俺とレジスタンス
実際書くと、変更点が多くなって困る。まあ、がばがば設定のあらすじが悪いんですけどね(涙)
朝6時、起床ラッパが鳴るが、それで起きる連中はほとんどいないのが実情だ。
というより皆無といっていいだろう。
俺はあくびをしつつ身支度を整える。正規の軍人は規則正しくあっという間に準備を整え、訓練場に集合しているだろう、まあ、一応正規の軍人ではあるのだが、規律は最低限しか守られていない北利軍の残党ならばしょうがあるまい。
国を守れと、規律を守れとうたった上官たちで、守ったやつらはここにはいない。
規則、命令、忠義、なんだら、しがらみ守った連中は敗走する中、本土の命令通りにその場で踏みとどまって華々しく散ったんだろうから。
最低限のルールはある。上の命令にできる限りは従うこと。招集ラッパは絶対に護る事、後は、軍人として最低限の矜持を持つこと。たったそれだけだ。
とりあえず部隊は今日の夕刻8時まで暇になっているので、頼まれごとついでに街で買い物をしようと。くたびれた軍服を着る。3か月に一度、新しいのが支給されているらしいが、どうもぴっちりした軍服は、着ていて気持ち悪いのだ。親友は新しい軍服の方が良いと言っているが、まあ、このみのもんだいだろう。
財布と拳銃とナイフと通信機。それといくつかのメモリーカードと携帯食料を軍服に収納して、部屋を出る。コンクリートむき出しで、窓一つないが、照明の明るさで何ら問題のない廊下を歩き、エレベータを操作して町とをつなぐ地下通路に出る。
車の車庫の前には歩哨の詰め所。常時3名の人員が不審者が車両を盗らないように警備している。
「あなたは・・・・あ、大尉殿、街で用事ですか?・・・・こんな早くに」
訝しげな警備兵。まあ、朝7時ぐらいじゃ確かに早い。
「まあ、ひさびさに外をうろつきたくてね。地下は気がめいるし、たまには日を浴びたい」
「了解しました・・・・免許があるようなので、バイクでよろしいでしょうか?」
階級章と部隊番号、それと胸のネームプレートですぐに俺の資料を引き出したのだろう。
「・・・いや、いつも使ってるトラックがあったと思うがそれを頼む」
バイクもよく使うが、その次ぐらいに町に行くときは軍用の中型トラックを使う。
「はあ?・・・・・・・ですが散歩なのでは?」
トラックをわざわざ使うのがおかしいといった顔。
「ああ、君は新人か、なに、ついでに仲間に頼まれた物を買ってこないといけないんでね。めんどいが、トラックがあった方が良いのよ」
「はぁ・・・・わかりました。ですがトラックは今現在つかえるものが・・・・あれ?・・・・・こんな番号あったか?」
不思議そうにパソコンを除く兵士に、俺は苦笑しつつ。
「ああ、整備の班長がこっそり私物化してるやつでね、普通の番号で登録して無いんだ。番号そのままうちこめば出せるから・・・・・・ああ、そんな顔すんなよ。整備班長が廃棄車からパーツもぎ取って作った奴なんだから軍で登録してるわけねぇし、登録するもんをわざわざあのおっちゃんが作るわけねぇだろ」
「・・・・・・・きかなかった事にしときます」
面倒事を嫌ったのか少しいやそうに操作をする。そもそも何度もトラックを出した履歴があるのだから、ここでもめても、上は認めていると判断したのだろう。倉庫の横にある。小さな備品置き場にしか見えない小屋の、何故か不釣り合いなほどでかいシャッターが開き。中型のトラックが無人操縦で目の前まで動いてくる。
「まあ、そんなに気にすんな新人。結構あくが強い連中しかおらんから、いちいち考えてると疲れるぞ」
トラックに乗ってアクセルを踏む。ずっしり、ゆっくりと車体が動き出す。
そう、まるでそのトラックにずっしりと何かが積まれてるかのように、ゆっくりと加速していった。
北利の最南端に位置する港一帯をさす南陽都市。化物が出るまでは北利と本土を行き来する輸送船がひっきりなしに訪れた港街も、今では面影がないほどさびれている。
ビルやデパードは営業しているが、商品は少ないし、商店街で食べ物屋だって営業しているが客のいりは少ない。歓楽街だって夜は多少非番の兵士たちでにぎわうぐらいで朝8時近くになると人影などいない。
北利の港をすぐ出れば、水上を走る蛇の化け物に沈められる。北利と本土を結ぶのは唯一化物が出ないといわれる水中を走る潜水艦ぐらいである。
それでも潜水艦による北利の民の本土への輸送が行われているが、所詮は大型に作るに限界のある潜水艦の輸送量では到底間に合うとは思えないし、そいつらが運んでくる補給物資だって弾薬や食料重視にならざる得ない。
一応、住民を助ける為に輸送潜水艦のチケットが配られているが、チケットを求めて人を襲う(住民票とチケット番号がリンクしているので無駄なんだが)事件も起こっている。
