なんで
なんでこうなったんだろう?
それが最初に思った言葉だ。
「隊長がまだ戻ってきてないのに、なんで!?」
その言葉に対する答えは射攻の小隊長が答える。
『だから何度も言っているだろう?隊長は、他の部隊のしんがりを務めながら帰還している。部隊の指揮は私が引き継ぎ。退却を行うよう命令も受けている。さっさと逃げないと逃げ遅れる』
それは何度も聞いたが、私は首を振る。見えないというのはわかっていたが、必死で否定したかったのだ。
「それは絶対違う!隊長がいないだけなら、疑問に思わなかったけど。ここに大尉・・・あの人がいないのは絶対におかしい」
彼が、先行部隊で戦っていたから作戦に参加していないのは知っている。
『だから、助攻は先に撤退している!合流は基地になると連絡も来ている!』
「嘘だ!」
それでもだ。彼がここにいないという選択肢はない。すでに部隊は敵の最前線だった場所にまで来ていた。
あれが、私や隊長を心配して待っていないわけがないのだ。それだけは、絶対にしない。それどころか、勝手にこっちに協力してくるぐらいの、そういう人だって知っているのだ。
『・・・・・・いいからここを離れるぞ。これは隊長から委任された正式な命令だ!それとも?隊長の命令に従えないのか?』
もし、これが大尉は隊長の応援に行っているので合流できないといわれれば、まだ納得できただろう。隊長の命令に従って基地に向かって動いただろう。
「・・・・まさか・・・・」
なんとなく、想像がついてしまった。それは身勝手でろくでもないけど。あの人なら普通に受け入れ、彼も悪態をつきつつあの人に付き合っていくのだろう・・・道。
「・・・・・」
機体を背後に向けようとして、機体が揺れて激しい衝撃音とともにコクピットのモニターに赤い点滅。そして、機体が動かないことに気づく。
『・・・・・・すまんな。流石に気付かれて、それを説得することはできない』
いつの間にか目の間に立っていた射攻の小隊長の剣が、自分のコクピットの下、胴体の付け根部分を貫いていた。
さらに、コクピットが緊急開閉される。何かと思ったら影が二人飛び込んでくる。
「すいません!」
「悪く思わないでください」
それは射攻の隊員であり同僚の二人だった。
「え?」
狭いコクピットで何かを腕に押し付けられた。と同時に衝撃。
一瞬で意識は刈り取られた。
「・・・・結局、こうするしかなかったか」
『・・・・目標の確保に成功。これより帰投しますが・・・・・・・しかたなぇっすよ』
そう言って通信機から疲れたような声がする。目の前で崩れ落ちそうな串刺しの機体を支えつつ。
「・・・さっさと戻るぞ、これ以上時間をかけてたら逃げ遅れる」
ハッチが開いて射攻の隊員二人が、できる限り迅速に、できる限り丁寧に、彼女を操縦席から出す。機体の手を差し出し彼女を載せてもらい自分のハッチの位置に持っていく。
操縦席から立って搭乗口まで出て彼女を抱えて操縦席に戻る。結構はい出るようにして中に入る構造なので苦労したか、何とか彼女を操縦席の後ろの若干空いているスペースにか両ひざを抱えるようにして座らせる。
「・・・・・・・すまんなぁ」
正直、こんなことしても無駄になるんじゃないかとは思う。
隊長の為に泣くだろう。実行した私たちを恨むだろう。頼んだ大尉を憎むだろう。
そして一人ぼっちでまた戦場に立って、私たちを信じないで死に向かう。
そこまでわかっているのに、それでも助ける。
「・・・本当、帰ってきてくださいよ」
小さくつぶやく。生きて帰れるとは思えない。それでも、あの人たちならば、そう思ってしまうのは、信頼なのか妄信なのかはわからない。それでも、信じていることには変わらない。
「・・・帰投する!」
『了解』
基地に機体を向ける。
空から白い雪がゆっくりと舞い落ちながら。巨大な人型の機械はその歩みを止めることなく。
全軍退却した。




