自分はただの人だから
死ぬはずだった。
壊れた機体の中で閉じ込められて、光一つない真っ暗な闇の中、必死にかなわない願いを叫び続けていた。
敗走する味方。時間稼ぎの捨て駒にされた自分達。乗っていた機体は砕かれ、仲間の断末魔ももう聞こえない。
次の瞬間には狼に操縦席ごと食いつかれるか、
それとも気づかれずにこのまま閉じ込められたまま凍死するか。
死にたくない。助けてくれと、心のどこかで助けなんか来ないとわかっていても叫ぶ
どれくらいそうしていただろうか、暗闇の中、時間もわからず。ただ数分だったのか、数時間だったのか、それすらわからない程の心理状態の中で
ふいに助けられたのた
突如機体が前に引っ張られるような振動を起こし、壊れた暗闇の操縦席に光が差す
『大丈夫か?』
その声は光の先、光を背負って立つ一機の多脚騎士。
その機体の手が優しく差し伸べられる。
それは、かつてあった救いの手。
自分はその差し伸べられた手に報いるために、ずっとここに・・・・
何が正しかったのだろうか?
答えのない問いを思い。答えがないことに苛立ちを覚える。
だから自分には無理なのだと、吐き捨てるように思う。
『ここで退いたら、あの人が生きていても、死んでいても、まっすぐあの人を見ることができないから、自分は、退けない』
そういって、おそらくは通信機の向こうで決意に満ちた瞳をしているだろう部下の少女。それに対してこちらは、たぶんかなり情けない顔をしていると思う。
なんでそうやって死にたがる?
隊長達も目の前の少女も、なんでこうも死にたがる?
まるで死ぬことが目的のように死地を前に、なおも進んでいく。なんでそんなに自分をころしたいのか?
隊長がいないこの世に未練なんかないのだろうか?だから消えてしまおうというのだろうか?
わからない。だけどはっきりしているのは、無謀なのに揺るがない意思を発し、それが目の前にいるということ。
そして、そんなバカげたことに付き合って死にたくないと、このまま放って逃げてしまいたいと思う自分が、心の中にいるということだ。
『・・・こんなバカげた事に付き合わなくていい。隊長たちは後退して味方とともに退却を』
そういってるんだ。退けばいいじゃないか?彼女を置いて、そのまま撤退する。
帰ってこない命の恩人が、何を願ったか忘れたように・・・
それとも前と同じように彼女を無理やり機体から連れ出して・・・
できるわけないだろう?警戒されているし、何より彼女の新しい機体、「木枯型」は以前の木楼型の発展型の機体で、機動力や格闘能力をある程度持たせた八脚の多脚騎士である。木楼のような鈍重な機体のようにはいかない。
「まてまて、上に確認するからちょっと待て、司令部につなげるよう頼んでみる。何か理由があるかもしれない。とにかく、自棄になるな」
とにかく説得しないといけない。
どうして?なんで?その問いを何度も考えながら、上の指示を仰ぐ。
自分達には、自暴自棄になってるようにしか見えない少女。
それでも、できることなら助けたい。
そして、助けられないのならば・・・・答えは、出ている。
何が差し伸べられて手に報いたいからここにいるだ。
あの頃と自分は何も変わっていない。
助けてほしいと、自分勝手に願い。命の恩人の頼みすら、自分の命より軽く捨てて、ここで逃げようと思っている。
そんな自分が嫌いなのに、心の中ではそんな自分に納得している。
自分は目の前の少女や、隊長達のような、一般常識で測れないような人ではない。
でも、それは彼らが特別だから。
自分みたいなただの人に、そんな道は選べないのは当然だから、
だから、
私は逃げるのだろう。




