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裏切り者

見ただけで吐き気が する男に会ったことがある。


それは、自分に似ていて、それでいて根本から違うような、何か得体のしれない不気味な存在だった。


「・・・・・・」


おそらく向こうもそう思ったに違いない。顔をしかめるその顔と同じ顔を俺はしているだろうから、お互いに何も言わずに対峙している。


「失礼ですが、第36部隊の隊長殿とお見受けしますが、・・・・失礼、自分は第31部隊隊長を務めております。隣は副官の・・・」


「・・・ああ、私が36の隊長だが」


吐き気をする男の隣の男、隊長とやらが自己紹介してるのを、聞き流しつつ答える。目線は男を離すことはない。


その男もこちらをじっと見ている。警戒ではなく、明らかに敵意を持った瞳、同じような瞳をこちらはしているだろう。


濁った瞳だ、自分と同じ、嫌なことをし続けて、それでも何も変わらなくて、絶望してもなお手を汚して生きてきた者の瞳だ。


「?うちの副隊長が何か?」


ふしぎそうな31の隊長の言葉に我に返るように目をそらす。


こいつは敵だ、味方ではない。


それが第一印象。


というか第二印象から、ずっとこの印象は変わっていないのだが、



目を開ける。心を落ち着かせるために集中していたはずが、もういない厄介な男を想像して心をざわめかせてしまったようだ。


「にいさ・・・・隊長、部隊のほとんどは後退を始めています。ここまま予定防衛ラインに下がりたいのですが・・・・」


部下から通信の声がはいる。


「ほとんどってことは、命令きかん奴が出たか、まあ、そうだろうな」


どうせわかっていたことなのだ。


「・・・31の新隊長どのが、部下が納得していない、上からの撤退命令の真偽を確認したいと言っています・・・ばれましたかね?」


そこまではっきり言うってことは、そういうことだろう。勘がいいというかなんというのか、ここまでくると、人間業ではない。おそらく、あの女だろう。


「まあ、そうだろうなぁ。確認したい・・・か、そう言えば大佐なら応答するだろう。しないってことになれば、確定って感じか」


「どうします?」


部下の不安げな声。31部隊は多くの戦いの先陣をきってきた。信頼はもちろん、多くの借りがある。おそらく、兵士の大半が自分達以外で助けたい部隊をあげるなら筆頭で名前を上げるだろう。


だからこそ、自分の決定を聴きたくないんだろう。付き合いが長いからわかっているのだろう。


「撤退は司令部からの命令である。従わない場合は、命令違反となる。それでも退却しないというなら、まあ、壊滅するだろうな」


助けるなんていう選択肢などない。そんな無駄に兵を失って助ける意味なんか分からない。


「・・・・了解、そのように伝えます」


その悲しそうな声に一瞬胸が痛む。


「・・・すまんな。俺にはこれしかできん」


それは、31の部隊をきにしたわけではなく、通信の先にいる部下に向けての謝罪。


「いえ、それが、最良であると信じていますから」


その信頼にこたえられていないことは自分自身がわかっている。


もっといい手があるのだろうことも理解している。それをすべきだということも理解している。


それでも、


「力があったならそうしよう、知恵があったならそうしよう」


独り言をつぶやく。


「所詮この身に力も知恵も、ろくすっぽない出がらしに、守れるものなど懐のみよ」







なんであの男に吐き気がするのか、自分は知っている。


あれは力を望み、知恵を望み、あがく気力を残している。


それがどうしようもなく気持ち悪いのだ。


捨てたものを後生大事に心の奥底に持ち続けるあれが


こんな世界で自分と同じことをしながら、それでも捨てようとしない男が


本当に心の底から不快なのだ。




たぶん、向こうは捨てた自分が、未来の自分に見えて不快なのだろう。




「・・・・そう考えると、死ねて幸せだったか・・・」


それを持ったまま死ねたのなら、それは・・・・自分のような泥の中で浸かって平然としてるような自分になるより圧倒的に



幸せだろうから。


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