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ありふれた昔語り2(紹介3)

横からの銃弾が狼をハチの巣にしてそのまま横合いに狼を押し出した。


こちらを狙って突っ込んできた狼の足が鈍る。射線がそれをとらえる。その線は二線、左右から挟撃するかのようにまとまった狼四匹を一瞬で殲滅した。



『っくそ!遅かったか』


レーダーが機体の形状を判断し【玖朔】が二機いることがわかると同時に通信が入る。


『あったりまえだろうが!各地で敗走してんだぞ!わざわざ遠回りして味方助けに行くってどんだけ物好きだ親友!』


『味方が市民を守るために遅滞行動をとる・・・・それを見捨てることができるわけない・・・だろ?相棒』


目の前に現れた玖朔がこちらの機体をかばうように前に出る。その数は二機。


『・・・・・いくら避難民の退路を確保したから・・・・・・手が空いたとはいえ、わざわざ任務外の危機に動くのやめろや、部下殺すぞ。それは』


一機は堂々と、もう一機はさりげなく木々を利用して隠れながら。


『だからおいてきたんだろうが、そもそもお前に指揮を・・・・まあ、いい。どうやら、退却した連中とこいつ以外は全滅か』


『じゃあ、さっさとこいつとともに後退するぞ』


その言葉は当然だと思った。逃げるしかない。だが、ここで逃げるのは正しいのだろうか?

多くの仲間が市民の逃げる時間を稼ぐために死んだ。自分は・・・生き残ったのか?



―我々は国を守るために生かされてきたのだ―


不意に頭によぎった言葉。それは、道理。自分のすべきこと。


仲間は死んだ。何のために?


守るために、その為だけに生きてきた。死んで国を守る刃。それならば。


「まってほしい」


通信を入れる。


「自分は敵を止めなければならない。協力感謝する。退避した味方とともにここから撤退してくれ」


『はぁ!?』


通信機の声が被る。バカなことを言っているのは自分でもわかっている。


「協力感謝する。貴殿は貴軍の任務を全うされよ。我らは国を守る盾となる。市民を守る盾となる・・・・・勇猛なる貴殿達に武運あることを・・・」

 

機体を動かす。ライフルは幸い無事だ。戦える。


『おい!バカ言うな、その機体で何言ってんだ』


その言葉に小さく笑う。優しい人だと、自分を止めようとしてくれる。久しく向けられたことがない声の余韻をしばし楽しむ。


『・・・・・・確かに、逃げ遅れている市民が街の向こうにいるな・・・・・・国を守る盾ならば、民を守る盾ならば・・・・・か、はは、そうだよな』


そう言ってもう片方の機体が小さく頷く。


『おいおい、親友、何考えてるかなんとなくわかるから言うぞ!やめとけ、俺らには無理ださっさとこいつ無理やり連れてって帰る・・・・』


『ここで逃げたら、民を無事に退却する護衛として、味方を見捨てて逃げたことを肯定できないのではないか?相棒・・・』


『!・っ・・・それは違う。どうせ残っても何もできないで飲み込まれるなら、民を守るために動くのは間違ってない!』


『ならば・・・・・・目の前で助けを待つ民は誰が守る?彼らの前に私たちがいる。(われら)がいる・・・・ならば、助けを待つ民を見捨てて何か軍か!』


その口論は、自分には新鮮に聞こえた。


『・・・・・・・われらといってもたったの三機、敵は全貌不明の大集団・・・これで交戦するってぇのか?』


『別に付き合う必要はない。相棒。いや、お前は後退して味方とともに退却を』


『それは断る』


『・・・・すまんな』


『かまわん・・・・だが、あとで殴らせろ。ばかやろうが』


「くく、そうだな、了解だ相棒」


何が起きてるかわからない自分に通信機から呼びかけられる。


『行こう。君と、ここで死んでいった者たちの為に、血路を開いて民の盾となろう・・・私はそのために剣を取った。君も剣を持って戦うのだろう?』


その言葉に込められた強い意志に一瞬言葉に詰まる。


「なん・・・・・・で?・・・・」


『それが、私たち、いや、それが軍だからだ。守るために・・・・・・・大事な者をすべて守りきるために、私はここにいる。ならば、目の前で民の為に戦う大事な同僚と、ともに戦うのが、何が不思議だと?』


『いや、そんな説明でわかるわけねぇだろうが・・・物好きのたわごとだとでも思って聞き流してくれ、どっちにしても俺らのやることは変わら・・・・・』


「あり・・・・がとう」


その言葉に私は引き込まれてしまったのだろう。自分のように与えられた使命などではなく、自らの意志で理想の言葉を、堂々と放つ言葉に、私は・・・・・


『・・・ああもう、こいつらは・・・・・全く目に悪いなぁ・・・・ああ。めんどくせぇ、さっさと行くぞ。そこの木楼、お前は支援に徹してろ、前衛は親友、俺は支援。いつも通り俺は弱いから、任せるぞ親友』



