超えて行け 上
投稿遅れましたぁ!フリーです!すみません泣
もうね、ここ最近の投稿はわけわかんない話ですね!面白くもないし、書いてても辛い泣
でも、なるべくエタらせたくないので頑張ります!
今回は少し話が動くかなって具合です。スカイの修行編(?)、コルクの大冒険、なかよしへいしの偵察任務の構成です。
ぜひお楽しみください!
数時間監視を続けていたが、依然としてビン遺跡では大きな動きは見られない。タルタルの焦りが落ち着かなく動く指を見ているとわかる。
「落ち着けタルタル。コルク=ボトルは必ずここに来る。いつになるかは定かではないが、ここで張り込みを続けていれば必ず接触する機会ができるはずだ。それに、万が一それが叶わなかったとしても、このジャムゥ・ギルドの動向が確認できるんだ。それでも充分な成果と言えるだろう」
「はぁ……ですがそのジャムゥですら、何も行動を起こしやしないじゃ無いですか」
「ふむ……」
確かにタルタルの言う通り、作戦会議のように見えるが、一向に兵士達が遺跡の外へ動き出すということは無い。2人は『ハジキ』の装備である黒い装束を脱ぎ、居住者になりすますようにぼろのコートを羽織り、遺跡の中へと入っていった。
「タルタル、これはあくまで偵察だ。本軍への連絡を完了させるまでなるべくの戦闘はさけろ。僕は地下の入口がないか調べてくる」
「隊長自らですか? そんな、危険です。私がかわりに」
「いや、タルタル。お前についてきてもらったのは、お前の巧みな話術を活かして、聞き込みをしてもらいたかったからだ。そこらにいる居住者にジャムゥ・ギルドについて聞いてくれ。それから、くれぐれも兵士には聞かないように。ある程度終わったなら、そうだな、あの建物が見えるだろう」
白い石造りの遺跡は建物に特徴が少ない。その中でビネガーは遺跡の中でも特に保存状態の良い、二階建ての建物を指さした。どうやら、中では喫茶店を営業しているらしい。
「僕も偵察を終えたらあそこへ向かう。そこで得た情報をまとめよう」
「わ、わかりました!」
「うん。よし、行け」
ビネガーが方を叩くのを合図にタルタルは、さっとまばらに散らばる居住者の中に溶け込んだ。その姿を見届けたビネガーは一つ息を吐き出すと、遺跡の周りを大きく円を書くように歩きはじめた。身は低くかがめたまま、遺跡の特徴をつかもうというわけである。タルタルの心配を他所に、ビネガーは慣れた動作で偵察を始めた。
「それじゃあ『ばあちゃん』、スカイを頼むよ」
「私も行くってば」
朝食を済ませたあと、コルクは身支度を整えて酒場を出ようとしていた。スカイもそれに習って準備をしていたところ、コルクに止められる。危険な物は数多く現れるだろうが、それならばコルク一人で対処できる。しかし、人ひとりを守るとなるとそれは容易でない。ましてや、か弱い少女なら尚更だ。それに、これから現れる狂気の世界が若い彼女に耐えられるはずがないだろうというコルクなりの気遣いだった。
「私、戦えるよ! 自分の身くらい守れるし、ねぇ、見せたでしょう? 防御の魔法」
「それが使えるなら、ばあちゃんを守って欲しいんだ。それに、ばあちゃんは強力な魔法使いでもあった。だから、少しでもその魔法を強くするために、鍛えてもらうといい。ばあちゃん、頼めるかな?」
「もちろんさね。私もこの娘の魔法には興味がある。ぜひ引き受けさせてもらうよ」
スカイは不満そうに頬を膨らませていたが、子供っぼいと思ったのか、はたまた諦めたのかコルクがフードを被ったあたりから大人しくなった。ペッパーがスカイを自室まで案内したあと、扉の前に立つコルクの元へ戻ってきた。
「気をつけるんだよ……といってもあんたが負けるようなことは万に一つもないだろうがね」
「おだてるなよ。俺だって死ぬときゃ死ぬし、勝てない相手もいる。だから、もし帰ってこないようなことがあっても、探したり、弔ったりしないでくれ。すこしでも魔法使いと接点を持つと罰せられる世の中だ」
