない」
「旦那さんは下がっててください。怪しいものか私が確かめます」
声を聞く限り女性であろう、老人の後ろの人物がこちらに近づく。身長はコルクの180センチより20センチ程小さく、華奢だった。後ろの筒はマスケット銃らしい。つまるところ、用心棒と見た。
「その方はどちらで?」
目の前の女性に向けて後ろに立つ老人について尋ねる。女性は無言でコルクの周りを一周し、「危険な人物ではないようです」と言葉を発した。女性が下がると老人が前に出た。温厚そうな顔立ちに白い髭を蓄えている。
「すまないな。こちらも厄介なものを運んでいて、賊に襲われてはたまらんのだ。私はベニヤという。旅商人じゃ」
「いえ、構いません。ああ、商人でしたか。ではこれからモロニカへ?」
「ああそうじゃ。お前さんもこれからモロニカへ向かうのかい?」
「ええ、まぁそのつもりです」
「何も身一つで向かう事もあるまい。これも何かの縁じゃ。ささ、乗るといい」
「旦那さん!」
「いえ、お気持ちは有難いのですが私は……」
「私も老いたがいろいろな人を見てきてその一人ひとりの事情も何となく掴めるのだ。お前さん、目立たずに行動したい訳があるんじゃろう?」
「……」黙り込むコルクにベニヤと名乗ったその商人はコルクに背を向け手招きをする。
「お上がりなさい。市場の近くまで来たらレタスに案内させよう」
「旦那さん!それでは旦那さんが……」
ベニヤは用心棒らしき女性を手で指し、微笑む。コルクは頭を掻きながら困惑したように左下に目を落とす。
「レタス、頼まれてくれるか?大丈夫じゃ。街の近くまでくれば賊も近づくまい」
「旦那さんがそう仰るなら……」
そう言い馬車に戻るレタスは「お給金はそれなりに……」と小声で呟いた。
「いや、ではお言葉に甘えて……かたじけありません」
コルクは半ば仕方無しに馬車に乗り込む。中には商人らしく沢山の布袋が積み込まれていた。馬車の中はしばらく沈黙に包まれた。このまま黙っていて怪しまれるのは馬鹿馬鹿しいので、コルクが切り出した。
「王様きってのお願いで、治療に行くんです」
「治療? すると君は医者かなにかか」
「はい。ですからこうやって外に出られるんですよ」
「それにしては荷物が少なすぎないかの?」
そう言われてみれば、コルクは余りにも軽装すぎた。肩掛けの革の鞄にランタンやオイル、マッチを突っ込み、フードローブのポケットには地図とコンパスを入れているだけで、医療の道具は全く持ってこなかった。
「あぁ、その、道具は現地調達なんです。医療品は衛生第一なので」
「ふむ……そういうもんかのう」
適当な理由を見繕って答えると、ベニヤは半ば納得しないような返事を返したが、どうにかその場をやり過ごす。話題を変えるために、コルクが続ける。
「そう言えば、えーと、ベニヤさん。確か賊に襲われるって……」
「そうなんじゃよ、お前さん、タギル鉱山の鉄鉱石は知っておるか?」
「ああ、魔法武具を作るのに使われた、あの鉄屑ですか」
「そうじゃ。最近このタギル鉄を狙った賊がここいらに頻繁に現れるようになったらしくての」
「それで用心棒を……」
ちらと馬車の出口に立ったままのレタスに目をやる。レタスはずっと外の様子を伺っている。「仕事熱心な方ですね」
「うむ」ベニヤは馬車の中に転がる布袋の中から鉄鉱石をひとつ取り出し、掲げてみる。
「お前さんの言う通り、これは今では何の価値もない、ただの鉄屑じゃ。魔法使いたちには愛用されておったが、なぜ今になってと不思議に思っておる。最近はその賊めらはこの鉱石が採れる廃炭鉱や、在庫のある倉庫を襲うようになっているらしい」
「ラジオ=スピーカー……」そう呟いたコルクには気付かなかったのか、ベニヤが外を伺い御者に合図を送る。どうやら霧が深くなってきたらしく、御者がランタンを追加で灯す。
「この御者は腕が良くての。この霧の中を正確に進むことが出来るのだ。ただ先程君を見つけられなかったのははどうも不注意だったらしいがのう」
「それは結構。それでは私はここで失礼します」
「なに、ここで降りるのか? ここからが難所だと……」
「いえ、もともと疲れて休んでいたところを貴方に助けられたのです。体力は戻りました」
「むぅ……そうか。ではレタス、頼んだぞ?」
「あぁそれと、ベニヤさん? この娘に給金を前払いでってことはできますか?」
「貴様、何を勝手なことを……」
「いいのだ。この人なりの考えがおありなのじゃろう。ところで君の名前を聞いておらんかったな」
