表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/59

本は買わない。

書店は閑散としていた。


まあ、そりゃそうだろう。食料はあっても物資はなく、逃げてきた人々は雨風をしのげる場所に身を休めるのが精いっぱい。家のある者たちだって治安が悪化している現状では本を読む心の余裕などないだろう。ここの店主はすでに本土に逃げており、金目のものなど残ってないし、シャッターも破壊され、店内は物色された形跡。本は見向きもされず。ただ乱雑に床や机に散らばっている。


別に珍しいことではない。


逃げてきた人々だって生きているのだから糧がなければ生きていけない。僅かでも金目のものがあれば、食えるものが少しは増える。特に各地で敗北を重ねてここに逃れてきた当初は目も当てられないほど治安が悪化したのだ。それをある程度とはいえ落ち着けた大佐の腕前は相当だと今でも思っている。


今では何とか落ち着きを取り戻し、ここいらのシャッター外の市民は本国に逃れ、何件かは軍が避難民の収容場所として接収している。ここのように完全に窓やシャッターが破壊され、侵入し放題であるのは紙しかないようなところは収容場所にすることもなく破壊されたまま放置されている。


本を物色するあの子をしり目に興味のない自分はあくびをしつつシャッターのあった入り口付近に待機している。


治安は確かにある程度は回復している。とはいえ、油断できるほど治安がいいわけじゃない。あの子も軍人としては優秀だから浮浪者ぐらいなら余裕で撃退できるだろう。だが、守るべき相手に手をあげるのはためらってしまう。それぐらいはわかる。


俺のように必要なら殺すことすらためらわない奴ではないのだ。甘いことだが、こればっかりは性分でわかれる。本当にダメな奴はこういったことはどうやったってためらってしまうものなのだ。そういった連中はたいがい、ろくなことにはならない。


べつにそんな甘ちゃんが、どうなろうと知ったことではないが、それがあの子なら別だ。容赦なく殺す。というより、実際、ここに来るのは一度や二度じゃない。もちろんそういったことなど何回かあった。


「・・・・・・・・・・」


視線を気配がする方向に向ける。浮浪者の若者が怯えたようにこちらをうかがっていた目をそらして足早にその場を去る。


軍人襲って金目の物や武器を奪おうとするぐらい気骨のある奴は、ここいらにはいない。いや、いなくなってもらったといってもいいかもしれない。親友と俺、それと部下が念入りに掃討したのだ。大佐の治安維持とそういった地下組織が小さいうちに叩かねばならない。大きくなってしまえば一気に勢力が広がるのだから、その都度念入りに掃討した。


ここに元からいる住民たちや、大半の避難民として軍が保護した連中は、治安の回復をさせてくれた軍にかなり友好的である反面、軍の保護を受けられなかった者たち。例えば逃げてきた犯罪者や、戦わず逃げた上、今現在の残党軍に復帰せず逃亡兵となってしまった元軍人。あるいはすねに傷があり、国の保護を受けられないものにはとことん嫌われている。


まあ、何かするような勢力にはなっていないから遠目からあんな風に様子をうかがうかその程度しかできない連中だ。


「・・・ありがとう」


背後からの声。


「ん?もういいのか」


持ってきたリュックが膨らんでいるが、いっぱいというほどでもない。


「うん、これぐらいしかもうない」


そう言って少し寂しそうな笑み。まあ、品ぞろえがよかった店とはいえ、ここに長くいて、補充もされないなら、当然いつかは読みつくすだろう。


「・・・・・そりゃ、退屈になるな」


「・・・うん」


残念そうな、寂しそうな顔をみて、なんとなくかわいそうになったので、その頭に手を置いてくしゃくしゃとなでる。


「きゃっ!?・・・・・な」


「んじゃ、別の趣味探さねぇとな、なぁに、今までそういったことに触れてねぇんだから、もっと面白いもんでもあるさ」


初めて会った頃のこいつは本すらまともに読んだこともないぐらい、軍人としての訓練しか与えられていなかった奴だった。親友の趣味の本を興味深げに読んでいるのを見て、何の気はなしに、いくつか廃墟の書店を巡っていくつか本を見繕ってあげたら、はまって今では自分でほしい本を探すぐらいまで楽しんでいる。


笑うことすら知らなかったとは言わないが、楽しむだけの遊びには無縁だったなら、もっと面白いものなどいくらでもあるだろう。


「・・・・・・・・うん」


「そのためにも、生きなきゃなんねぇんだ」


どうせこいつは無茶をするだろう。親友の為、俺の為、仲間の為、民の為、国の為、全くくだらない。そのくだらなさに、思わず言ってしまったのだろう。





「君もだよ?」





その言葉は、投げかけられたくなかった言葉。死ねない誓い。


「ああ・・・・まあ、当たり前だな」


知っている。この誓いに意味などないと。自分の心のドロドロした腐ったとこではない部分が痛んだ気がしたが、顔には出ていないはずだ。


「・・・・・信じるよ」


全く親友もこの子も、なんでそうまっすぐこっちを見るんだか・・・・・


俺はもうその視線を見返せないというのに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