まあ、序盤に戦闘はいれとか無いとね
本編始まり。
『展開する敵部隊は前衛、狼型が12。後衛、亀型が4……第31部隊は迎撃を開始してください』
無機質なオペレーターの言葉を小さく鼻を鳴らしてきく
「へいへい。了解了解」
左右のレバー状の操縦桿を動かして待機態勢の機体を立ち上がらせる。といっても胴体を地面につけていただけなので六本の足でほとんど振動も無く立ち上がる。積もった雪が落ちて小さな音を立てるが、問題ない。
『こちら31部隊一番機。任務了解。31部隊全員に命令。陣形はE2212、からA112に変更、包囲して前衛を殲滅。2番機は後方の亀を攻撃。相棒、何機が付けられるが?』
親友がオペレータに返信しつつ部隊を動かす。まあ、この部隊の隊長なのだから当然だが、
「こちら二番機、必要なし、だが、迎撃に時間がかかる。問題は?」
俺も返答しつつ機体を動かす。前方から接近する狼の群れを回避して、後方に回り込む道を選ぶ。雪で覆われた周囲の山や木々で身を隠しながら、後方行くのなら、数は少ない方が気づかれない。それに気づかれてやられても、俺一人ですむことだ。問題ない。まあ、相棒は信頼して命じているのはわかるので問題は無い。
『別にかまわない。狼どもは先行し過ぎているな。これだけ離れていると十分な支援は得られないだろう。無論早く倒してくれるにこしたことは無いが』
「了解。できる限り急ぐ。お前も、てめえらも無駄死にすんじゃねぇぞ」
通信を切って機体を動かす。六本足の機体が胴体の重心を安定させたまま高速で走り出す。
12個の赤い光点が、正面に写されたモニター上の地図をゆっくり落ちてくる。それを迎え撃つように青い光点がせわしなく動き出す。
最初は哨戒に適した広がった陣形から、光点が4個で一集団。5グループに分かれる。そして余った二つの光点もせわしなく動く
左側に素早く展開する2つのグループ、正面から迎え撃つ2つのグループ
そしてそのグループの後方左下、地図上では丘にあたるところに展開する一つのグループ
正面に展開しているグループに混ざる光点が一つと、赤い光点を避ける様に右斜めに向かって進む光点が一つ。
「敵狼のグループと戦闘が始まった模様、31部隊。後退を始めています!」
報告に、その画面をじっと見つめていた、指揮官らしき者。中性的な顔を深くかぶった軍帽で隠し、少しだぼついた軍服を着た小柄な大佐の階級章を持つそれは、聞いているのがどうかもわからない反応も無いまま、画面を見つめる。
「ああ、なるほど、釣ってるのか」
そう言って指揮官。大佐は小さくうなずく。確認するように。
「うん、こっちは問題ない。他の部隊に連絡。哨戒を厳しくしろ。この攻撃が陽動の可能性もある」
「はっ・・・・・ですが、31部隊が後退を」
「問題ない」
遮った大佐の言葉に一瞬言葉が詰まるが、すぐに返答が返ってくる。
「はっ」
赤い光点に押されるように、正面に展開した二つのグループが後退する。接敵する前なので恐らく銃撃しつつ後退しているのだろう。左に展開した二つのグループはその場を動かずに後退する部隊赤い光点を見送る様に伏せ続けている。
そして、左のグループと右下のグループを結ぶ線の奥に進む赤い光点が完全に入ったのを確認した瞬間。敵の後方に陣取る形になった二つのグループがまっすぐ赤い光点に攻撃を加える。また高所に展開していた部隊も砲撃を開始したマークが移る。
「後退していた部隊が反転交戦に入りました」
報告に頷く。三つの集団は射線が他の部隊の邪魔をしない角度で銃撃を集団に加えていく。
おそらく、決着はもうついているだろう。他の部隊が動かないのなら
「後方の亀はどうなった?」
その問いに、オペレーターが
「どうやら2番機が交戦している模様。四体の亀を相手に立ち回っている模様です」
12の赤い光点が4つぐらいになった時、敵後方に展開していた8つの光点の半分の4つが画面上に向かって動き出す。たった一つのせわしなく動く光点とそれを追う四つの赤い光点が戦っているだろう方向に向けて。
「勝敗は決したな」
大佐は帽子の位置を直しつつそうつぶやいた。
「ちっ、ちょっとキッツいぃイイイイイ」
俺は小さく舌打ちしつつ機体を横に振るように動かす。機体の僅か横を光る光弾が通り過ぎる。
狼にばれないように接近はできたが、やはり一機で機動力は無いとはいえ正確無比な射撃をする亀相手にするのはきつかったというか。
とりあえず物陰から手に持った56mmアサルトライフルで二体の亀の砲塔部分を壊したところまでは良かったが、その時には既に他二体の敵の攻撃がこちらをとらえていた。
素早く身をひるがえす。今までいた場所を光弾が貫き、一瞬で白い雪を溶かして、爆発が赤く光る。機体を全速力で動かして、絶え間なく撃たれる敵の砲撃を避けつつ銃撃をするが、狙いをつける余裕も無く、銃撃は亀の装甲に弾かれてダメージを与えられない。
「144mm砲でも持ってくるべきだったがぁ!!・・ってやばいって今カスったっての」
狼程度の強度なら56mmでも結構有効なのだが、装甲の厚い亀相手には砲塔部分以外の有効弾にはならない。せめて75mm突撃銃やら88mm機関砲などがあればいいのだが、この機体(玖朔)は小回りの利く武器の方が相性がいいので使いづらいし、有効弾である75mm弾や88mm弾は使用する者も多い為消費が激しい。
「ちょ、まてって、ちょ」
もはやでたらめに動いて逃げ続ける。下手に後退して既に作戦を展開している味方を攻撃されても困るので一定の距離を保たないといけないのがつらい。
砲撃をする亀の横から無数の銃弾の雨が降り注いだのは、亀の砲弾が左の真ん中の足を貫いてバランスを崩すのとほぼ同時だった。
『大尉殿!大丈夫ですか!?』
自分の部隊の隊員の言葉に、荒い息を吐いて、落ち着けつつ。
「……問題なし……」
なんとかそれだけ言って通信を切る。荒い息を何度も吐く。足が一本やられているが、問題なく動く。多少振動が増えるが、問題は無い。
『31部隊は補給の為に後退したい。司令部。返答』
相棒の言葉に、司令部もすぐに。
『後退を了承する。36部隊に任務を引き継いで後退せよ』
『31部隊了承。全隊、後退する』
「了解」
俺は呟いて機体を基地の方に向けた。
とりあえず補足はここに入れます。