op09:勝者と敗者
「ジェニスさん!」
うつぶせに倒れたジェニスに駆け寄ろうとするミレイの肩を、フェンリアが捕まえる。
「駄目よ。まだ終っていない」
ジェニスの腕が伸び、手から離れた大剣を再び握ると、天羽々斬を杖のように使い立ち上がろうとする。その腹部から血が滴り落ちる。
一方、ウッドは片膝をつき大槍で身体を支えている。左肩から右わき腹にかけて切り裂かれた傷口から溢れ出した血が、足元に血溜りを作る。
ジェニス、ウッドどちらも普通なら致命傷となりかねない負傷を負っている。
それでも2人は立ち上がり向かい合うと、それぞれの武器を構える。
「もう、もうやめてください!」
つかまれた肩を振りほどき、ジェニスの元に駆け寄ろうとするミレイを、フェンリアが背後から抱きしめるようにして捕まえる。
「いやっ! 放して! このままじゃ、死んじゃう!」
フェンリアは無言でミレイを捕まえる腕に力を込めた。
「ジェニス……」
「兄さん……」
ガシャッ、鋼と鋼が打ち合う金属音が響く。1合、2合、3合…… 19合、20合、打ち合うごとに目に見えてスピードが落ちていく。そして、足を止めて打ち合う2人の足元が血に濡れる。
27合、28合…… 29合…… 30合、ウッドがバハムートを構えなおし、笑みを浮かべる。ジェニスもそれに答えるように、天羽々斬を構えた。
だが、31合目はなかった。ふたつの武器は打ち合うことなく地面に突き刺さり、ジェニスとウッドはそのままうつ伏せに倒れた。
「ジェニスさん!」
フェンリアが腕の力を緩めると、ミレイがジェニスに駆け寄り抱き起こした。
「ジェニスさん! ジェニスさん!」
ミレイの呼びかけに答えるように、ジェニスがゆっくりと目を開く。
「天使が見える…… ここは天国か?」
「そんな軽口が叩けるなら、大丈夫よ」
フェンリアが苦笑しながら、ジェニスに癒しの魔法をかける。
「フェンリア様」
「大丈夫、大丈夫、私が死なせないから、ただし1週間は絶対安静、面会謝絶。看護と監視はよろしくね」
ミレイの肩をポンと叩く。そしてウッドの方を見る。
「生きていて? 灼眼の鬼人殿」
「……」
返事もしないウッドに対してため息を吐くと、フェンリアは癒しの魔法を唱える。
「いらん。自分でやる」
「自分で…… できないでしょう? その傷じゃ」
フェンリアは魔法でウッドの傷口を塞いだ。
「とりあえず、あなたも1週間の絶対安静。バハムートは、あたしが預かっておくから」
「俺をどうするつもりだ?」
フェンリアは少し考えてから口を開いた。
「傷が治ったら聖地に戻りなさいな。ジェニス殿の事は忘れてね。その間にこの村をガイア教の正式な保護下に入れるから」
「俺が黙っていう事を聞くと? ……まあいい、今回は言う事を聞いてやる。バハムートは返せよ。お前さんのコレクションに加えられてはたまらん」
フェンリアは笑みを浮かべただけで、そのことについては何も答えなかった。
「ところで、弟に負けた気分はどう? だいぶ毒気を抜かれたようだけど」
「引き分けだ、俺はまだ負けていない」
フェンリアがウッドの言葉に笑いながら首を振る。
「いいえ、灼眼の鬼人殿、貴方の負け。ジェニス殿は『生き残る』という目的を達したけれど、貴方は『ジェニス殿を殺す』という目的を達することが出来なかった。違っていて?」
フェンリアの言葉を聞いてウッドは憮然とした表情をしたが、次の瞬間には晴れやかな微笑を浮かべると、フェンリアにだけ聞こえるような声で呟いた。
「不思議と悪くない気分だ」
op06op07よりop08のアクセス数が2倍近く多いことに頭を悩ませている著者です。なぜ?(笑
勝負の行方は引き分けです。本編の3章にて最終的な決着が付くので2人ともここで殺すわけにはいかないもので(笑
戦う目的を達したという意味では、作中のフェンリアの言うとおり、ジェニス君の勝ちです。
外伝2も残りは後2話。明日あたり一気に更新したいところですが、どうなりますか。