作戦決行二日前、いいあらわせない二人の間
根幹なのに、絡みの少ない二人の話。
作戦決行までたったの二日。
ある者は寝て過ごし、ある者は覚悟を決めるために頭を抱え、ある者はいつもと変わらぬ日常を過ごす。
俺はというと、多脚騎士の腕と武器のセンサーを調整していた。
144mmという巨大な銃口を持つ化け物ライフルを担いでいるのは【木楼型】という狙撃先使用の鈍重な機体である。巨大なライフルを固定するために太く。力強い腕を阿修羅のように四本持ち。そのうち三本をライフルを支えるために使っている。脚部も安定するために八本脚であり。見るからに小回りもきかないことが見て取れる。
ちなみに一応だが玖朔でも装備は可能だが、射撃が安定しないため接近戦でしか当たらないうえ、機動力を大幅に損なうことになる。まあ持ってくるべきだったと以前は言ったが、持ってきてたら確実にやられていただろう。
「オッケー!再設定完了。うごかしてくれ」
俺はコクピットに向かって叫ぶ。腕が動いて銃身が斜め上左右と動く。頭部のカメラも連動したかのように動いている。
『やっぱり、ちょっと変・・・・・設定をRに-33、Sに+23だけずらして』
拡声器からのあの子の声に、見えてはいないだろうが頷く。腕は先ほどと同じ位置で動きを止めている。
「・・・・・・・・・」
ライフルの握りのところにあるコンソールを開いて操作する。本来はコクピットから微調整が可能なのだが、そうすると機体の腕を使って角度を修正してしまうので、銃身のずれの修正が微妙にずれるのである。なので銃身自体の設定を変更する方がしっくりくるらしい。まあ、俺は狙撃なんぞしないから知らんし、全部あの子の言葉なんだが。
設定を言われたとおりにずらして、作業用の床を動かして腕部から離れて先ほどと同じ言葉を飛ばす。動き出す腕。
『・・・・・・・うん。これでいい。ありがとう』
それを数回繰り返して、納得がいったのがそう言うと機体が動きを止める。
機体の調整が終わり、お昼時。
汗をかいていたのでシャワーを浴びて。部屋に戻って私服に着替える。今日は買い物につきあってほしい。と、あの子に言われたので、多少気を使った服を着る。
ちなみに親友は作戦の詰めを他の隊長格や大佐とともに会議室に籠っている。親友に行って来いと言ったら、親友からも、俺に頼んできたのだ。あの子の気晴らしに付き合ってくれと。
正直、この人の気持ちを知らないバカ野郎をぶん殴ってやろうかと思ったが、まあ、提案自体は俺にとって悪いことでなかったのでぐっとこらえた。
なんというか、親友は俺を信用しているのだろう。自分の大事な人を守ってくれると、疑うことなく任せてくる。
全くバカな奴なんだが、それを裏切ることができない俺も。十分バカなんだろう。
とにかく笑って楽しむことにしますか、やること自体はデートのようなもんだ。向こうにそんな気持ちが全くないので少々寂しいが、無理やりそう思うことにしよう。
トラックを運転する彼の様子を見ながらぼんやりと視線をさまよわせる。
ひどくまじめな顔は相変わらず城壁のように変化しない。何を考えてるのかわからない雰囲気をまとっていながら、ふいに視線が合うと、それを無理やり崩して、不器用だが温かみのある笑みで答えてくれる。
それが、不意に陰るように見えるようになったのはなぜなんだろう。
いつ頃からそういう風に感じるようになったのかはわからない。この人は優しいくせにひどく不器用な付き合い方しかできないから、違和感に気づきづらいのだ。
でも、優しい人だというのはわかっている。この人と隊長は私にすごいやさしく、そして厳しい。まるで子供のころの、かすかに覚えている家族のように・・・・・・・・ここが戦場だというのに、願わくば、ずっとこのまま続いてほしいと思えるほどに、今のこの場所は暖かいのだ。
「まったく、てめぇの恋人を他人に任せるなんて・・・・・人の気も知らない野郎だな。そう思わないか?」
そういっていながら、悪くないと、他人が気づかないほど小さな笑みを浮かべているのは、彼もこのおでかけを楽しんでいるからだろう。いつも感じている違和感が薄れて、なんとなくだけど、ぎこちなかったのが、自然になっていく気がする。
「他人じゃないよ」
そう言ったほんの一瞬、彼が微かに笑ったような気がした。
「まあ、そうだな・・・・他人じゃねぇな」
その言葉の何が嬉しいのか、他人でもわかるほどの笑みになって小さくなんども頷いた。
「まったく、人の気も知らんとあんたらはなぁ・・・んで?生活用品と本だったか、相変わらず好きだな・・・・本」
「うん」
たわいもない話だが、久しぶりに違和感のない彼との会話を楽しむ。
それは、本当に久しぶりで、楽しくて、よくわからないけど、すこしの悲しみを感じる。
そんな会話だった。
楽し気なこの子を見つつ。自分も自然に笑えていることに少し驚く。
「まったく、人の気も知らんとあんたらはなぁ・・・んで?生活用品と本だったか、相変わらず好きだな・・・・本」
「うん」
「確か前行ったときは・・・・あいつがへとへとになってたな・・・・て、今回は俺か」
一月以上前の、相棒と二人で買い物に行ってきた後、地下倉庫に止められた軽車両から二十冊以上の本を運んでへとへとになっていた相棒と、同じぐらいの本を持ちながらうれし気に本を運んでいたこの子のことを思い出す。
「嫌なら一人で運ぶからいいよ?」
その言葉が本気なのは知っている。そして、そういえば俺がどう答えるかもわかってるのだろう。
「バカか、まったく・・・・・・頼れよ」
「ごめんね?」
それが、こちらを頼るだけの女だったら願い下げだが、正直、こいつはパイロットして優秀すぎて、こんな時にでも、使ってくれなきゃこっちが頼ってばかりになっちまうのだ。
「んなこと言ったら、俺は常に謝ることになるだろうよ」
友達に頼ってばかりだと、それは友達関係とは言えない。それがお互いにわかってるから、俺はこいつの頼みは無条件できくし、こいつも戦場では俺の頼りになる戦友として立ってくれるのだ。
もう、そういう打算的な関係で切れなくなっていようと、それをいびつな関係にするのは違うだろうから、それをあえて変える必要はない。
「本当に、優しいね」
その言葉に俺は苦笑する。この程度の事を、当然のことを、やさしいと評せるぐらい。こいつは無償で戦っていたんだろうとわかるから、それが悲しいけど、その在り方がこいつの光なんだろうとわかるから、俺はこいつにとって優しい人間だと思わせる。
たとえこの心が汚れきった屑であろうと、目の前のこいつを自分のものにしたいと、無理やりにでもあいつから奪いたいと叫ぶ心を抑えていることも隠して、自然に笑う。
自分の性根の悪さからくるものに、強烈な吐き気を我慢しながら。
主人公の事どう思います?
いい人?
普通の人?
悪人?
書いてる本人がわからないとはねww(涙)