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エロイカメンテ  作者: フリー・マリガン
2/22

旅立ち

フリー・マリガンです!

連続して2話目です……汗

初心者なものでこのサイトの使い方に慣れておらず、よく分からないまま書いているのですが、読んでいただけたら幸いです!

勢いで書いていて、足りない分などは随時補充したり、場合によっては大きな加筆修正が入るかもしれませんがご了承ください!泣

ソアラの街に朝が訪れる。霧が広がる空の下、街の大通りを中心に衛兵たちが動き始める。ここ一帯は霧が濃く、それ故に街に不法侵入する輩が多い。夜と霧の出る朝は、衛兵たちが血眼で監視を続ける。


店の扉に鍵を占め、「しばらく休診」の札を下げる。幻視や消身の魔法は、体に大きな負担がかかるためなるべく使いたくない。コルクは、白いフードを羽織り、霧に吸い込まれるようにして衛兵の目を欺いた。


この街は城下町である。どこをどう突き進んでも、最後には城壁にぶつかる。門は南側の正門が一つと、北に鎮座する城側に一つあるらしい。城側の門は王族が利用する物で、コルクら街の住民は見たことがない。コルクは正門に差し掛かると、入出国手続きの担当と話し合う。この街から出れるのは限られた職業だけで、旅商人、兵隊など他国との関わりに必要な職種、それからコルクのような医師である。


コルクは1枚の紙切れを見せると、手続き担当の男は畏まり、門を開けさせた。これは昨夜、ケトルと名乗る城からの使者がくれた特命状である。コルクは昨晩の使者の話を思い出していた。




「コルク殿には、この任務を内密に行って欲しいのだ。王の直々の命でな。故に城の兵士や大臣、広報官には伝わっていない」


「国の威厳に関わるからかい? ますます暗殺業務のようだな」


コルクは全く表情を変えずに話す目の前の女性と、高そうな羊皮紙に書かれた資料とを交互に見ていた。使者のケトルが続ける。


「実際、そのような仕事も担って貰うことになる」


「ひとついいかなお嬢さん。俺が、その……」


「ケトルだ。貴殿が魔法使いという事か?その点についてはご心配無く。貴殿が既にこちらの軍門に下っていたということも承知の上だ」


「都合のいい……」


小声で呟いたコルクに「何か」と怪訝な口調でケトルが尋ねる。


「いいや何も。それで、俺のする事をざっくりと教えてくれ」


「聞いたならば断る事は許されなくなるが、それでも?」


「おいおい、断る事が許されない、の間違いじゃあないかい?」


コルクはケトルの腰に下げたサーベルに目を落として皮肉っぽく話す。コルクは別段勝てないわけではなかったが、相手の要求を飲み込むような態度を見せた。気のせいか、ケトルの口角が上がったように見える。


「……まず、我が国は今、革命軍を名乗るグループに脅かされている。それは貴殿も存じているだろう」


「ああ。あんたらの目の上のたんこぶだからな。で、なんだ。そいつらを殺せっていうのか?」


「話が早くて助かる。全て、とは言わない。各所に散らばる派閥のリーダーを殺害し、統率を崩していただきたい。残党狩りはこちらで受け持つ」


「場所は?」


そう訪ねたコルクに地図を差し出す。一通り目を通してその地図を返す。ケトルが不意に面食らったようにコルクを見る。


「なるほど、もう結構だ。ありがとう」


「今後のことも兼ねて必要では?」


「いや、ハハ。1枚で十分だ。二枚持っていたってしょうがない」


訝しげなケトルにコルクは「いや、こっちの話」と言葉を濁す。ケトルが一息おいて続ける。


「革命軍の偵察は今や数百件をゆうに超えている。今の内に叩いてしまわねば、王国の繁栄に支障が出る。理解していただけたか」


「分かったよ。そのパレードはいつ行われるんだい?アンタ言ってたよな、来た時すぐに」


「1ヶ月ほど後に、第2回の『摘み取り』が行われる。王子が軍を率いられる。今回はルーブメル村だ。それが無事に終了した後に執り行う予定だ」


「……何だって?」


「この『摘み取り』が成功するかどうかは貴殿の活躍にも掛かってくる。王は貴殿に期待している」


言葉が出なかった。もう終わりだと思っていた出来事が、七年たった今、ぶり返してきた。それもかつての友の手によってそれがえぐり出される。コルクがその場で唖然としていると「コルク殿」と自分の名を呼ぶ声が聞こえる。