「コルク=ボトルといいます。以後お見知りおきを」
「ボトル君、か……覚えておこう。では気をつけるのだぞ」
御者に合図を送ると、気の良い老人の乗ったその馬車は霧の中に潜っていった。
彼らのランタンの火が見えなくなると、コルクは馬車が通った道を少しそれるように歩き出した。一歩を踏み出す度に乾いた笑いが上がる。
「以後お見知りおき、ねぇ……気休めを言ったもんだよ、俺も」
「おい貴様、先程から何を勝手なことを……」
「お小遣いが貰えなくなって心配か、気の強いお嬢さん」
激昂するレタスに歩きながら振り向きもせず声を掛ける。レタスは乱暴な足取りでコルクに近づくと、肩を掴み振り向かせた。コルクの長身がぐらりとふらつき、その瞬間にレタスが胸倉を掴む。
「何が狙いだ! 前金だの途中で降りるだの……」
「お嬢さん」胸倉を掴むレタスの細い手首を金属の手で掴む。レタスが眉を上げて恐怖の表情を露にする。おそらく義手とでも思ったのだろう。
「俺は金を払えないが、君にそれ以上のものをくれてやったつもりだ」
「レタスだ! 何のことだ……まったく、せっかくの金蔓を」
「金は死んでは使えないだろう?」
「……! まさか、旦那さんを囮に」
コルクはレタスの手を引き剥がし、振り向くとすぐに歩き始める。レタスは疑り深く付いてくる。
「……護衛に付いていればもっと弾んだものを」
「はは。それはあんた、死ぬぜ。見たところあんたは多人数との戦闘に慣れていないようだ」
「貴様、『蛇のレタス』の異名を知らないようだな」
レタスが背中越しに銃を突きつけると、コルクは動じずに続ける。
「感情の起伏が激しいな、お嬢さん。その蛇のレタス様は獲物を前にすると周りの敵が見えないのか? 伏せろ」
レタスが何か言葉を発する前にコルクは地面に伏せる。「おい何を」と声を荒らげるレタスに、人差し指を立て「喋るな、早く伏せろ」と小声で諭す。
渋々レタスが伏せると、地面が揺れていることに気付く。地震ではない。太鼓のように地面を叩くような音がする。馬の蹄の音である。足音は霧の中を縦横無尽に動き回る。
「これは……」
「賊だよ。あんたがたの危惧してた」
音の群れから一つがこちらに近づいてくる。息を殺してなるべく低い姿勢を作る。蹄の音は二人の目の前でしばらく留まると、どこかへ去っていった。ほっと胸をなで下ろすのも束の間、レタスが遠くにランタンの光を見つける。
「あれ、旦那さんじゃ……」
コルクは光へ向かって駆け出すレタスに後ろから「よせ、行くな」と呼びかけるが、聞く耳を持たず奥へと消えていってしまう。溜息をつき、その背中を追いかける。
コルクが追いついた時、レタスはその場に座り込んで目の前の光景を呆然と眺めていた。平原の緑は血の赤で染まり、馬の臓物が川を描いていた。御者の姿は原型を留めず、肉の花に御者が着ていた服が添えてあった。
コルクが後ろでかける言葉を探そうとしていると、不意にレタスが立ち上がり、車輪は外れ、幌の引き裂かれた馬車に向かう。
レタスが幌の中を覗くと、空っぽの馬車の中にちょこんと、人形のように足を放り出して座る老商人の姿があった。もっともその人形には首が無く、首があったであろう場所から流れ出る赤が、床の木目を流れていた。
「あー、その、お嬢さん。なかなかショッキングなのは分かるが、もう行かないと」
コルクが馬車の外から声を掛けると、中から嘔吐する音が聞こえる。数分後に出てきたレタスの顔は青ざめやつれており、顔には少し吐瀉物が付いていた。
コルクが顔の汚れと体に付いた血をローブの裾で拭ってやっていると、不意に近くで声がする。野太い声と、敬語の男だ。敬語の男は恐らく片方の部下だろう。
「……俺たちゃ盗賊だぜ? やっぱり頭領の考えは俺たちにゃ合わねぇ」
「金目の物を盗んでこそ盗賊だってのに頭領と来たら鉄屑に惚れ込んでやがりますからね」
咄嗟に馬車の下に潜り込んだ2人だが、レタスが恐怖に震えている。吐息が荒く、遠くからでも聞こえそうな程大きな音を立てている。
盗賊共もそれに気づいたのか、辺りをせわしなく動き回る。
「おい、生き残りか? 出てきやがれ!」
「おかしいですね、じじいと御者の二人だけかと思ったんですが」
レタスの歯がカチカチと鳴る。呼吸が小刻みになり、目が血走る。
「殺らなきゃ殺られる……殺らなきゃ……」
「あー、レタスさん? 落ち着いて。ここは一つ俺に任せていただきたい」
「医者のあんたが何を……」