「ふん。言われなくともそうするよ。だがね、私だって魔法使いの端くれさ。アンタとつるもうがつるむまいが結局罰せられちまうような身なのさ。だからね、あんたと同じくような血が流れる人間が、あんたの帰りを待ってる。それだけは覚えておいておくれ」
小さい微笑みがドアの外に消えると、ペッパーは曲がった背中を伸ばして、自室へと向かった。背中越しに、ドアが閉まる音がする。
部屋に入ると、ベッドに座っているスカイがペッパーの顔を見あげ、拗ねたようにそっぽを向いた。
「お前さんは弱い魔法使いじゃあないよ。ただ、今のあんたは戦いには向かないだけさ。これから鍛えればあんたは確実に強くなる。ボトルはあんたの成長を考えて置いていったのさ。それに、この先々の光景を考えると、昨日までのあんたを見てきたあの男の判断は正しかったかもね」
「私は、戦いを覚悟してあの街を出たの。だからもし私がどうなってもそれは私の……」
「あんたは死にたがりなのかい? あんたのような力のある者がそう簡単に死んでしまっては、奴らをもっとのさばらせることになる。そのためにも、あんたは強くならなければいけない。もっとも、そのほうが戦いへの覚悟も強くなるってものさ」
スカイは口を塞ぎ、ペッパーと顔を合わせずに座っていたが、やがて立ち上がり、ペッパーの顔を見据えた。身長は腰の曲った老婆と同じくらいで、丁度目線が揃う。老婆の視線は若さすら感じさせるほど、生気にみなぎっていた。
「あんたがボトルのために戦うって言うなら、より強力な技を覚えるべきだ。ちゃちな魔法の一つや二つ、使えたところであの男の戦いでは足手まといの他ない」
「フラーさんはどうだったの?」
ペッパーははっとして目を見開いた。いつの間にか、自分はあの娘の姿を目の前の少女に照らし合わせていた。そして、それと同等の可能性を秘めていると、そう思ってしまっている。
「すまないね、私は何か考え違いを」
「フラットさんも、コルクのために戦ったの? そして、それは決して足手まといでは無かったの?」
フラーは押し黙ってしまったが、執拗にこちらを捉える眼差しに根負けして、口を開いた。
「あの娘はね、ボトルのような技の多さは無かったけどね。非常に強力な少数の技を持っていたから、あの男の大きな助けになったのさ。もちろん、半端な強さじゃあないよ。私はあんたの姿から、どこかあの娘の面影を見てしまっていた。だから、ちょっぴりと希望を感じたのさ。あんたが、あの美しい魔法使いの生まれ変わりじゃないかってね」
スカイはその話を聞き終わるや否や、さらに詰め寄って老婆の方を掴んだ。
「私に、魔法の使い方を教えてください。生半可な物じゃなくて、手応えのあるやつ。今までは技師に必要な魔法だけだった。でも、今の私はそれだけじゃ足りない」
そう言うと、肩から手を離し、深々と頭を下げた。ペッパーには少女の気持ちを汲み取ることが難しかった。何故そこまであの男に尽くすのか。しかし、その健気な姿から、在りし日のフラットの姿を強く感じ取り、会心の笑みを浮かべ、スカイの顔をしゃがんで覗き込んだ。
「任せなさい! 私は老いぼれだが、知識は衰えちゃいないよ。私はあんたに全てを授ける。あんたもその全てを受け取りな」
「ありがとう! 『おばあちゃん』!」
おばあちゃん、ね。あの娘にどんどん近づいている様だよ、まったく。
ペッパーはクローゼットの奥の小さな取っ手を引く。すると、人が一人屈んで入れるくらいの通路が現れた。
「おいで。久しぶりに使うから埃っぽいかもしれないが、魔法の練習にはうってつけさ」
ひょいと入口を跨いだ老婆のあとを、自信満々にスカイが追った。二人の姿がクローゼットの奥へ消えた。
「さて、と」
