op07:隻腕と古の剣
大槍バハムートの穂先がフェンリアの左頬を掠め、切り裂かれたダークブラウンの髪が舞う。
突き出したバハムートで薙ぐウッドの動きを、ソードブレーカーで受け止めたフェンリアの頬から血が一筋流れた。
「剣の神官の名に恥じぬ動きだな」
「嫌味にしか聞こえないわね」
「人が褒めているのだ。素直に喜べばよかろう」
フェンリアがバハムートを渾身の力で押し返す。
「灼眼の鬼人なんて、ふたつ名の割にはおしゃべりな男ね。男は寡黙なくらいがセクシーよ」
「その軽口どこまで続くか楽しみだ」
ウッドが腰を落としバハムートを肩の高さで構える。フェンリアも剣を構える。
「奥義! 双龍撃!」
「不可視の盾を!」
ウッドの大技の発動と同時に、フェンリアが魔法を展開する。次の瞬間、周囲を衝撃波が襲った。周囲を照らし出していたかがり火も掻き消え、周囲に闇が落ちる。
「光よ。闇を退けよ」
ジェニスの声と共に、コモンと呼ばれるアイテムを利用した魔法の光が闇を照らし出す。
照らし出された闇の中から、肩で息をして剣を杖代わりに立つフェンリアと、涼しい顔をしたウッドの姿が浮かぶ。
奥義双龍撃と魔法の盾の激突、ウッドの双龍撃に軍配があがったようだ。
「ジェニス、覚悟は出来たのか」
ウッドがフェンリアから目を離さずにジェニスに問う。
「ウッド兄さん。僕は戦って生き残ることにしたんだ」
「ちょっと待ちなさい。そんな無茶を言わないで」
フェンリアが慌てて口を挟む。今のジェニスは普通に動くこともままならない状態なのだ。そしてその相手は、『灼眼の鬼人』。戦う前から結果は見えている。
「元々、我ら兄弟の問題。フェンリア殿には口出ししないでもらおうか」
「フェンリアさん、すみません。しかし、決着は自分でつけたいのです」
どうも、止めるのは不可能なようだ。フェンリアはため息を吐く。
「ミレイに、支えられている状態で言うセリフではないわよ」
フェンリアはウッドに向き直る。
「すこし、時間をもらえないかしら? それとも、武器を持たない人間を嬲るのが趣味かしら?」
「5分待とう。それでよいな」
「充分よ。ミレイ、2人ほど連れて私の荷物から一番大きい剣を持ってきて」
ミレイが頷いて駆けていく。
「ほら、貴方はここに座って、まったく無茶するんだから……」
フェンリアはジェニスの身体に手をかざす。
「ガイアよ。戦いに赴く者に、癒しの力を」
フェンリアの手が輝き、癒しの魔法が発動する。
「どう?」
ジェニスは身体を動かしてみる。
「大分、動くようになりました。ありがとうございます」
「でも好調とも言えないでしょ。魔法も完璧な力じゃないから、その辺は我慢して」
「いえ、充分です」
ミレイ達が3人がかりで2.5mはある、古ぼけた大剣を運んできた。
「何ですか? このごつい剣は?」
「古の神の剣。旅の途中にある遺跡で見つけたのだけど、私は剣に選ばれなかった。貴方ならどうかな。と思って……」
フェンリアは剣にまかれた布を解く。ジェニスは剣から立ち上る魔力に息を呑んだ。
「どうすればいいのですか?」
「持ってみればわかるわ」
ジェニスは恐る恐る剣の柄を握った。すると剣が淡い光を放つ。剣を持ち上げてみると軽々と持ち上がった。
「か、軽い」
「剣に認められたようね。銘は『天羽々斬』。私にできるのはここまで…… 後はジェニス殿次第」
「フェンリアさん、充分です」
ジェニスは剣を握り直し立ち上がった。
読んでくれた方に感謝。
今日は早く帰れたので更新できました。
なんやかんやでこのお話も残り5部くらいです。毎日更新できたらあと5日分。がんばろう。
さて、本作で古の神の剣と設定している『天羽々斬』は、日本神話に登場する剣です。
須佐之男命 が八岐大蛇 退治に使用した剣で、剣種としては十拳剣、柄の部分が十握ある剣です。
須佐之男命の前の所有者であるイザナギが子である火之迦具土神 を斬殺した剣でもあります。
形状自体は実物も無く記録も無いため不明ですが、柄の長さから大剣ではなかろうかと推測できます。
名前の意味は、天が尊称、羽々(はば)が大蛇を示し、『大蛇を斬った剣』という意味になります。