『くく、信頼してるよ相棒』


『はっ・・・・くだらねぇ』


戦おうといった玖朔がブレード(剣)を右手に、左手に56mmマシンガンという、軽装備のまま前に出る。


その背後に普通に56mmアサルトライフルを持った玖朔が後に続く。


加速していく前方の一機に対し、もう一機はゆっくりとうごき、ごく自然な動きで、そのまま森林の中に溶け込むように消えた。


残党を殲滅した化け物の目の前に立つ一機の玖朔に、狼たちが雪崩のように襲い掛かる。


とっさに銃を撃つ


先頭の狼の頭を撃ち抜いた瞬間玖朔が後退せずに前進する。


素早く距離を詰めて牙を向ける狼の口を、剣がとらえてそのまま顔上半分を切断する。と同時に別方向の狼の顔面に向かってマシンガンが火を噴いた。


さらにとびかかる狼の顔を縦に裂いて返す剣が別の狼を切り裂く。襲い掛かっていた狼たちが飛び散るように下がる。狼たちがよく使う。引き付けて亀の砲撃で倒す戦術。だが、最良のタイミングなのに、来るべきはずの砲撃がこない。


後方の亀の陣地が騒がしい。


後方の亀の注意を引くかのようにもう一機の玖朔が牽制程度の銃弾を放ちながら逃げ回る。亀はそれに付きっ切りでどうにもならない。素早く動き回る玖朔に翻弄される亀、狼の支援をしそうになると、絶妙のタイミングで銃撃をつかい注意を引きつつ、逃げの一手。亀は一体も撃破されていないが、こちらに手を出せない状態に追い込まれている。


それを最初から知っているかのように悠然と立っていた玖朔が動き出す。


飛びのいた狼、を全く亀の攻撃を考慮せずに距離を詰め、剣が翻ってまた一体の狼を切り捨てる。


その背後からとびかかった狼の頭を撃ち抜く。とっさにしてはベストな支援だろう。まあ、たぶんこの玖朔だったら、おそらく余裕で対処していただろうが。


『・・・・感謝する』


その言葉に、それは私のセリフだと、小さく笑う。




『だああああああああ!さっさと狼片付けてこいバカ!死ぬってのこれいじょうむ・・・・・だぁああぁああああ』


通信機から悲鳴が聞こえる。悲鳴というよりはやけくそな叫び声、見ると、いまだに亀を引き付けて銃弾の雨をよけながら動き回っている。やばそうなので玖朔を助けるために狙撃の標準を向ける。


『予想以上にうまいな!相棒を助けに行く。支援頼むぞ』


その言葉に頷く。


「まかせて・・・・・」



何とかそのあと数回敵の軍団を退け、市民の後退を確認して逃げる。その間思ったことは一つ。


この人たちは悪い人じゃないということだ。




撤退中の味方の部隊に合流し、機体を降りる。


すでに周りには他の多脚騎士が警戒に入っているので問題はない。

ハッチから出て、よじ下る。整備基地でもないと降りるのに一苦労するのは多脚騎士の弱点の一つだと思う。


自分の仲間は見捨てて逃げた自分に対し、バツが悪いのか哨戒に行ってしまっていない。いるのはテントを張っている兵士と、機体の整備をしている数人、そして、同じく機体から降りた前衛にいた男。


「・・・若いな、それであの腕前か、ともかく助かった。私は」


ガタン!とその言葉を遮るぐらいの大きな音を立てて降りてきたもう一人のパイロット、その姿をとらえたのか、目の前の男が明らかに狼狽する。


「えっと、相棒・・・・怒ってるのか?」


視線の先、先ほど優しげに感じたのが嘘のように胡乱な目でこちらをにらむ男に、一瞬身体が硬直する。


「・・・・・わかってんなら覚悟決めろ、親友」


その言葉に反応するように自分をかばうように手で制する。


「まて、この子は若い。この子の分は私が受けるからここは穏便にぃああああ」


思いっきりきれい殴られる男。そのまま崩れ落ちる。


その視線が私をとらえる。


「お前も少しは自分の事考えて動けバカ野郎」


思いっきり頭に拳骨を食らって私は悶絶するのだった。


そして、一緒に行動する間何度も何度も叱られて、時には殴られて、苦手意識を持ったこともあった。だけど、日常生活を何も知らない私を助けてくれたり、戦場で守ってくれるあの人を見てるうちになんとなくわかった。


彼は、自分の命を軽んじる私とあの人に怒っていたんだということに・・・・


とても厳しいけど、優しく大事にしてくれる。


それは、かつて失った家族のような、孤児院の仲間の一人が懐かしげに語った話に聞く兄のような人なんだと。


主人公が主人公してない。

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