「え、ああ、わかった……」


「『摘み取り』の前に任務を無事遂行したならば、王子が直々に貴殿に会って下さるそうだ。励めよ」


心臓が大きく高鳴った。かつての友に会える。そして敵に。奴に。


「そいつぁ……光栄だなァ……」




「カジノ……俺ァどうも、お使い出来そうにねぇなぁ……」


城を出て堀に掛かる吊り上げ橋を渡る。ソアラの城下町は広く、自宅を出て1時間はかかっただろう。しかし、依然霧は四方に広がり、コルクの視界を奪う。ビンズから受け取った地図を顔の近くに持っていき、自分の行先を調べる。


「まずは食い物と……これか」


そう言って右手の人差し指と親指を2回ぶつけた。『グローブ』の金属同士がぶつかる音がする。そのコルクの久しい装備は両手にしっかりと取り付けられ、自力では外せない。手の甲には彼にしか分からない文字と文様が彫ってある。コルクはフードの内ポケットから葉書を取り出し、地図の上に乗せる。その住所と送り主を確認し、空を仰ぐ。


「魔法技師、スカイ=プレーン……面倒なことをしてくれたもんだ」




「何件ぐらい回るんだ?」


「そうだなぁ、ピンズとお偉いさんの依頼を合わせると……確認できる限りで、6件ってところかな」


『グローブ』の溶接を済ませ、ボルトを1本ずつ締める作業に入ったカジノは、まだ熱の残る金属の手に息を吹きかけるコルクに尋ねる。


「6件! お前、それじゃあ戻れんだろ俺の元に」


「まぁコレが無くとも魔法は使えるから心配するなよ。時々戻る」


「天下の大魔法使い様が自分の魔法で死んだなんて笑い種だね。お前はコントロールが出来ねぇからそれがいるんだろう」


「ハハ。本当にやばくなったら尻尾巻いて逃げるさ」


「む……尻尾は巻いてやれねぇが牙なら研いでやれない事もない」


「なに、どうやって?」そう尋ねるコルクにカジノが1枚の葉書を見せつける。達筆ではあるが力強い筆使いで、文面から若さを感じた。


「スカイ=プレーン。お前のファンだとよ。魔法技師をしていて、俺なんかより魔法武具の扱いに長けている。俺も何度か会ったことがあるし、金属加工のいろはを教えた」


「魔法技師、ねぇ……国にヘコヘコするだけの商売人が俺の牙をどうするって? 二束三文で売り払うのかい?」


「まぁまぁ、まず聞け。お前のこの『グローブ』。ちょっと変わったことに気付かないか?」


そう言われたコルクは掌は固定されたまま、指だけを軽く動かしてみる。


「動きが軽い。そして以前より関節が動く。金属を薄くしたのか?」


「そう。金属をギリギリまで薄く柔らかくして、なおかつ金属の強度を残した。そいつはスカイの考えたスタイルだよ」


「ふぅん……だがなぁお前だって知ってるだろ?俺が魔法技師を……」


「コルク、お前は折れた牙で相手に噛み付くつもりか?」


「貧弱な砥石は素手でも砕ける」


「お前のその貧相な腕では無理だがな」


「ふん。ものの例えだ。それで何か? おれはコイツに会ってサインでも書いてやればいいのか?」


「ついでに魔法で曲芸でも見せてやれば喜ぶかもな。ま、気が向いたら訪ねな」


「これが魔法技師の作品だって知ってたなら買いには来なかったさ」


少々憤慨気味のコルクを差し置いて、カジノは最後のボルトを締め終えると、乱暴に拘束具を外し、工房へと戻っていく。


「俺には魔法ってぇのがよく分からんし、その種のエキスパートの方がいいんじゃないかと思ってよ……まぁ、人としての道理を通すなら礼の一つでもするのがスジってもんじゃねえのか?」


「余計なお世話だ……ったく」


「カカ。気に入らねぇなら金は後払いでいいよ。全てが終わったあとにでも」




「ここから南東に真っ直ぐ。平原を進んで……ええと、ここか」


地図をなぞり独り言を発しながら、目的地を見つけて左手の人差し指で2回叩く。


「まぁまぁ近いか。魔法無しで行けるのは有難い。市場の街、モロニカねぇ」


煙草を咥え、フードを被る。頼りない足が、前の空間に放り出された後、霧に消えた。


「さぁて、俺のファンに会ってやるか。クク」


煙草の火が、徐々に遠くなり、そして見えなくなった。

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