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情けない自分

機体を全速力で後退させながら。出鱈目に背後を打ちまくる。


煙幕が化け物どもとの間に壁を作り。その壁を貫くように無数の弾丸がこちらの機体の周囲の雪を巻き上げて轟音がセンサーをゆすってエラーを吐き出す。


煙を突き抜けて走ってくる狼を見ながら機体をできるだけめちゃくちゃに振ってジグザグに走る。追いつかる直前に銃弾をそいつに集中して攻撃の起点を起こさないようにしながらひたすら逃げる。


すでに機体はボロボロで、もはや機能停止直前の状況。ただひたすら走って逃げきれたのにはわけがある。


一つは狼のほとんどが親友から猪を守るために突撃しほとんど残っていなかったこと。後は、拠点を捨てることができないためにある程度の亀が拠点から動かなかったこと。


とはいえ、それももう限界だろう。エラー音がうるさい操縦席で覚悟を決め。機体を止める。


振り返る。狼の群れは三匹。後方にいる亀はかなり引き離したのでここに来るには時間がかかる。


ここで亀が来るまでに狼を倒して逃げれれば、逃げ切れるかもしれない。これ以上逃げてもこの機体の燃料や耐久性から考えてあと数分で確実にやられるだろう。


「・・・・ああ、っくそがぁ」


鼓舞したいがためにうなる。


銃を捨てて剣を構える。どうせもうほとんど弾のない銃なのだ。まだ剣の方が生き残る可能性が高い。


狼は一瞬距離をとる。そしてゆっくりと左右に一匹ずつ。こちらを包囲するように展開する。


正面の狼がこちらの気を引くように襲い掛かるフェイントをかける。乗ったら左右から、乗らなかったら隙をついて襲い掛かってくるだろう。


「・・・・・・・」


息を整える。どうせ生きて帰れるとは思ってなかったのだ。腹をくくれと、言い聞かせる。


それでも、心の中にある後悔や絶望は、消えはしない。


「うらぁああああ」

 

正面の狼に向かって真っすぐに走る。左右の狼が動いたのがわかるが、それを無視するように正面の狼に向かって剣を振り上げる。


狼が迎え撃つようにとびかかる。たとえ自分がやられても左右の仲間が目の前の敵をうつと。勝利を確信した顔を両断する自分の剣。すでに警戒のアラームが鳴り、左右から狼がとびかかってくるのがわかる。


「っ・・・・・あああああああ」

右の方に、真横に跳ぶ。とびかかってきた狼に体当たりするように、狼はそれを見越していたようにすぐに身体をひねって体当たりをそらしてそのまま機体の右腕に噛みついた。


ミシミシときしむ音と金属の引きちぎれる金切り音を聞きながらもう片方の左腕でかみついた狼の頭骨を拳で砕く。バランスの崩れた機体に背後からもう一匹の狼がもう片方の腕の肩に食らいつく。


「あああああああああ!」


肘先を食いちぎられた左腕を叩きつける。狼の牙が肩を砕くのと、腕が狼の顔を殴りつぶすのはほぼ同時だった。


アラームが鳴り響く操縦席で。素早く荷物を持てるだけ緊急用のカバンに入れると。機体のハッチを開き。なかば転がり落ちるように機体を捨てる。


「・・・・・・・・あああ、ほんっとうに、死ぬってぇえの!」


素早く機体を後に走る。といっても雪で足元は重いし、雪は降っていないが気温も低い。


「とりあえず逃げてあいつと合流しないと」


できる限り走る。時間はない。少なくとも亀どもが来る前に見つからない範囲、索敵範囲外に逃げなければいけない。


「・・・・・・・・」


たった三匹の狼すら相打つ程度の実力で、なんでこんなことをしているというのか。



「ちくしょう・・・・・」


自分が弱いのは知っている。自分が屑だと知っている。自分が救いようのない愚かな人間だと知っている。


知っているのに・・・・



それでも、悔しかった。



妬ましかった。



手を伸ばしたかった。



奪えるものなら奪っててもそれがほしかった。



――奪ってしまえばいい――


「・・・・はは・・・・・」



頭に浮かんだ言葉に軽く笑い。頭を振る。


「・・・黙ってろ、くそ頭が・・・」


自分は助けると決めたのだ。



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