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不満と掌握

キャラが勝手に動くのが楽しくもあり、手綱が暴れてどうにもならない恐怖がある

「・・・つまり、戦う気はないと?」


冷たい自分の声が司令部に響く。それを、通信機の先にいる男は平然と返す。


『そういうわけではない。無駄な犠牲が出るような行動はとらない・・・そう言っている』


36の隊長はうんざりとした声で続ける。


『防衛ラインを後退させているのは、これ以上長期の防衛の必要がないからだ。ならば無駄に兵士を損耗させる必要はない。後退して基地の防衛兵器を使って戦うべきだと言っている。緩衝地帯での防衛戦をする必要がないなら、支援が可能な基地の防衛圏内で戦う。それが普通だと言っている』


確かに、それは間違っている意見ではない。だが、そんなことをさせるわけにはいかない。


「基地のすぐそばには町がある。避難民達がいる。基地の防衛はできるが、町に化け物どもがそれる可能性があると言っているんだ。それを無視することはできない」


助ける者はすべて助けなければならない。散っていった仲間や、あいつらの為にも、防げる犠牲は最小限にしなければならないのだから。


『可能性の話だ。絶対ではない・・・そんなことで無駄に兵士を損耗させるのは指揮官として承服できない。それならば防衛の戦力を町に配備すればいいことだ』


「市街戦を行うというのか!それこそ被害が増えるだけだろう」


怒鳴る。司令部と前線指揮官の意見の相違、確かに、36の隊長の言い分はわからないでもないのだ。だが、それをさせることはできない。断じて。


『防衛している事実はある。多少の損害が出たとて、それを糾弾されることはない。違うか?』


「・・・・本気で言ってるのかお前・・・・」


国を守る兵士として最悪な言葉を吐く。絶句しているこちらに、続ける。


『ふん、はっきり言うぞ。そんなの今更だろう?民を見捨て、逃げて、わずかな民を助けてここまで逃げてきたお前や俺らが、いまさら少々の犠牲を許容できないと、本気でいうのか?』


その刃は、鋭くとがっている。それでも。


「状況が違う!いま、この場で、防げばすべて守れるんだぞ。今までとは違う!」


否定する。


『すべてではない!そのために死ぬ者がいるだろう!我々だ!』


それを向こうも否定する。


『確かに俺たちは兵隊だ!国を守るために戦う為に、ここにいる。それは、否定はしないだがな・・・・』


そういって36の隊長は、一息つく。それは、言いたくなかった半分、言いたかった言葉なのだろう。


『逃げたてめぇら司令部どもがそういうのか?国を守る犠牲になれと。残ったお前らは違うだろう。だが、大佐、お前の上の将官はどこにいる?本土から派遣されてこの地を守れと言われた連中はどこにいる?・・・あの日あの時あの場所で、あいつらは俺らに何を命じで、どこに行った?俺たちを捨て駒にして遠い遠い本土で、今そいつらは何をしている?』


その言葉の刃を、受け止めるべきは自分。わかっているのに、その言葉がどうしようもなく胸を貫く。


『・・・くそ・・・・大半の将官指揮官逃げて最低限の人員で防衛線を守るのは評価する。だがな、俺たちは一人も本土まで逃げなかった。逃げて、最後のここで踏みとどまった。消えた仲間はみんな戦場で散った。お前らの大半は逃げていなくなっただけだろうが』


その慟哭のような言葉に、否定する言葉などない。わかっている。全部わかっているそれでも・・・



「・・・・否定はしない。だが・・・」



『ならば、少しでも多くの兵士が生き残る選択をとらせてもらいたい。避難民に犠牲が出る・・・可哀そうだが致し方ないことだ。それで一人でも本土に帰れる部下がいるなら、汚名を受けようと俺はかまわない・・・それが隊長としての俺の言い分だ』


「・・・・お前は・・・」


最低だと思うのに、わずかに、あいつを思い出す。

それでも、目の前の男の言い分に乗るわけにはいかない。


「それでも、後退は認めない・・・命令だ」


酷く醜い言葉だと思う。司令部が彼らを捨て駒にした時も、そう言っていただろう。それでも、それを繰り返しても、認めてはいけないのだ。その選択を。


だが、その言葉にも36の隊長が動じることはなかった


『残念ながら、そんな命令は聞けないな。というより、きかねぇよ。31の隊長がいたなら、そっちに流れただろうけどな』


そういって自嘲気味に笑う。


『大佐殿、兵士の士気がどん底まで落ちてることに気づいているか?厭戦気分が蔓延してることに気づいているか?このまま意見が衝突して、俺と大佐、どっちに流れが来るか、わかってるか?』


その言葉に、一瞬答えに詰まる。その情報を持ってくる義弟はいない。だから失念していたのだろう。本来なら最も考慮するべき情報だ。たとえ三日でも、それはあっという間に兵士に蔓延する。


