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一夜

雪の道を無言で歩き続け、時刻は夕刻。予定通り、地図に書かれたもともとは避難小屋だったものを改修した。中継所に入る。


ストーブに火をつける。結構な量の灯油が入っていることに安堵し、備蓄されていた保存用のスープのレトルトを鍋に入れてストーブの上に。


その間、お互いに会話はない。重苦しいともいえる空気だが、それはしょうがないだろう。


「・・・・さむいな」


少し前に振った雪は柔らかいものの振った量も少ないので歩くには支障はない、と言っても山道となると雪が崩れる可能性もあるし、歩くのが大変であることには変わりない。寒さはつらいが、耐寒性に優れた軍服のおかげで、凍傷になるほどではない。


それでも雪や寒さは容赦なく体力や気力を奪う。


「確かに・・・冷える」


親友もつぶやく。疲労でやっとな自分に比べて、まだまだ余裕そうなその表情が恨めしい。


「・・・・悪いとは思ってる」


ストーブを挟んで向かい合い。体を温めていると、ふと呟かれる言葉。


「・・・それはもうやめようって言ったぞ」


俺の答えに、親友は首を振る。


「巻き込んでおいて一方的に、そういうことを言うのは、悪いとは思ってるんだ。間違っていないと思っているから、謝れないが、心の底から悪いと思ってる」


「・・・いいよ、そういう奴だってのは昔っから知っている」


それだけの会話でしばらくの沈黙。スープがあったまったので容器にうつす。


「ほれ」


「ああ、すまんな」


そこからまた沈黙。なんというか、歩いているときは気にしてないけど動きがない時にこの沈黙は・・・・めんどくさい。


「なあ」


あまりにめんどくさくて、声をかける。


「なんだ?」


そんな緊張した顔するなよ。と心の中で笑う。馬鹿らしい。ほんっとうに馬鹿らしい。


「あれは、たぶんだが、お前は俺の為に、そういってくれてるんだってのはわかる。そんなに気に病む必要は、たぶんないぞ」


どうせ俺は変わらんのだ。気に病むだけ無駄なことだ。とは思っているが言わない。わざわざ口論して疲れる気はない。


「・・・・すまん・・・いや、ここはありがとう、か」


それが、親友の気持ちをわずかでも落ち着かせるのなら、それにこしたことはない。


「そんな違いなんか俺が知るか、とりあえず腹に入れてさっさと寝るぞ。というよりお前は平気だろうけど俺が疲労で死ぬわ、寝ねぇと」


俺の言葉に、親友が少しだけ笑みを浮かべる。


「たしかに・・・・君はヘトヘトになってたな」


相棒と言おうとしたのを訂正したのだろう。若干の言いづらさを感じる言葉にこちらも少し笑う。距離を置きたい願いのこもった敬称だが、実のところ相棒と呼ばれるよりそっちの方が個人的には嬉しかったりする。


「てめぇが体力馬鹿すぎるんだよ、ちったぁ加減しろ、俺はそんなにつよかねぇんだ」


親友の強さ、それを羨ましいと、奪えるものなら奪いたいと、何度願ったろうか?


そんな考えが胸の奥に固まっているのを、ため息とともに吐き出すように無視する。


「・・・君は強いぞ」


親友のその言葉に一瞬胸が痛くなる。


「やめよう。さっさと寝るわ」


続きを聞かずにそのまま避難小屋に合った寝袋に入る。これ以上聞いてはいけない。そんな予感がしたのだ。


「・・・・・・ああ」


同意の言葉を背に、背を向けて寝袋に潜り込む。


俺なんかを強いという親友の言葉なんか絶対に聞きたくないのだ。





俺は親友なんかよりどうしようもないほど弱いのだ。



そんな者に、情けでもらう強いという言葉ほど、強さを欲し、願い、嫉むほど躍起になって手を伸ばしても、それでも手に入れることすらできなかった者にとって、そんなものは。







惨めでしかないのだから。


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