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作戦直前 掌握

なかなか思い通りにかけない。

部隊に向かう途中でふと機体を止めて目を閉じる。


心を落ち着かせるように身体から力を抜く。

心が腐ってどろどろとした感情をまき散らしている。


それは羨望なのか嫉妬なのか、怒りなのか諦めなのか、憎悪なのか悲嘆なのか、よくわからないどろっどろに混ざりこんだ感情の波に魂をゆだねるように、ぼんやりと意識を手放す。


腐っていない部分の魂を切り離して、別のところにもっていく。今必要なのはそれではないから、そんなものをかける相手はここにいないからと、割り切ってそれを心の奥底にしまい込む。


いつも通り、何の問題もない。


意識を身体に持ってくる。気持ち悪さも感じない。そう、それでいいと自分に言い聞かせる。


モニターの地図には前方に16機の味方の多脚騎士を表すマーカーが光っている。


22部隊。


「こちらは31部隊から派遣された。隊長代理はどこにいる?」


『はっ22部隊隊長代理であります。先行部隊指揮官より命令を受けています。これより指揮下に入ります!』


中心部にいた機体からの通信。


「了解」


合流し、部隊の機体番号を確認しつつ。


「臨時の隊長としてこの部隊の指揮をとることになった。よろしく頼む・・・・・・・

そして、早速だが、厄介なことになったなぁお前ら」


『・・・やっぱり厄介ですかね』


隊長代理だった男の通信。


「まあ、実質おとがめなしだったってのは作戦が近かったからだな」


本来なら隊長逃亡の責は部隊全員にかかわってくる。それを良しとしたのは、時間のなさと親友の優しさであろう。


「だが、問題行動を不問にするという名目だが、実際は不問というわけにはいかない。そこんところはわかるな?」


『・・・まあ、そういった評価には響いてくるでしょうね』


部隊から逃亡者・・・しかも指揮官が逃亡する部隊となると。部隊としての信用、評価は地の底まで落ちるだろう。


「今でこそ、部隊としての行動ができないから囮なんて言う楽な仕事を任せられるが、部隊のまとまりができれば、使いつぶされるだろうな。確実に」


信用できない部隊。評価の低い部隊。そんなものを重宝するわけがない。


『・・・・・・・しかたがないでしょう』


僅かな怒りを押し殺した声。その声に小さく笑みを浮かべる。


かかった。


無駄を嫌い。部下の死を嫌う義姉さんが、使いつぶすより効率よく使い続ける方を選ぶのはわかっている。確かに負担は以前よりか増えるだろうが、それでも壊れないように気にかけてもらえるだろう。そして、公平に罰が終わったら、元の評価に戻す。


つまり、連中の怒りは杞憂だ。だが、それを利用する。


「なら、手柄を立てて挽回するしかあるまい?」


俺の言葉に周囲の反応が一瞬変わる。


「そもそもなんで自分が来たと思う?」


答えられても困るのだが、あえて問いかける。


『・・・・・・・・・それは』


「そもそもお前らは勘違いしてる。今回の件で民間人の脱出の時間を稼ぐ・・・確かにそれが主目的なのは事実だが」


勘違いしているの事実。だがそれをすり替えてそれを利用してこいつらを動かす。


「今回の作戦が成功すれば、一部の兵士の帰還も夢じゃなくなる。敵の損耗具合なら、民間人を運んでもなお輸送する時間が稼げるかもしれない」


『な!』


動揺する部隊。まあ、死ぬまで戦って民間人を逃がすしかなかった中に光明が差すとするなら当然だろう。


「そうなると少しでも武勲を挙げて帰還兵になりたいわなぁ、そうすると今回の件、あんたらの隊長さんは明らかな悪手を打っちまった。お前らにも波及するどでかいもんをな」


実際帰還することができるほどの損耗を与えることなどできはしないだろう。だが、人というのは希望があればそれにすがる。それに、少しでも希望を補強することがあれば、それを信じ込む。例えば、作戦指揮官の副官の位置にいる俺の言葉とかは効果は大きい。



