納得と結論
「本気なのか?」
話が終わり、とりあえずとして、与えれれた一室で、向かい合うように立つ親友はそういって俺をにらむ。
「・・・見捨てるのはおかしいってか?」
そのまっすぐな視線を見返して、俺は答える。
「民間人を残して本土に逃げかえるのを是とすると?それは、あいつらと一緒ではないか」
まっすぐなその言葉に少し苛立つ。
「逃げる気のない連中に付き合って死ぬのが望みなのか?」
「そうではない!逃げさせられないかと聞いているんだ!」
強い視線がまっすぐにこちらを射抜く。だが、そんなもんにほだされるようないい人間ではないのだ。自分は。
「・・・それはあいつらに失礼だぞ」
そもそも、あいつらを民間人としてみることすらおかしいのだ。
「あれは戦うことを選んだ。逃げることも、諦めることもしないで、化け物の前に立って銃を握ったものたちだ。それを否定することができるのか?俺たちに」
その言葉に、一瞬、親友の瞳が揺らぐ。
「・・・・・・だが」
「あれらが戦う決意をさせたのは誰だ?大事な者をすべて失って、化け物どもを殺したいがためだけに生きてるあれらに、誰が何を言うという?・・・・・・・守ろうとして守れなかった俺たち(軍)か?あれらの一部を守るためにあれらを見捨てた俺たち(軍)か?それとも、自分の命惜しさに戦わずに逃げた俺たち(軍)か?どの口が、戦わないで逃げろと言える?」
「・・・・・・・・・・・」
納得はできないだろう。だが、言える口はないのだということはわかったのだろう。その視線は攻めるような視線だが、わずかにあきらめが入っているのがわかる。
「それでも・・・」
だけど、こいつは口にするのだろう。
「助けてやりたいのだ。守れなかった私が、見捨てた私が、逃げた私が、言ってはいけないのだろうけど・・・・助けたいのだ・・・そうしなければ・・・・ならないのだ」
それはどうしようもないくだらない事だ。言ってもあいつらは聞かないだろう言葉。
「答えはわかってんだろうが」
「・・・・・・・・・・・」
言っていい言葉ではない。だから、俺は言わせないために動く。
「あきらめろ。それはここでやっていいことではない。それはあいつらの誇りを傷つける。あれは軍人なんかじゃ無い。だけどな、あれはもう民間人ではない」
俺は全くあいつらがどうなろうが知らない。だけど、あいつらを気にして土壇場で親友に暴走されるのは困る。だからこそ、思ってもいないのに、言葉を紡ぐ。
「あれは戦士だ。どんな理由でなったか、どうしてそこに居続けるか、そんなことは関係ない。戦う者に、戦い敗れた軍人が戦うなと、そんなことをいうのかお前は?」
「・・・・・・」
「それは違うだろう?」
できれば、これで馬鹿な真似はやめてもらいたい。
「・・・・・・納得はできない。だが、わかった」
長い沈黙のあと、小さくつぶやかれた親友の言葉に胸をなでおろした。
話し合いといってもそれほど厳密な作戦というものではない。
「つまり道路は使えない。徒歩ってことになるが、それでも発見される可能性はあるということか」
敵集団行動範囲を照らしあわされた北戌の地図を見てうなる。
「そりゃ安心安全なルートなんかないでしょうね。化け物だって勝手に背後に抜けれる道を放置するわけありませんから」
リーダーは苦笑して地図に書かれていた最短のコースを指でなぞる。
「このルートは、危険性は少なく距離も短い反面。斜面や崖などがあるため、武器、物資の輸送に適さないから我々も使わないルートです。ですが、あなたたちには関係ないと思う最良といえるルートでしょうね」
そう言って今度は多少大回りするコースをなぞり。
「こちらは緊急の物資を運ぶために使うルート。発見される可能性は高い物のの、スノーモービルなどが使えるので素早く行き来できるルートですが、現在、スノーモービルなどは数が足らないので、使わせたくない。いえ、使うことはまずできません。歩きとなるとますます発見される危険性は増えるでしょう。一番お勧めしないルートです」
そう言って今度は大回りのコースをなぞる。
「こっちは、時間はかかるがほぼ安全に、大量に物資を輸送するルートですね。こちらもおすすめですが、あなた方は、それほど時間をかけていたくない。違いますか?」
その言葉にうなずく。部下や作戦の処理。それから脱出の計画などやることがいくらでもある。それに、たぶんかなり追い詰められているであろうあの子に早く安心してもらいたい。
「ってなるとやっぱり最初か?」
俺はそういって親友に視線を向ける。
「そうだな。それでいこう」
親友はうなずき、リーダーに視線を向ける。
「移動用の物資はいつぐらいに準備できる?」
「おそらく、明日の朝には、もう夕方ですから、たとえ準備できても夜行動するのはお勧めしません」
「・・・・確かにそうだな」
出発は明日。どんなに早くても二日はかかるであろうルート。
帰るめどはついた。後はそれに向かって進むしかない。