ペッパーの酒場はプラヴィンの正門から少し進んだ所で、左にある路地を通ってすぐのところにある。コルクは昨日通った路地を戻り、正門から伸びる大通りへと出る。大通りと言っても、ソアラのような気品のある石畳と比べると、ところどころ窪んでおり、そこに人血が流れ込んでいる。大通りの横に建ち並ぶ建物は、モロニカのような活気のあるものではなく、過去の革命家たちが昔の格好のまま、貼り付けにされている。その顔には肉は無く、既に白い骸と化している。それらの首にはもれなく木札が掛けてあり、そこには、『死を以て王の元へ下る』だの、『王の力の前に屈す』など好きかって書かれている。死体を下ろすと処罰が下るというが、辺りを見る限り見張りの兵士など一人もいない。
「正面を向き、二股の道を見る。えぇと、左に向かって歩き……」
コルクはぶつくさと呪文のように、ピンズから渡された資料に目をやりながら唱える。コルクも過去にはコルトラの宿に入ったことがあるが、どうも入口を変更したらしい。しかし、見た所政府軍に攻められた様子は内容なのだが、用心しての事だろう。びちゃびちゃと、見慣れた赤い水たまりを踏みながら左の道を進む。
「手前から四つ目の建物……の左側面にある扉?」
通路に入って、4番目の建物の前で立ち止まる。見上げると、『宿屋コルトラ』の看板がある。コルクは、その左側に小道があるのを確認する。コルクが体を壁に貼り付けるようにして進むと、そこに黒い扉があった。扉を引くほどの余裕が無かったため、押してみると案の定開いた。中に入ると一直線の階段になっている。なるほど、どうやら『表の』宿にある階段の中に作ってあるらしい。コルクは一人感心しながら階下へと下っていった。階段を降り切ると、息の詰まるような重苦しい鉄の扉が目の前に現れる。ドアノブには金庫の暗号キーのようなものが付いている。コルクは、事前に貰った資料にある番号を入力し、ドアノブに手をかける。無数の鍵が解除される音とともに、扉がゆっくりと開く。
ドアの向こうは、今までの石レンガの様相とは様変わりして、巨大なパイプが無数に鞭打ち、細いパイプが蛇のように天井を這っている通路になっていた。通路の横には恐らく下水道だろう、濁った水が流れている。当たり前のように、その水には赤が混じっていた。
「悪趣味だな。まぁ、このあたりは以前と変わらず、か」
コルクはひとりごちる。その後、ゆっくりと長い通路を進み出した。しばらく道なりに進むと、マンホールが一つぽつんと設置してある場所につく。
「確か、資料によるとこのマンホールが目印になっているはず」
コルクは何気無しにマンホールの上に乗ると、通路全体が気のせいか震える。同時に、中央を流れていた下水の水位が下がってきていることに気づく。
「ははあ、なるほど。ここに入れってことか。なかなか手の込んでいる事を」
コルクがみるみる減っていく水を見ていると、上に1本だけ太く通ったパイプが音を立てて揺れていることに気づく。そちらに目をやると、パイプの端からずるずると何かが出てきた。それが大量の下水を吸って膨らんだ人間だと気づいた時、コルクは顔を顰めた。こみ上げる胃液をぶちまけたかったが、生憎下水が引いてしまったため、それは叶わない。
「まったく、本当にスカイを連れてこなくて正解だったな」
ふやけた肉塊と化した政府の兵士や革命軍の人々を横目に、下水道の底に現れた階段を下っていく。ここからは、完全に革命軍のアジトになるはず。そう思っていたのだが。
「……なんだって、こんなにひどい匂いなんだろう」
階段を降り、道なりに歩を進めれば進めるほど、異臭がきつくなる。それも、先程までの死体の腐乱臭では無く、形容しがたい独特な匂いを放っている。下水の下にあるから、と言ってしまえばそれまでだが、それだけでは言いきれない酷さがそこにはあった。鼻を覆いながら狭い通路を進むと、木の扉があることに気づく。他に部屋もないようなので、コルクはその扉をノックする。
「俺だ、コルクだ。ピンズ、来たぞ」
返事の代わりに、扉が打ち壊される。コルクはその場にどうと倒れ、扉を破壊したものの正体を確認しようとする。それは、見慣れた姿だった。
「おい、ピンズ?」