op08:戦う者と見守る者
「覚悟はできたか?」
刃渡りだけで自分の身の丈ほどの大剣『天羽々斬』を担いだジェニスに、ウッドが不敵に笑う。
「兄さんと戦う覚悟はできたよ。そして生き抜く」
ジェニスは『天羽々斬』を構えた。
「よくぞ言った。だが俺は魔族であるお前を殺す」
ウッドが大槍『バハムート』を構えた。
辺りをピリピリとした殺気が支配し、小さな虫の鳴き声すら聞こえない静寂が辺りを包む。
「フェンリア様」
消えてしまったかがり火の変わりに、魔法の明かりを灯しているフェンリアにミレイが不安げに話しかける。
「これはジェニス殿の望んだ事です。私に今できることはありません」
「もし、危なくなったら……」
ミレイの気持ちもわかるが、フェンリアは首を横に振った。
「ミレイ、これは一騎討ち。手を出す事はジェニス殿の誇りを傷つける」
「命よりも大事なの? そんなものが?」
「場合によれば……」
「今がその時なのですか?」
頷くフェンリア。人はただ生きていればいいのではないとフェンリアは思う。何のために生き、何を成そうとし、どう生きるのか。時にはそれを見つけるために、命をもかける必要があるだろう。今、ジェニスにとってその時だ。他の人間に出来ることは見守ることだけ。
「ジェニス殿が生き残れば、祝福を与えましょう。そうでない時は……」
「そんな、フェンリア様」
「だから、あなたは信じてあげて。ジェニス殿の言葉を、生き残ると言った彼を」
穏やかに話すフェンリアの言葉に、ミレイは頷いた。
……ジェニスさん、お願い生きて帰って。
「飛竜撃!」
ジェニスはウッドの強烈な一撃を剣の腹で受け止める。バハムートと天羽々斬の魔力が反発して青白い火花が散る。
「そら、そら、反撃しないと俺は倒せないぞ」
「いつも無口な兄さんが、よく喋るな」
苦しさを隠すために、軽口を叩く。
「戦いはいいぞ。胸が高鳴らないか?血がたぎらないか?」
狂気にも似た表情を張り付かせてウッドが問う。
「俺は、兄さんほどイカレてない」
ジェニスが足を滑らせ、尻餅をつく。致命的なミス。
「運が無かったな。ジェニス」
尻餅をついたジェニスに、ウッドの一撃が襲い掛かる。
「炎の矢!」
少女の声と共にウッドに襲い掛かる炎の矢、ウッドはジェニスへの攻撃を止め、炎の矢をバハムートで貫く。炎の矢はバハムートの魔力により四散した。
「小娘がぁぁぁ!」
ウッドの怒りが、一騎打ちを邪魔した少女の方を向く。バハムートの切っ先が少女に狙いを定める。しかし、バハムートが少女に届く寸前でキーンと澄んだ金属音が響いた。バハムートの穂先を天羽々斬が受け止めている。
「彼女には…… ミレイには手を出すなぁぁ!」
ジェニスが吼えた。そして、お互いに距離を取る。次の一撃で決まる。両者共に胸のうちで確信した。
数瞬の静寂…… そして。
「奥義! 双竜撃」
「奥義! 昇龍斬」
血の華が咲いた……
今回も最後までお付き合いありがとうございました。
剣と魔法の物語と銘打っている割には魔法の登場が少ない(回復魔法ばっかり)本シリーズなのですが、今回はポピュラーな魔法が登場です。
ファイヤーアローは、ロールプレイングゲームなどが好きな人なら聞いたことのある魔法の一つだと思います。
それにしても魔法攻撃すら物理的に防いでしまう魔槍バハムート恐るべし。
ちなみに本世界でのバハムートは、ヨブ記に出てくる怪獣(バハムートは、ヘビモスをアラブ語読みした名称のため、本来は同一存在)や、イスラムの大魚型ではなく、『ファイナルファンタジー』などでおなじみのドラゴン型です。
そのためウッドの技名には『竜』の字が入っています。