レタスが言い終わるやいなや、コルクは馬車の下から這いずり出て、両手を挙げる。途端に二人の盗賊がこちらを振り向く。野太い方の声が巨躯な男で、敬語を使うのが細身な男だ。コルクは二人の前にゆっくり歩み寄る。
「あー、えと、すみません。手を出さないでください……投降します」
「やっと出てきやがったか。神様にお祈りは済ませたか?」
巨躯な男の方がそう言うなりコルクの顔面に拳を入れた。鈍い音を立て拳が当たり、コルクはその場に倒される。片手で殴られた右の頬を押さえる。
「ぐはっ……話の通じない奴らだ」
「オラ、たて! ちったぁ鬱憤の捌け口になって貰おうか?」
巨躯な男がぐいとコルクの手を掴み立たせようとすると、コルクはにやりと笑う。その表情を見た巨躯な男は大声で笑い出す。
「見ろよ! コイツ恐怖で笑い出しやがった。俺はこう言うのが見たかったのよ……恐怖でションベン漏らしたり、泣き叫んだり、コイツみたいに笑い出したりよ……」
「すまないな、手を貸してもらわなければ立てないところだった……」
「減らず口を!」男がコルクを掴んでいない右手を振り上げ、もう一撃をと言うところで、複数の枝を踏み折ったような音が上がる。その途端、巨躯な男は膝から崩れ落ちる。男は左手を抑えて苦しんでいる。
「ぎゃぁぁぁ! て、てめぇ、何しやがったんだ!」
「あんたの左手、骨を粉砕した。どれ、立てるかい? 手を貸そう……」
「や、やめ、やめろぉぉっ!」
恐怖と困惑に顔を歪ませる男を他所に、今度は右手に自分の手を差し出す。鉄の指が分厚い肉の手に触れると、それは軽い音と同時にだらりと肩からぶら下がる。
「あがっ! あがぁぁっ!痛いっ! 腕が!」
敬語の男は既に逃げ出していた。馬車の下からレタスはその光景を訳も分からずただ眺めている。コルクは構わず目の前の男に質問する。
「あんたら……頭領、とか言っていたな? あんたらの頭領は誰か教えてやれば助けてやれないこともない」
「し、知らねぇよぉっ!教えたら殺されちまう……」
「ここで吐かなくても変わらんだろう。むしろ今吐けば生き残る可能性がふえるわけだ」
コルクが男の折れた右手を軽くノックすると苦しげな声が上がる。
「あがぁっ! わ、わかった、わかったよ、ラジオ! ラジオ=スピーカーだよ!」
「やはりな……こんな真似をするのは奴だろう」1人で呟くコルクの前で、男はのたうち回り喚く。
「は、早く助けてくれえっ! 腕がぁっ腕がぁぁ……」
「なるほどラジオ=スピーカー……残虐な男だ。ふむ、ここで俺が助けても、どのみちお前は殺されてしまうだろうな」
「え?」コルクは目に涙を滲ませる男の胸に手を当てる。すると風船が割れる時のような音が響き、男はその場で宙を仰いで倒れた。男は口から軽く血を吐いて、そのまま死んだ。コルクの魔法が男の心臓を破裂させた。コルクは久しぶりの攻撃的な魔法で疲れたのか、額に汗を浮かべている。
「貴様……医者ではないな。何者だ」
いつの間にか馬車の下から出ていたレタスが銃を構えて警戒する。顔は恐怖で引きつり、顔の筋肉が緊張で強ばっている。コルクは男に目を落としたまま呟く。
「それをあんたに話すと俺ァ、あんたを殺さなきゃならなくなる」
「……」
城に魔法使いを突き出すと莫大な報酬が貰える。それをお互いは知っていた。辺りが静まり返った感覚に陥る。
暫くしてレタスは銃を下ろす。そのまま後ろを向き早足で歩き出す。
「突き出さないのか? 少なくとも旦那様に貰える報酬より高い値段がつくぜ」
「うるさい……命より高い報酬など無いんだろう」
コルクはにやりと片方の口角を釣り上げ、レタスのあとをついていく。前を行くレタスが隣に追いついたコルクに小声で聞く。
「なぜ私を助けた……敵を撒くなら少数の方がいいだろう」
「……もし俺の通るルートで万が一奴らが現れたら、君に囮になってもらおうかと」
「まったく、とんでもない奴だな、貴様は」
「いや? 命を助けてお礼をしてもらおうと思っただけさ。ギブアンドテイク」
「……お礼、か。では、この命は渡せないが何か助けになれることがあったら言ってくれ」
「んん? そうさなぁ……」
コルクは少し悩んだように頭を掻くと、ローブのポケットに偶然入っていた紙切れにメモをして、レタスに渡した。2人が歩きながら話していると、目の前にはモロニカの監視塔から放たれる大きな松明の炎が霧の中から浮かび上がって来る。
「ここに書いてある店を回って、これらを買ってきて欲しい」
「なんだ、そんな事でいいのか?」
「ああ。俺はその間にもう1個の厄介事を済ませてくる」