『31の隊長は英雄だった。こんな負け戦の中で、兵士の希望だった。常に危険なことを引き受けて戦い。勝ってきた。それこそ、心酔する兵士も多かった』


なんとなく、こいつが何をするのか理解できた。だが、防ぐことはできないだろう。


『あれがいるから俺たちは平気だ。どんな任務も先頭を切るのはあいつらだったから、無茶かもしれない司令部の命令に、最も危険なあいつらが積極的に答えてきたから、だが、もうあいつはいない。お前ら司令部の無茶で犠牲になった。真実は違っても、兵士はそう思うだろう。そして、支柱のなくなったいまの31部隊に、兵士はついてこない。唯一ついてくるのは、守ろうとする俺だ』


そういって通信機からため息。


『俺が一声上げれば、基地の大半の軍人はこちらにつく、戦いたくない。死にたくない。司令部の危険な命令に従いたくないとな。大佐、あんたは悪い奴じゃないが、その階級上、下からは敬意という名の壁がある。そして、31の隊長が行っていたことはあいつの立案だが、司令部がそれを承認している限り、それは司令部の命令として兵士にうつる』


脅すような、いや、実際に脅しているのだろう。


『できれば、もめごとは起こしたくない。それで無駄に血を流したいとは思わない。それでも、認めないと言えるか?大佐殿?』


それは、最後通告のようなものだろう、これでも対立するなら声を上げると、それはわかっている。だけど


「・・・・それでも、私は、命令を下す」


その言葉に、通信機から息をのむ声がする。


『・・・本気か?大佐』


「お前こそ、本気で説得できると思っていたのか?大尉」


引き下がるわけにはいかない。それは、間違っているから。


「私がそれに屈するようなら、ここに残って戦ったりしない。逃げまどって泣きじゃくって、あれらとともに本土に逃げ帰っているだろう。それを是とできなかったから私はここにいる。そして、それを是とするなら、私はお前を否定する!」


脳裏に浮かぶ恋人の顔が浮かぶ。あの背中を見ていたから、私はそれを否定する。たとえその先がわかっていても、笑って行ったあの男を知っているから。


『・・・・大佐・・あなたは・・ッ・・・やれ』


背後から拳銃を突きつけられる。


「申し訳ありません。大佐・・・」


声からすると、参謀の一人だった少佐だろう。敵対していたわけではなく、どちらかといえば自分と同じ考えだと思っていた男である。


「・・・・・・・てっきり、敵対してる他の者かと思ったが・・・・」


出撃から何から何まで反対していたほかの中佐や大尉は部屋に侵入していた兵士に押さえつけられて組み伏せられている。通信兵の半分は他の通信兵に拳銃を突き付けて動きを封じている。見事に、制圧されている状況。


「・・・現在、多脚騎士のパイロットはほとんどが彼に従っています。命令が対立しても、こちらには出撃している彼を拘束することはできない。ましてや、出撃前に拘束するにも、彼以外に部隊を動かせるような人材がいない。その時点で、彼を抑えることはできません」


少佐の言葉に、小さくうなづく。


「・・・なるほど、私が強権しても彼は従わず、結果的に基地側と多脚騎士は連携できずに戦うことになる。ならば、彼に従い、共同で迎撃する方が、結果的に市民への危害はない・・・・そういう判断か、君は」


納得がいった。それならば、少佐がこちらに銃を向ける理由になるだろう。


「大佐、抵抗はなさらないでください」


参謀たちが、通信兵たちが拘束されて連行されていく。自分は銃を突きつけられているが縛られずに立たされている。


「・・・拘束しないのか?」


「大佐殿は日頃の疲れで指揮が取れない状況である。それゆえ、倒れられ、混乱した司令部を掌握するためにやむなく司令部の部下を拘束することになりました。そういう流れです。なので、あなたは拘束ではなく療養となります・・・・あなたは、この国に必要な方です。もしもの時に、責任を取るのは自分の役目であります」


少佐の言葉に、自嘲気味に笑う。


「・・・必要なわけないだろう、こんな、事態を引き起こすような馬鹿が、必要なわけない・・・少佐」


歩く、指令室の出口に向かって、少佐ではない部下が、両脇に立って護衛兼、逃亡防止だろう。歩きながら続ける。


「お前がどう言おうと、責任は私が負う。だから、せめて、せめて犠牲を出ないように、奮戦してほしい。頼んだぞ。少佐」


「大佐!・・・それは・・・・」


背後にいる少佐の表情は見えない。だが、別に見なくてもいい。自分にはできることなどないだろうから。心から頼むと、言うしかないのだから。


「・・・もうしわけありません」


少佐の言葉を最後に重い扉が閉まり、自分は自室に歩き出した。


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