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少しだけ、心にあったもの

自分に実力がないことはわかっている。

ただ突撃してもあっさり死ぬことが分かっている。


敵の背後に回るために大きく迂回して進む。幸いにして山や木々が邪魔をし、敵の視界に入ることはないルートを見つけることができた。このまま進めば敵の背後をとることができるだろう。


なぜ背後に回るか、おそらく、逃げ場は背後にはない。仮に敵本陣の中央にあいつがいたとして、目標達成後、退路は東西の敵陣地の援軍で塞がれているだろう。


ならば突き抜けるように北に抜けた方がまだ生存の可能性は高い。


「・・・まあ、問題があるとすれば」


あいつが生き残れるかどうか全く分からないということだ。


下手すればもう死んでいるとしても不思議ではない。


それでも行くことが正しいのだろうか?


「ああ、くそ、決めただろうが」


助けに行くと決めたというのに、いまだに、諦めようとする思考にうんざりと吐き捨てる。


と同時に通信機に反応が入る。距離は遠いが、何とか会話できる距離の反応。

通信機をオンにする。レーダーには31部隊との通信が可能、となっている。


「こちら助攻隊長。射攻の隊長?聞こえるか?」


通信をその指揮を執っている一機に機密通信で送る。できれば聞かれたくない。とくに、あの子には気づかれるわけにいかない。


『こちら射攻の隊長、なぜそんなところに?撤退の命令が出て・・・・・あ、まさか』


付き合いが長いから気づいたようだが、動揺されては困る。


「連れ戻してくる。が、お前らは撤退しろ、さすがに目立つし生きて帰れる保証もない。ついでに言えば、邪魔だ」


『・・・・・・・・・』


いつもの調子の言葉のはずなのに、沈黙が帰ってくる。やっぱり苦しいか。


「・・・あの子を死なせたくない。あいつを死なせない。今の気持ちは抑えてほしい」


これで伝わるだろう。少なくとも、それぐらい物わかりのいいおっさんだということは長い付き合いでわかっている。


『・・・ですが・・・あなたまで死んだら、あいつは・・・』


「馬鹿か、あれが死んだらあの子を救うなんて俺にはできねぇよ」


そもそも、たぶん俺が先におかしくなるだろう。悲しむあいつを見て、その原因に立ち向かえたのに何もしないで帰ったならば、俺はたぶんそこから何もできない。


「・・・じゃあな、最悪、部隊のことはお前に任せる。あの子が泣いて叫んでも、助けてやってほしい。まあ、無理だろうけど」


苦笑する。それができるような器用なおっさんじゃない。たぶんあの子は助けられない。助けられるとしたらあいつを連れて帰るしかない。


『・・・・・・・了解。ですが、隊長を助ける代わりにあなたが死ぬとかやめてくださいよ』


「そっちの方がなんぼかましだよ馬鹿」


予想外の気づかいにすこし笑う。


『いえ、本当に、やめてください。あなたは・・・確かに酷い人です。あなたの生き方、考え方・・・・・正直嫌っている部下も多かったはずです。ですが、』


何を言いたいかわからないが、黙る。これは、笑い飛ばしてはいけないと、なんとなく思ったから。


『ですが、私も部下も多くの仲間も、あなたと隊長に助けられたことには変わり有りません』


「・・・・隊長が助けたんだろうが、俺は付いてっただけだってお前がよく知ってるだろう?」


助けるつもりなんかなかった。あいつが勝手に動くから文句言いながらあいつを守ってきただけだ。


『ですが、隊長だけに私たちが救われたわけではない。それは、皆知っています』


正直、今すぐこの無線を切りたい衝動に駆られる。だが、わずかに、聞いていたい気持ちがそれを止める。


『自分は知っています。あなたが隊長を死なせないために、見捨てた友軍がいることを、隊長を止めたことで、部隊が生き延びたことも、物資が枯渇している中、友軍の物資を盗んでまで私たちを救おうとしたことも、全部・・・知っています。だから・・・・』


「そんなの全部・・・・あいつが、助けたいと思ったからだろうが」


知られていたことに少し驚くと同時に、なんとなく知られていたんだろうな、と少し納得した。道理で、こんな俺に助攻の部下が命令以外に気にかけてくるはずだ。


「正直お前らが死んでもどうも思わん。親友が気にするだろうってだけで、お前らの心配なんぞ一度もしてない」


それは、悲しいことに本音である。たぶん。こいつらを陽動にして親友を助けられるなら、迷わずそうするだろう。だが、こいつらを見捨てることを、親友はできないからさっさと逃げてくれというだけ、あとは単にあの子も巻き込まれるからしないだけ。


『知っています。ですが、あなたがやったことは消えないでしょう?・・・・ですから、あなたも、死なないでください』


その言葉に、柄にもなく、少しだけ、身体に力が入る。


「・・・・・くだらねぇ、切るぞ。死ぬつもりなんかねぇよ」


通信機を止める。一瞬のためらいがあったことが少しだけ、ほんの少しだけ


自分に他人を気にする気持ちがあったことが、少しうれしかった。





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