因みに軍人にその席は無い。いや、住民の避難が終わったら、随時撤退とは言われているが、そんな時間がどこにあるんだといった所だし、無理やり逃げたとしても、敵前逃亡で結局は死ぬか、それに準じた扱いとなる。
ちなみにお偉いさんは早々に撤退した後で、そういった住民の避難やら防衛やらを、必死に残った連中に押し付けて、知らん顔している。
まあ、それも人間だろう。
軍の配給で店は何とかやっているし、中には占領された敵地から食料などを運び出すような連中が闇市を開いたりと、たくましく生きている住民も多い。
それも人間だろう。
自分は町をトラックで走りながら、もはや機能していないだろう小さめの自動車の整備工場のようなところにトラックを運び入れる。
車庫のシャッターが開き、暗闇にトラックを入れ、降りる。
周囲にはすでに数人のむさ苦しい迷彩服の男たちが俺を取り囲むように立っている。
「大佐からの贈り物だ。運んでくれ、それから、リーダーと話がしたい」
車のキーと拳銃を近くの男に押し付けると。別の男が小さく礼をして、うながすように歩き出す。ついていくと、元々は事務所であったろう。今では男たちの寝床のようなものにされてしまった新車の展示室の奥、古ぼけたプレートには社長室と書かれている部屋に入る。
「おお、君か、ようこそ。北戌のアジトへ、まあ、座ってくれ」
そう言って真面目そうな顔の作業着を着た地味な男が友好的な笑みを浮かべ手をさしのばしてくる。再開の握手の為に伸ばした手も、まるで自然体で気負った感じもしない。
だが、その細く鋭い目は全く笑っていない。どこか冷徹な、狐のような風貌を持つ男である。
「戌のリーダー。久しぶりだな」
俺も恐らく目は笑っていないだろうが笑みを浮かべて手を握る。
「弾薬と医薬品、感謝する。こればっかりは、廃棄された基地やこういった伝手がないと手に入らないのでね」
「なに、あんたらみたいなレジスタンスが無かったら、とっくに北利は落ちてるだろう?あんたらが敵を引き付けて入れるだけ、民を逃がし、時が稼げる。大佐も、それは重々承知だし感謝してるよ。もっとも・・・」
民を戦う為のレジスタンスとして容認している時点で、民まもる軍人としてはどうしようもなく間違っているがね。とはさすがに言わないでおく。まあ、言わなくても戌のリーダーには伝わるだろうし。大佐も重々承知で落ち込んでることだろう。
「はは、私たちを棄てて逃げた軍人に今さら期待などしていないよ。期待はしないが、戦う物は持ってるんだ。代わりに使ったって、かまわないだろ?」
戌のリーダーはそう言ってこちらをまっすぐに見る。
「それで?見返りに何が欲しい?」
「敵地の情報なら何でも、あんたなら重要なものはわかるだろう?それを全部だ」
「ま、いつも通りだな。オーケイ、メモリー貸せ、もうまとめてある」
メモリーカードを渡す。十数秒もしないうちにデータを映して戻ってくる。
「はい、化物の数と集まってる場所。それから、無事なアジトと新しく発見した集落の位置。あと、落ちた街と殺された死体らしきもの写真。新しいのを一通り全部ってとこか」
受け取って背を向ける。もうここに用もない。
「ああ、大尉さん」
そう言って戌のリーダーは俺の背に言葉を投げる。
「せめて今度は守ってあげてくれよ。この町を・・・民を・・・私たちのようにはしないでやってくれ、妻も子供も失って、戦う事しかできないような馬鹿みたいには・・・・・・しないでやってくれ」
立ち止まる。答えたかったが、俺には答えることはできない。再び歩き出す。
「・・・・・・」
俺は危なくなったら民を捨てて逃げるだろう。生き残る為に、仲間を逃がすために戦う事はあっても、知りもしない民を守る気は、軍人としては失格だろうが正直ない。
親友は守ろうとするだろう。いつものように、自分を頼った民を逃がすために、その身一つでも立ち塞がるのだろう。それが人間として、軍人として当然だというように。
それを見捨てることができないのだから、どうせ俺も戦う事になる。自分が関わった民のほとんどを連れてここまで逃げてきた今までのように、俺の悪態を歯牙にもかけずに、あいつは突っ走るだろう。部下を死なせ、民を死なせ、それでもこれ以上こぼさないように必死で走っていく。燃える炎のように、その最後まで、光を放つのだろう。
そして、そいつに引っ張られるように、結局俺も走るのだろう。悪態をつきつつ、死なせたくない親友の為に、突っ走る。光に群がる虫のように。自らを火にくべて、少しでも火が消えないように、業火に焼かれるを承知で手を差し出すだろう。
俺と親友の道が逸れることは知っていても、同じように走るのだろう。
因みに北戌のリーダーは元々はサラリーマンという設定。
化物の支配地域でも、人は生きています。ほとんどは死んでしまっていますが抵抗する人と降伏した人と隠れる人がいる設定。