『・・・・・・・・』


「今回のお前らの任務である陽動作戦。重要度はかなり低い、成功したとて評価はマイナスのままだろう」


希望の道を示し、そこへの困難さを示す。そして、そこに利害関係の一致を入れれば言葉は相手を動かす力になる。


「一方、俺らのほうは作戦成功に何としても動かなければならない。俺らの席は今のところ決まっているだろう。こんなでかい作戦の指揮とるぐらいには重要な位置にいる。いく人かの別の部隊の連中を推薦することもできるだろうな」


これだけでは足りない。こいつらを選んだ理由にはならないから。協力の対価は払えることを伝えただけだ。


「そして、厄介なことに、先行部隊の指揮をとれるほどの実力を持つ36部隊に活躍されて、俺らの部隊と対等の位置まで食い込まれるのは何としても阻止したい。帰還する兵士達選考の主導権はこちらに置いておきたい。そうなると、この先行部隊の中で36部隊に勝るとも劣らない戦果を出してくれる部隊がいてくれれば、36部隊の功績が、そいつらと分配されて、相対的に薄くなる。」


こんな思考を親友はしていないし、大佐も一部隊の大尉である親友に部隊選考の主導権をあたえようとは思っていないだろう。それは彼女の責任であり、それから逃げる人ではないから、そしてそれは、あいつらを知っているからであって、目の前の部隊には、知りようもない。


「・・・帰還兵が選考されることになれば、君たちを推薦することを約束しよう」


確約はしない。まあ、そもそも取らぬ狸の皮算用だ。帰還兵が出るかすらわからない。というより出る可能性のほうが少ないのだ。つまり、この戦いは彼らにとって徒労となるだろう。


『・・・・我々はなにをすればいい?』


疑混じりの彼らの言葉を聞きつつ、震える手を握り締めて無理やり震えを止める。


今はそんな感情は必要ないのだ。



「要は・・・36部隊の突破の功績を減らせばいいということだ・・・つまり、突破したのは彼らだけの力じゃないと思わせればいい」


マップを送る。赤い半円形をなしている敵防衛ラインを左右真ん中下の凸字の青の勢力が展開している。


「今回の最大の戦果は正面突破。それをサポートする。具体的には・・・・」


右下に位置する凸しるしを操作して半円のラインを右下から突破する。突破してまっすぐ進み向きを左下に向ける。


「正面突破部隊と俺らで敵を挟む」


正面突破部隊と敵防衛ラインの右斜め後ろから攻め立てる。


「無論、完全に挟み込むと流れ弾で同士討ちになるから、最悪でも斜め後方、できれば敵部隊の真横につきたいがそれは無理だろう。できる限り射線上に正面突破部隊を入れないように動く。これだけに注意すれば問題はない」


一呼吸置く、決断するには十分で、じっくり考えることができない程度の微妙な呼吸。


「・・・さて、どうする?乗るのか反るのか、どちらにしても時間はないぞ?選ぶなら今しかない?最も、嫌だっていうならそれでもいい・・・・・・・・・・・だが、どちらにしてもこれだけは確かなことだ」


そもそも、それができる前提として。


「・・・・・・作戦を成功させなきゃならん。国を守るために、基地を守るために、民を守るために、土地を、金を、友や家族を捨ててまで逃げてきた者たちに安息を与え、共に戦ってきた者たちを救うために勝たなきゃならん。これはそういう戦いだ」


心にもないことを饒舌にのたまう喉を、無性に潰してやりたいが、ぐっとこらえる。

民なんぞ知ったことか。戦ってきた者を救う力なんぞない。ただ、親友が望むままに戦うのみ。それぐらいしかできない男が何をのたまい。目の前の駒を鼓舞しているのか。


「戦う利と義がある。勝ち目もある。必要なのは、それを選択する勇気だろう?それすらないわけではあるまい。ここまで、血反吐吐いて戦ってきたなら、最後の一滴ぐらい絞り出してみろ」



また更新遅れそうです。

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